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経済産業省、厚生労働省、文部科学省は2022年5月、ものづくり企業や技術の動向について毎年取りまとめている「
2022年版 ものづくり白書」を公開しました。ものづくり白書は、政府がものづくりの基盤技術の振興に向けて講じた施策に関する報告書であり、2001年に発刊されてから今回で22回目となります。本稿では250ページ超におよぶ「2022年版 ものづくり白書」の中から、注目すべきポイントを紹介します。
製造業を取り巻く「外部環境」、経営者が警戒するリスクとは
本白書では、昨今、外部環境が大きく変化していることが指摘されています。具体的には、新型コロナの感染拡大をはじめ、サプライチェーンリスクに伴う半導体・部素材不足の問題、カーボンニュートラルへの取り組みやDXの加速などが挙げられています。
こうした情勢変化による事業への影響について、事業者の認識を調査した結果を見ると、事業に影響し得る社会情勢変化として、2020年度に行われた調査結果では「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」が約8割と突出していますが、2021年度の調査結果では、「原材料価格の高騰」「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」「人手不足」「半導体不足」の4項目の回答が約半数に達しており、中でも「原材料価格の高騰」と「部素材不足」の割合は2020年から大きく増加しています。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に加え、原材料価格の高騰や部素材不足などの社会情勢の変化が事業に及ぼす影響が大きくなっていることが分かります。
現状と課題(1):サプライチェーン強靭化
新型コロナをはじめとした社会情勢の変化がサプライチェーンに影響を及ぼし、原材料価格の高騰や部素材不足のような影響として現れる中で、サプライチェーンの強靭化が一層重要となっています。
強靭なサプライチェーンの構築に向けた今後の取り組みに関する調査では、約半数の企業が「調達先の分散」を挙げており、また、「国内生産体制の強化」、「標準化、共有化、共通化の推進」の割合が多くなっています。
さらに、2020年度に行われた調査と比較すると、「国内生産体制の強化」が約2割から約4割に増加しています。世界的な半導体不足などにより生産活動が影響を受ける中で、国内サプライチェーンの強靭化に対して、より多くの経営資源を投入しようとする事業者が増加していることがうかがえます。
現状と課題(2):カーボンニュートラル
年限付きカーボンニュートラルを宣言する国・地域は世界に150ほどありますが、2021年にはこれら国・地域のCO2排出量が全世界の排出量の9割を占めるまでに高まっています。こうした状況を受け、各国の気候変動政策は大きく進んでいます。
具体的には、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会合)の開催や各国政府の取り組みに加え、各産業分野の民間企業が参加するイニシアティブの立ち上げや、金融機関が企業などに対して気候関連リスクなどに関する情報開示を推奨するフレームワークの改訂などが行われています。
こうした中、本白書では産業部門におけるカーボンニュートラルとその市場形成に向けた企業主導の取り組みが求められていると指摘しています。
カーボンニュートラルへの取り組みに対する製造事業者の認識に関する調査によれば、カーボンニュートラルへの取り組みの必要性について、「大きく増している」および「増している」の割合は約3割に上ります。
また、カーボンニュートラルの実現に向けて、「製造工程におけるCO2 排出削減」、「CO2 排出量の見える化」、「再生可能エネルギーの導入」など、さまざまな具体的な取り組みが進められていることも分かります。
こういった中、サプライヤーも含めたサプライチェーン全体の脱炭素化やCO2排出量・削減量を可視化する取り組みが国内でも拡大しており、中小企業における、
スコープ3を含めた排出量削減の取り組み事例なども紹介されています。
また、生産プロセスの革新や燃料の転換などが必要な素材産業における2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、技術開発や設備投資の資金の確保が課題であるとしています。
このようなカーボンニュートラル実現に伴う追加コストの負担のあり方も課題であり、素材産業の将来像を共有し、素材に限らないさまざまな分野での変革を全体最適で進めるべく、有識者会議での検討を進めています。
現状と課題(3):人権尊重
2021年版ものづくり白書では、欧米諸国を中心に、企業に対して、サプライチェーン全体で人権尊重の取り組みを求める動きが進んでいることが述べられています。その後も、欧米諸国を中心に、企業活動における人権への負の影響を特定し、それを予防・軽減させ、情報発信をする「人権デュー・ディリジェンス(DD:Due Diligence)」の実施を義務付ける法律の成立など、具体的な動きが見られています。
こうした中で、日本でもサプライチェーンにおける人権尊重のための業種横断的なガイドライン策定に向けた検討が進んでいます。2020年10月に「ビジネスと人権」に関する行動計画が策定され、その中で、規模や業種などにかかわらず、日本企業に対して人権DDの導入促進を期待する旨を表明しています。
経済産業省と外務省は、2021年11月、この計画のフォローアップの一環として企業の取り組み状況を把握するため、日本企業のビジネスと人権への取り組み状況に関する、調査の結果を公表しています。これによると、売上規模が大きい企業や、海外売上比率が大きい企業では人権に関する取り組みの実施率が高い傾向にあることが分かりますが、全体としては、人権DDの実施率は約5割程度にとどまっています。
また、人権への取り組みの実施率が高い企業ほど、国際的な制度調和や他国の制度に関する支援を求めています。特に海外事業を展開する企業には、事業実施国の法令遵守だけでなく、国際的な基準に沿った事業活動が求められており、一層の取り組みを進めることが必要です。
【次ページ】現状と課題(4):DXによる競争力向上
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