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  • 2019/03/05 掲載

ドイツ「労働4.0」とは何か? なぜインダストリー4.0で労働が問題になるのか

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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第4次産業革命においてIoTや人工知能(AI)などのデジタル技術の活用が取り上げられる中、新たな技術が既存の労働者の職を奪っていくといった懸念が広がっています。インダストリー4.0を提唱するドイツでも、「労働4.0(Arbeiten 4.0)」として、こうした懸念に対応するための動きが加速しつつあります。そこで、今回は、第4次産業革命の新技術と労働者との関係を取り上げます。
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AIやロボティクスが労働に与える影響は大きい
(© zapp2photo - Fotolia)

第4次産業革命の新技術による労働への影響

連載一覧
 年に1度、スイス・ダボスで開催されている世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)の年次総会(通称「ダボス会議」)において、2016年の主要テーマとして「第4次産業革命の理解」が取り上げられました。

 2016年のダボス会議では「The Future of Jobs」に関する報告があり、2020年までに世界15の国と地域で約710万人が職を失う一方、200万人の新たな雇用が創出されるとの見通しが発表されました。

 続く2017年の同会議のテーマは「Responsive and Responsible Leadership」。ここでは、IoT、AIやロボット技術などを軸とする第4次産業革命をどう進めるかが議論されました。その中で注目すべきことは、新技術によって職を失い技術革新から取り残された人々の強い不安が、世界的なポピュリズムの高まりにつながっているのではないか、という問題意識が共有されたことです。

 このように、情報技術などの発達がもたらす恩恵だけでなく、雇用への悪影響が議論されるようになる中、企業の経営者からも情報格差を解消する若年層向け教育などの人材育成や、先端技術の透明性を高めるといった環境面の取り組みが必要であるとの指摘が相次ぎました。新技術のロードマップをしっかりと示し、良い点も悪い点も隠さず利害関係者と共有することの重要性が議論されています。

加速するドイツの労働問題への取り組み

 ドイツのインダストリー4.0推進団体である「プラットフォームインダストリー4.0」のワーキンググループ(WG)にも「労働職業教育・継続教育」があり、産業界におけるデジタル化の進化に伴う労働問題に取り組んでいます。

 また、同団体でも「労働の未来」に関する研究がさまざまな形で行われており、「労働4.0(Arbeiten 4.0)」として包括的に変革を捉える動きも加速しつつあります。労働組合、学術界、政府がともに課題解決に向けて参加する仕組みが組織されています。

 新たな働き方の在り方を描き、対策や取り組みを明確化することの重要性が認識されつつあるといえます。

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新しい「働き方の在り方」を模索する必要がある
(© zapp2photo - Fotolia)

「労働4.0」に示された8つの政策アイデア

 ドイツ連邦労働社会省は2016年11月に、白書「労働4.0」を発表しました。これは前述のように労働問題への取り組みが重要視されるようになったのを受け、連邦労働社会省(BMAS)で2015年4月から始まった対話プロジェクトの成果をまとめたもので、インダストリー4.0を見据えたデジタル化時代の労働・社会政策の在り方を対象としています。

 この白書には以下の8つの政策アイデアが示されています。

8つの政策アイデア
1就業能力失業後に手当てや支援を受けながら再就職を目指す失業保険だけではなく、失業前から継続的な職業訓練を行ってスキルアップし失業リスクを減らすという能動的かつ予防的な労働保険へのシフトの必要性が指摘されています。
2労働時間デジタル化により、労働する時間や場所の選択の柔軟度が向上する中、各労働者の自己決定権を尊重する必要性が指摘されています。労働の柔軟度の向上が雇用主と労働者の利害の一致をもたらすとは限らず、労働者の仕事と生活の両立を支える施策、つまり個人のライフステージに応じた労働の柔軟性向上の要請に応えるための対応が必要だとしています。
3サービス業良質な労働条件を維持、強化する必要性が指摘されています。インダストリー4.0は製造業を中心とした政策ですが、デジタル化の波はそれ以外の多くの産業に影響を与えます。例えばオンデマンドサービスの分野では、ユーザーにとっての利便性を高める方向にサービスが改善される傾向がありますが、これが逆にサービス従事者の労働条件の悪化をもたらす可能性があり、こういった動きに対処するために社会的な合意形成が必要だとしています。
4健康な仕事「安全衛生4.0(Arbeitsschutz 4.0)」の取りまとめの必要性が指摘されています。少子高齢化やデジタル化の進展により、労働による身体的ストレスだけでなく精神的ストレスの問題にも焦点をあてる必要があり、この原因と労働者の健康に与える影響を把握する必要があります。ドイツでは、政府・州・労災保険団体などの関係者が参加するプラットフォーム「共同ドイツ労働保護戦略(GDA: Global Development Alliance)」においてさまざまな検討が行われており、この成果を「安全衛生4.0」としてとりまとめ、検討成果の共有と改善につなげていくとしています。
5データ保護デジタル化とともに、データ保護の重要性が高まっており、高水準なデータ保護施策の確保の必要性が指摘されています。2018年にEUで発効されたGDPR(General Data Protection Regulation)に沿ったドイツ国内法の整備と関連法案制定の必要性について検証するとともに、データ保護のための指標を開発し、データ保護に努めていくとしています。
6共同決定と参加労働組合と雇用主の間での労働条件などの決定のためのパートナーシップの構築の必要性が指摘されています。ドイツ連邦労働社会省は、制度の持続に向けた支援を行うとしています。
7自営業者の保護自営業の自由度を高めつつ、保護する施策の必要性が指摘されています。デジタル化によって、交渉力の弱い下請業者と自営豪奢の境界線がますます曖昧になると考えられています。デジタル技術の普及により近年増加しているクラウドワーカー(企業外で働く手法で、企業が業務の一部を外部化(クラウド化)する形態)の属性や規模を把握することが必要であり、統計収集方法を改善する必要があるとしています。
8社会福祉国家未来の展望を描くことや、EU諸国と対話することの必要性が指摘されています。デジタル化時代の社会福祉国家にとって重要なのは、この時代特有の市場経済に順応することであるとともに、国民に対して十分な社会保障制度を提供し、安定した将来性のある解決策を提供することです。そのためには、財政・課税・税控除などの制度をデジタル化時代に適した持続可能なものへ改正し、不平等や格差を最小にすることが必要であり、労働者の就労能力を生涯にわたり発展・安定させるための教育・訓練支援などを充実することも必要です。このため職歴によって発生するさまざまな権利(例えば、職業訓練の受講可能時間など)を生涯にわたり労働者が保有できる制度である「個人就業口座(Das Personliche Erwerbstatigenkonto)」の創設が考案されています。


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