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  • 2023/06/27 掲載

「2023年版 ものづくり白書」要点まとめ、製造業を脅かす“事業リスク”を10分完全網羅

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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経済産業省、厚生労働省、文部科学省は2023年6月、ものづくり企業や技術の動向について毎年取りまとめている「2023年版 ものづくり白書」を公開しました。ものづくり白書は、政府がものづくりの基盤技術の振興に向けて講じた施策に関する報告書であり、2001年に発刊されてから今回で23回目となります。本記事では250ページ超に及ぶ「2023年版 ものづくり白書」の中から、注目すべきポイントを紹介します。
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「2023年版 ものづくり白書」の要点を解説する

製造業の生産活動を妨げる「5つのリスク要因」

 本白書では、日本の製造事業者の生産活動に影響を与えるリスク要因が複雑化している、ということが述べられています。実際に、新型コロナの感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻などが、原材料価格やエネルギー価格の高騰、部素材不足、物流の混乱によるグローバルサプライチェーンの分断などをもたらし生産活動に大きな影響を与えています。

 そうした中で、日本の製造業においては、調達先の把握や生産拠点の変更・拡充といった、サプライチェーンの強靭化、安定化が課題であると、本白書では指摘されています。

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製造業に影響を与えるリスク要因
(出典:2023年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年6月〉 図510-1)

 このようなリスクの影響を避けるため、調達先や生産拠点、生産計画の変更・拡充など、グローバルサプライチェーンの見直しに取り組む製造事業者が増えています。

 また、サプライチェーンにおける脱炭素化や人権保護に向けた取り組みに対する世界的な気運の高まりを受け、これまでのコストや効率性のみを重視した生産活動を見直さなければならない状況にあり、今こそ企業の枠を越え、サプライチェーン全体で取り組む必要があるとしています。

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地政学リスク・社会情勢の変化により影響を受けたサプライチェーンの活動
(出典:2023年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年6月〉 図510-2)

今、製造業は何に1番投資しているか?

 本白書では、これらの実現に向けてはデジタル技術による事業者全体の取り組みの可視化・連携が重要であるとしていますが、現時点でデジタル技術への取り組み状況はどうなっているのでしょうか。

 製造業の有形固定資産投資の目的について、2020年と2022年を比較すると、いずれの年においても「老朽設備の更新・補強」、「生産設備の更新」といった設備の維持更新が多くなっているものの、2022年は2020年と比べて、「旧来型の基幹システムの更新や維持メンテナンス」、「DX関連(工場のIoT化等)」といったシステム化やDX関連の設備投資に加え、「脱炭素関連」が大きく伸びています。

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2020年と2022年における設備投資の目的(有形固定資産)
(出典:2023年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年6月〉 図300-13)

脱炭素意識はどれくらい高いか?

 日本の製造事業者に、サプライチェーンの安定化に向けた取り組みについて聞いた結果をみると、これまで実施してきた取り組みとしては、調達先の分散や国内生産体制の強化といった項目を挙げる企業が多かったのに対し、これから実施する取り組みとしては、過半数の大企業が「脱炭素への対応」を挙げています。

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サプライチェーンの安定化に向けた取り組みの内容
(出典:2023年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年6月〉 図533-1)

 前年と比較した脱炭素に向けた取り組みの重要性の変化については、重要性が「大きく増している」または「増している」と回答した割合は中小企業で約3割、大企業では約8割となっています。また、その背景としては、大企業、中小企業ともに、「企業イメージの向上のため」と「顧客企業(BtoB)からの要請」の割合が大きくなっています。

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前年と比較した脱炭素に向けた取り組みの重要性の変化
(出典:2023年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年6月〉 図533-2)

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重要性が高まっている要因
(出典:2023年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年6月〉 図533-3)

何が変わった? 製造業ビジネスの新しい常識

 これまでの製造業のものづくりは、グループ関係を軸とした企画、設計、製造一体の垂直統合型の取り組みが中心であり、最終製品を製造するメーカーが企画、設計、製造までの能力を保有し、サプライチェーン全体を統制するケースが多かったと言えます。

 DXの進展に伴い、製造業では最終製品や部品を製造するメーカーから、製造や設計などの一部の機能が切り出され、それらの機能が企業や業種を越えて提供されるといった動きが始まっています。こういった動きにより、規模の経済を生かしてコスト優位性を実現したり、技術的専門性を生かして設計の高度化を実現するプレイヤーが現れるなど、垂直統合型から水平分業型へのビジネス環境変化が進んできています。

 標準化、デジタル化を進めることで、製品設計、生産ライン設計や現場のオペレーションを形式知化し、これらをサービスとして製造事業者に販売する事業者(サービス事業者)が登場するなど、デジタル技術の発展により、水平分業への流れが加速しています。

 サービス事業者は、設計、製造、経営計画管理といった各プロセスを支援するサービスを保有し、それらを相互に連携させることで、ほかの製造事業者の生産性向上や温室効果ガス排出量の削減に資するサービスを提供しています。また、サービス事業者は、自身のサービスを効率よく幅広い製造事業者に展開するための仕組みの整備も行っています。

 さらに、製造業における変化として、サプライチェーンの見える化・ダイナミック化が挙げられます。サプライチェーン全体で温室効果ガス排出量や人権保護などの情報を把握することも求められています。このようなサプライチェーンの全体最適化に向けては、企業を超えたデータ連携の枠組みが重要となります。

 欧州では、「GAIA-X」上のユースケースとして自動車産業に関わる企業間のデータ連携プラットフォームである「Catena-X」が発足し、2023年4月に運用を開始しています。その中心であるドイツは、今後製造業の競争力を強化するに当たり、自国内で製品の製造・輸出を行うだけではなく、高品質な製造ソリューションの世界有数の輸出国として、国際的な地位向上を目指していると思われ、動向を注視する必要があります。 【次ページ】製造業の深刻な人材育成の問題、他産業より何がヤバい?
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