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  • 2020/11/27 掲載

「DX人材」3つの論点を解説、能力・採用・組織風土はどうするべきか?

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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以前DX調査のコラムでも述べたように、日本の企業にはDXがもたらす効果は既存の業務プロセスの効率化だと捉えている人が未だ多いと考えられますが、DXの本質は、自社の立ち位置と提供価値そのものを進化・変化させることにあり、ビジネスモデルの刷新やエコシステムの構築などを含むイノベーションこそが、その狙いです。今回は、こういった、既存の業務プロセスの改善の延長線上にはない変革を進めるための人材、組織・体制、推進方法について考察します。

執筆:東芝 福本 勲

執筆:東芝 福本 勲

東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行うコアコンセプト・テクノロジーなどのアドバイザーをつとめている。

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DXの成功には、DX人材が不可欠だ
(Photo/Getty Images)


デジタル化の実現手段にこだわるとDXは実現できない

 DXを推進しようとする企業が最も避けなければいけないのは、DX推進を急ぐあまり、IoTやAIなどの「デジタル化の実現手段」を既存のビジネス領域で活用する場所や方法を探しはじめてしまうことだと考えます。

 GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)などのデジタルディスラプターが新たなデジタル技術を活用したプラットフォームビジネスで世界のさまざまな市場を席巻している姿を見ると、デジタル化の実現手段にとらわれがちになるのもわかります。

 しかし、重要なのは「どんなビジネスモデルを目指すのか」という、トランスフォーメーションの先にある未来であり、イノベーションです。「IoTを導入したい」「AIを活用したい」と言う企業もいますが、重要なのはIoTやAIを使って「どうなりたいか」というビジネス戦略を考えることなのです。

 そして、その戦略を考えるのは「人」です。実際の所、その戦略を実現するために最適な手段はIoTやAIではなく、別の手段かもしれません。

 ITRの「国内IT投資動向調査報告書2020」においても、主要なIT動向の重要度指数で最上位となったのは「全社的なデジタルビジネス戦略の策定」であり、上位5項目の中に「従業員のモチベーション管理の実施」「デジタル人材の新規採用」など、人材に関する項目が並んでいます。

 すなわち、DXの成功を決めるのは「手段」ではなく、「ビジネス戦略」とそれを考える「人」であり、「DX人材」の確保・育成こそがDX成功のカギであると考えます。

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主要なIT動向の重要度指数と現在および2022年度の実施率予想
(出典:ITR 「国内IT投資動向調査報告書2020」)



論点1:DX人材に求められるケイパビリティは?

 ではDX人材にはどのようなケイパビリティ(能力・強み)が求められるのでしょうか。

 もちろん、デジタル技術に関する知識やスキルは必要となりますが、これらは教育によって習得可能です。筆者は、DX人材に求められるケイパビリティとして重要なのは、「知の探索」や「ゼロベース思考」であると考えます。

 「知の探索」とは、既知の範囲にとどまらず、新たな知を探すことです。経営学におけるイノベーション理論では、この「知の探索」と、ある範囲の知を深堀りする「知の深化」をバランスよく進める「両利きの経営」が必要であり、特に知の探索を怠らないことが重要であると言われます。

 「ゼロベース思考」は、イノベーションを実現する際に必要と言われる思考法の1つです。今まで持っていた前提知識や思い込みをいったんゼロにして、ベースがない状態から顧客にとっての価値を考えることを指します。

 既存の概念・枠組み・方法などにとらわれずに柔軟に物事を考えることで、革新的・創造的なアイデアが思いつきやすくなるのです。これを実現していくためには、ゼロから考えることをルール化していくことが必要です。

 しかしながら、DX人材としてこのようなケイパビリティを1人で備えた人物を求めることは困難である場合も多いでしょう。このため、デジタル技術だけでなくさまざまなスキルや知識・経験を持った人物を集めて多様性(ダイバーシティ)のあるチームを結成し、チームとしてのケイパビリティを実現することを検討する必要があります。知の探索を効果的に行うにも、人材の多様性(ダイバーシティ)が有効だとされます。デジタル技術にたけた人材だけを集めてもDXは成功しないと考えられます。

論点2:DX人材の確保に向けて必要なこと

 DX人材の確保にあたっては、各企業において自社の現状に合ったチームとしてのケイパビリティを定義し、それを構成する人材像、人材要件などを定義することが必要となるでしょう。

 どのようなスキルセットを持つ人材がどの程度の組み合わせで必要かは、DXで実現したいこと、すなわちトランスフォーメーションの先の未来の姿によって異なります。未来の姿を見定めて人材要件やチーム編成を固めた上で、中途採用、内部育成、外部リソースの活用など、最適な人材確保の方法を選択することが必要でしょう。

 人材育成にかかるコストを削減するには、DXに向いている人材を見極めた上で採用や配属を行うことも必要と思われます。たとえば、高度な知識や技術を持つ人材だとしても、言われたモノを言われたとおりに淡々と作ることが好きな人もおり、必ずしもイノベーションを起こすDX人材としての適性があるとは限りません。しかし、逆にこういった人材のマインドを変え育てていくことも、DX人材を広げる手段のひとつと言えます。

 新事業や新システムを生み出すプロジェクトでは、なかなか自分の思いどおりにいかないことも多々あると想定されます。ポジティブに物事を捉えながら新しいものを積極的に取り入れ、生み出していくマインドセット、企業文化づくりを行っていくことが大事になっていくでしょう。

 総じて、DX人材の確保・育成に対しては、経営層が担う役割が大きいと考えます。人材の確保・育成には時間がかかりますし、人材を確保できたとしても、適切な経営層からのバックアップがなければ、新規領域での成果を生み出していくことは困難です。

【次ページ】DX人材が力を発揮できる組織、プロセス、企業文化・風土の重要

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