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2023年6月、資源エネルギー庁は「
2023年版 エネルギー白書 」を公開しました。エネルギー白書とは、毎年エネルギー庁が発行しているエネルギー政策基本法に基づく年次報告で、今年で20回目となります。本記事では、250ページ超に及ぶ「2023年版 エネルギー白書」の中から、「第1部 エネルギーをめぐる状況と主な対策」のうち「第2章 エネルギーセキュリティを巡る課題と対応」「第3章 GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けた課題と対応」の内容を取り上げ、GXに向けた課題と対応を中心に考察します。
脱ロシアが進む? 各国のエネルギー調達の最新事情
2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの侵略を契機に、世界のエネルギーを取り巻く情勢は混迷を深めるとともに大きく変化しました。エネルギー価格は2021年から上昇傾向にありましたが、2022年にはさらに高騰し、世界各地の天然ガス市場では過去最高値を記録しました。
こうした地政学的リスクを起因とする世界のエネルギー情勢の変化は、短期的なエネルギーの需給ひっ迫や価格高騰を引き起こしただけでなく、中長期的にもエネルギー市場への影響を及ぼすことが予想されています。
ロシアによるウクライナ侵略を受け、EUやG7をはじめとする欧米諸国を中心にロシアに対する大規模な経済制裁が行われることとなりました。その中で、エネルギー分野においてもロシア産エネルギーからの脱却へと舵が切られ、世界のエネルギーの需給構造を大きく変化させる一因となりました。各国のエネルギー情勢に与えた影響は、それぞれの国の一次エネルギー自給率や、石油・天然ガス・石炭のロシアへの依存度によって大きく異なります。
日本・欧米のエネルギー自給率
下記の図表を見ると、G7各国の一次エネルギー自給率や各エネルギーのロシア依存度を見ると、欧州諸国は、ロシアと地続きであることもあり、ロシアへの依存度が高くなっていたことが分かります。ドイツやイタリアはパイプラインを用いてロシアから天然ガスを輸入していたこともあり、天然ガスのロシア依存度がそれぞれ43%、31%と高くなっていました。
そのほかのエネルギーに関しても、欧州諸国のロシアへの依存割合は高く、ロシアに対する経済制裁によってロシア産エネルギーから脱却していくに当たって、代替エネルギーの確保が迫られることとなりました。
一方、日本の1次エネルギー自給率は13%であり、ロシアへの依存度は石油4%、天然ガス9%、石炭11%となっています。
ウクライナ侵略の発生後2週間以内に、米国ではすべてのロシア産エネルギーの輸入禁止の方針が示され、英国でもロシア産原油の段階的な輸入禁止の方針が示されました。EUでは、2022年3月にロシア産エネルギーからの脱却の方針を示した「REPowerEU計画」が発表されました。
その後、侵略の長期化に伴いG7は、「ロシア産石油の輸入のフェーズアウトまたは禁止などを通じて、ロシア産エネルギーへの依存状態をフェーズアウトすることをコミットする」ことに合意しています。
なぜ価格が高騰する? 各国のLNG調達戦略
欧州では、ロシアからパイプラインで輸入していた天然ガスの代替エネルギーとして、特にLNG(液化天然ガス)への需要が急激に高まり、世界中のLNGの市場価格が急騰しました。その結果、これまでも主要なエネルギー源としてLNGを輸入していたアジア諸国など、ロシアへのエネルギー依存度がそれほど高くなかった国でも、LNGの需給ひっ迫やエネルギー価格高騰などの影響を受けることとなりました。
LNG需要の要所の1つであるアジアのLNG市場にも大きな影響を及ぼしています。これまで極東のLNGスポット価格指標であったJKM(Japan Korea Marker)は、主に中国の経済動向や生産状況に連動して変動していましたが、2022年以降は中国ではなく、欧州における天然ガス価格指標であるTTF(Title Transfer Facility)との連動性が高まっています。
ドイツでは天然ガスの輸入物価が一時10倍近くまで急騰しました。日本でも約2倍に上昇し、この結果、電気料金などが高騰し、オイルショック以来のエネルギー危機が危惧される緊迫した事態に直面しています。
LNGを輸入している世界各国では、LNGの安定的な確保に向けて政府が積極的に関与しています。今回LNGの輸入量を大きく増やした欧州諸国だけでなく、アジアでも中国や韓国は、脱炭素社会の実現に向けた取り組みと並行して、エネルギー安定供給のための国家戦略に基づき、国営企業を中心にLNGの長期契約の交渉・締結を進めています。
なぜ不足する? 日本特有の電力問題
日本では、ロシアのウクライナ侵略による影響とは別に、電力の需給ひっ迫という事象も発生しました。
2022年3月には、東京電力管内(東京エリア)・東北電力管内(東北エリア)で、福島県沖地震などによる発電所の停止、真冬並みの寒さによる需要増加、悪天候による太陽光の出力減少、冬の高需要期を過ぎたことによる発電所の計画的な補修点検などが重なり、電力需給ひっ迫警報が発令されました。
2022年6月にも東京エリアで、真夏並みの暑さによる需要増加、夏の高需要期を前にした計画的な補修点検などが重なり、電力需給ひっ迫注意報が発令されました。
これらの状況を受けて、政府、電力広域的運営推進機関、事業者は、発電所の出力増加、地域間での機動的な電力融通、デマンド・レスポンス(DR)など、電力需給を緩和させるための取り組みを行っています。
【次ページ】各国のカーボンプライシング設計の違い、脱炭素に向けた「数値目標」を解説
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