【連載】現役サプライチェイナーが読み解く経済ニュース
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2021年11月末、JR東日本は新型コロナウイルス感染拡大による乗客数減少を受け、ダイヤの改正を検討する計画を発表しています。旅客需要に合わせて車両数を減らし、コスト削減を図ることが狙いにあるようです。同時にJR東日本は、コロナなどによる環境変化に合わせて、これまでの需要予測の方法を変更する可能性を示唆しています。需要予測は、企業の競争力を大きく左右する重要な要素ですが、その方法を変更することは正しい判断と言えるのでしょうか。コロナに伴う同社の一連の変更がもたらす効果を検証します。
企業の競争力を左右する「需要予測」
需要予測という言葉を聞いたことがあるビジネスパーソンは多いと思います。製造業や小売業における商品の需要予測が思い浮かびやすいでしょうか。需要予測とは、商品である物やサービスが必要とされる量を事前に想定することです。この需要予測は、実は日常生活でも行っている非常に身近なものです。
たとえば、水やトイレットペーパーなどの必需品は、ほとんどの人が自宅にストックを抱えているはずです。これら必需品にかかる費用や保管するスペース、消費期限などを考えると、闇雲に購入している人はあまりいないのではないでしょうか。ほとんどの人は、この先数週間や1カ月など、ある程度の期間で消費できる量を考えて買っているはずです。
こうして買いだめしておくと、必要になった時にすぐに使うことができるというメリットがあります。さらに、急な大雪や自然災害などで外出が難しくなっても、ある程度の期間であればストックで対応することができます。
このように、需要予測によって生活が円滑になっているのです。つまり、需要予測は一定の制約の中で効率性、利便性を得るために行われるものなのです。ビジネスの世界では、この需要予測が競争力アップにつながります。
需要予測の事例:「飲食店」「資格試験」「鉄道ダイヤ」
製造業や小売業だけでなく、サービス業でも需要予測は行われています。たとえば、外食サービスでは、消費者の注文を受けてから料理をつくっている場合が多いですが、その食材や調味料、さらに調理器具などは、消費者の注文の種類や量を予測して準備されています。
資格試験を実施している教育団体でも需要予測は行われています。受験や就職活動など、特定の時期に集中する一大イベントに合わせて、受験者からの需要が増え、試験会場を確保する必要があるからです。オンライン試験になっても、対応する人員は需要に合わせて構えておく必要があるでしょう。
社会インフラを提供している企業でも同様です。2021年11月27日の日経新聞に、JR東日本のダイヤ改正の話が出ていました
(注1)。新型コロナウイルスの感染拡大で乗客数が減少する中、車両を減らすことでコスト削減を図り、利益を創出するためです。鉄道会社のダイヤも、旅客需要を予測して組まれているのです。
これらの例から分かるように、需要予測は原材料や商品の在庫だけでなく、関わる人件費、必要になる設備費など、多くのコストをコントロールするために重要になります。需要予測に直接関わっていない職種の方は、平時には意識することが少ないものですが、企業の売上や利益創出を担う、競争上極めて重要な機能なのです。
JR東日本のダイヤ改正の記事によると、JR東日本は、「コロナ禍前は3カ月間だった新幹線の臨時列車などに関する需要予測の期間を短くすることも示唆した」とあります。このJR東日本が行った需要予測のための期間の変更は大きなポイントになります。
同社が行った予測期間の変更は、不確実な環境下の需要予測で有効な一手となる「アジャイル・フォーキャスティング(Agile forecasting)」と私が呼ぶものになります
(注2)。アジャイル・フォーキャスティングとは、環境変化に応じて、アジャイル開発の要領で柔軟に需要予測の手法を変更することを指します。
それではなぜ、JR東日本は予測手法を変更したのでしょうか。また、同社の判断は正しかったのでしょうか。これらを読み解く鍵は、需要予測における予測誤差を生んでしまう要因と、「アジャイル・フォーキャスティング」にあります。
ここからは、予測誤差を生む要因、「アジャイル・フォーキャスティング」の特徴を解説しつつ、JR東日本の予測手法の変更が正しかったのかを見ていきます。
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