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日本のモノづくりの発展を促進する「エンジニアリング協会(ENAA)」では、スマート工場を実現するためのノウハウを研究する「スマート工場研究会」を設置しています。同研究会では、「次世代スマート工場の実現で、最も重要になるのが、MES(製造実行システム)/MOM(製造オペレーション管理システム)の導入」と考えています。それはなぜでしょうか。「国の主導」でも「海外の標準の翻訳」でもなく民間企業(内資・外資・スタートアップを含む)で働くMES技術者の有志からなる同研究会のプロジェクトを代表して、アビームコンサルティング 阿部洋平氏が、MES/MOM導入の重要性をはじめ、導入における課題、導入に役立つ“あるテンプレート”を解説します。
本記事は2024年10月22日開催「
第4回 ENAAスマート工場シンポジウム」(主催:エンジニアリング協会)の講演を基に再構成したものです。記事の内容はイベント当時のものです。
「スマート工場」の必須条件
製造業の生産性向上における重要テーマとして耳にする機会も多い「スマート工場」。一般的に、生産性向上や品質向上を目的に、工場内のあらゆる設備や機器をネットワークに接続させ、生産プロセスを高度化させた工場を「スマート工場」と呼ぶことが多いです。
このスマート工場の実現において、エンジニアリング協会(以下、ENAA)のスマート工場研究会では、「スマート工場とは、MESを活用している工場である」ことを提唱しています。さらに、こうした状況を踏まえ、同研究会では、製造業のユーザーやMESベンダー、SIerに対して「目的や構想・コンセプト」を正しく伝えるとともに、MESの重要性を提唱しています。また、同研究会は、スマート工場に関して下記の4つの仮説を持っています。
■スマート工場研究会の「スマート工場における仮説」
- 「次世代スマート工場」は、工場レベルの賢さを実現する
- 工程レベルのスマートを積み上げても、全体でのスマートは生まれない
- 将来的には「中央管制システム」が登場し、工場全体のスマートさを確立する
- 「中央管制システム」はMESの存在を前提としている
(出典:スマート工場研究会)
そもそも
MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)の役割とは、製造工程の把握や管理、また作業者への指示や支援などを行うことにあります。広義でいうと生産管理システムの1つという位置付けになり、工場の生産ラインの各製造工程・設備と連携できるところに特徴があります。
同研究会では、そうしたMESに加えて、より広義の概念であり、製造・品質・保全・在庫の4つの業務エリアをカバーするMOM(Manufacturing Operation Management:製造オペレーションマネジメント)がスマート工場の核になると考えており、下図のような「スマート工場」のイメージを描いています。
スマート工場のキーマンはMES、なぜ導入時に問題が起きる?
このように、同研究会ではスマート工場の実現においてMES/MOMの導入が鍵になると考えていますが、現状、MES/MOMに関してはERPのような標準的なノウハウが確立されておらず、有識者も限られています。
そうしたことから、MES/MOMユーザーと導入支援をするベンダー・SIerの間で齟齬が生まれやすく、後々問題に発展するケースが散見されています。
こうした状況を踏まえ、同研究会では、製造業のユーザーがMESベンダーやSIerに対して「目的や構想・コンセプト」を正しく伝えるための「標準業務機能リスト(標準カタログ)」に基づき、ユーザーがシステム化したい業務を列挙し、どの部分をMES/MOMに期待するのかを整理し、RFP(提案依頼)のスコープ検討に役立つテンプレート作りを進めています。
ここからは、特にMES/MOM導入の課題となっているテーマとともに、実際に同研究会が作成したテンプレートを解説します。
だからRFP作成がややこしくなる?MES11機能の問題点
「MES」とネットで検索すると必ず出てくるのが、米国のMES推進団体である「MESA International」がMESの機能を区分・定義した「MESの11機能」です。
■MESの11機能
- 生産資源の配分・監視(Resource Allocation & Status)
- 仕様・文書管理(Document Control)
- 作業スケジューリング(Operations/Detailed Scheduling)
- 差立・製造指示(Dispatching Production Units)
- 作業者管理(Labor Management)
- プロセス管理(Process Management)
- データ収集(Data Collection & Acquisition)
- 製品追跡と体系管理(Product Tracking & Genealogy)
- 実績分析(Performance Analysis)
- 品質管理(Quality Management)
- 保守・保全管理(Maintenance Management)
当研究会では、MES/MOM導入における問題を、「MESの11機能」に関して日本の製造業の方々に理解が難しい点、またこの理解が難しい「11機能」の考え方をベースにRFP作成を進めてしまう点にあると考えています。
なぜ、不慣れかと言えば、MESA InternationalのMESの機能区分にわかりにくい点があるためです。
MESの11機能について考えてみると、たとえば、最初に出てくる「生産資源」という言葉は実務ではほとんど使われないと思われ、このような言葉の壁も課題と考えられます。
さらに、MESの11機能の活用においては具体的な生産資源とは何か、作業のスケジューリングというのは生産スケジューラの機能ではないのか、仕掛品の在庫管理はMESで行わないのか、といったさまざまな困りごとが出てくると考えられ、こうしたことも11機能を分かりづらくしている要因ではないかと考えています。
現状は、MESの11機能ベースで、RFPを作成するユーザー企業が多く、それにより下記のような課題が発生しています。
■MESの11機能ベースでRFPを作成することで起きる問題点(例)
- MES導入検討における、工場内の担当・責任部門が横断的になり、導入検討プロジェクトの際に常時多くのメンバーを会議に召集する必要があるが、1人ひとりの出番が少なくなるため、各メンバーのモチベーションが低下し、責任感が希薄になる
- 11機能の区分けが製造部門には馴染みがなく、本来、検討内容をシンプルにすることが目的であるはずのフレームワークに合わせるための苦労が発生する
- 結果的に、ユーザー企業のメンバーがうまく情報整理や分類ができない状態となり、導入ベンダーにもユーザーの意図が伝わりにくくなってしまう
【次ページ】MES導入の成功率上げる?新しい「標準業務機能リスト」解説
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