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  • 2021/07/01 掲載

「2021年版 ものづくり白書」ポイントまとめ、300ページを10分で理解

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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経済産業省、厚生労働省、文部科学省は2021年5月、ものづくり企業や技術の動向について毎年取りまとめている「2021年版 ものづくり白書」を公開しました。ものづくり白書は、政府がものづくりの基盤技術の振興に向けて講じた施策に関する報告書であり、2021年版では、ニューノーマル時代の製造業が生き残るための3つのポイントについて詳しく説明されています。300ページ超におよぶ同白書の中から、注目すべきポイントを抜粋して紹介します。
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「2021年版ものづくり白書」の要点を整理した
(Photo/Getty Images)

ニューノーマル時代の製造業、3つの重要ポイント

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本記事は印刷や閲覧のしやすいホワイトペーパー(PDF)形式でも提供しています(画像をクリックするとダウンロードページが開きます)
 「2021年版ものづくり白書」では、ニューノーマル時代に製造業が生き残りを懸けて経営戦略を構築・実施するにあたって、「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」の3点を重要なポイントと位置付けています。

 「レジリエンス」とは、将来発生し得る危機事象や環境変化に柔軟に対応することを指します。社会の不確実性が高まる中で、着実に事業を継続することが不可欠である点から重要視されています。近年は自然災害だけでなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによるサプライチェーンに対するリスクが顕在化しました。各企業が、自社のサプライチェーンのリスクを把握し、ビジネスが阻害されないように備えることが求められています。

 「グリーン」とは、カーボンニュートラルへの対応の重要性が高まっていることを示します。日本を含め世界の国々は今後、カーボンニュートラルの実現を目指すと表明しています。その実現に向けて各国やグローバル企業の取り組みが進みつつある中、日本の製造業もビジネス継続に向けて、そうした取り組みや考え方を理解し、適切に対応する必要があります。

 「デジタル」とは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みをさらに深化する必要があることを示します。多くの企業においてDXへの取り組は道半ばと言えます。自社がバリューチェーン上で担っている役割や、そこで管理すべきデータなどを的確に把握することで、効率的かつ戦略的なDX投資に踏み切ることが求められます。

レジリエンス強化による「サプライチェーンの強靭化」

 日本におけるサプライチェーンのリスクとしては、従来は自然災害によるものが中心でした。近年では、危機意識の高まりから「BCP(事業継続計画)」を策定する企業も増加しています。
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BCP策定状況(左:2016年、右:2020年)
(出典:2021年版ものづくり白書 図121-2,121-3)

 2020年に発生した世界的なパンデミック(新型コロナ)は、従来の自然災害のような局所的な被害ではなく、世界全体のサプライチェーンに影響を及ぼしました。多くの国や地域で、ヒトやモノの移動制限が実施されました。

 製造業において新型コロナに起因して支障を来(きた)した業務内容は、営業・受注という需要面の影響が最も大きいものの、生産活動、調達、物流・配送などの供給側にも影響が出ており、サプライチェーン全体に影響が及んでいることがわかります。
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新型コロナウイルス感染症の感染拡大に起因して支障を来した業務内容
(出典:2021年版ものづくり白書 図121-5)

 2021年版ものづくり白書によると、調達活動に影響した要因として最も多く挙げられたのが「代替調達の効かない部材の存在」でした。
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新型コロナウイルス感染症の感染拡大により調達活動に影響が生じた要因
(出典:2021年版ものづくり白書 図121-6)


 生産活動に何らかの影響を受けた企業は8割に達し、その中には、一部の生産ラインが停止したり、工場の操業停止に追い込まれた企業も出ています。

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調達活動への影響による生産活動への影響
(出典:2021年版ものづくり白書 図121-8)

 また、同白書では「レジリエンス強化には、サプライチェーンの強靭化が必要である」と説いています。サプライチェーン全体のレジリエンスを強化していくためには、自社の1次サプライヤーだけでなく、2次サプライヤー以降も含めたサプライチェーン全体を把握する必要があります。

 しかし、現状の調達先の把握状況を見ると、部品や部材を直接購入している調達先(1次サプライヤー)だけを把握している企業が半数以上であり、調達先の情報を定期更新していない企業も半数以上を占めているようです。
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調達先の把握状況(左)、調達先の情報の定期更新の実施状況(右)
(出典:2021年版ものづくり白書 図121-10,121-11)

 また、調達先を把握する上での課題としては「調達先が多すぎる」「調達構造が複雑」といった理由が挙げられています。これらの課題への対応としては「デジタル技術の活用」が解決策となると考えられます。2021年版ものづくり白書では、1次だけでなく2次以降のサプライヤーもシステム上で管理することで、被害状況の把握に要する日数を大幅に短縮した事例なども紹介されています。

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調達先を把握する上での課題
(出典:2021年版ものづくり白書 図121-13)

 さらに、「拠点間を結ぶ物流」の課題も顕在化しています。貨物輸送量の需要増加の中で、トラックドライバー数は減少傾向で推移しており、このままでは「2030年には需要量の3割以上が運べなくなる可能性がある」と推計されているのです。

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営業用貨物自動車の需給バランス
(出典:2021年版ものづくり白書 図121-14)

 物流課題の解決は、単独の企業で進めることは難しいのが現状です。そのためには「複数企業間でデータを共有し、共同輸送や巡回輸送による効率化、輸送資材や業務プロセスの標準化による効率化を進める」ことが必要です。これらの取り組みを拡大することが、レジリエンス強化につながるものと考えられます。

 今後、世界的な不確実性の高まりが想定される中、産業に必須な希少資源の確保や「循環経済(サーキュラーエコノミー)」の重要性も再認識されています。循環経済とは、廃棄されていた製品や原材料などを新たな資源と捉え、廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済の仕組みを指します。

 また、カーボンニュートラルやDXの取り組みが急速に進展する中では、関連する製品やサービスの品質向上に重要な役割を果たす「半導体や蓄電池、各種マテリアルなどの確保」が重要となります。

 2021年版ものづくり白書では「デジタル技術の活用やサプライチェーンの構築・強靭化による国内生産基盤の構築が、国際競争力強化に直結することを認識し、サプライチェーンのレジリエンス強化を産学官一体となって進めていくことが必要である」と説いています。

【次ページ】製造業の生き残りのための「グリーン」と「デジタル」ポイントまとめ
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