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バリューチェーンとは、自社の事業のビジネスプロセスのうち、どの事業部門で、どのくらいの付加価値が創出されているかを分析するためのツールや考え方のことだ。そうは言っても、企業の各部門が実際にどのような形で付加価値創出に貢献しているのかをイメージするのは難しいだろう。『
全図解 メーカーの仕事』(ダイヤモンド社)の内容の一部から、バリューチェーンとはそもそも何か、具体的な取り組み事例などを解説する。
執筆:山口雄大、行本顕、泉啓介、小橋重信
山口雄大(やまぐち・ゆうだい)
入出庫、配送などのロジスティクス実務に従事した後、化粧品メーカーで10年以上、需要予測を担当。需要予測システムの設計、需要予測AI(下記参照)の開発などを主導した。2020年、入山章栄早稲田大学教授の指導の下、「世界標準の経営理論」に依拠した、直感を活用する需要予測モデルを発表(山口、2020)。ビジネス講座「SCMとマーケティングを結ぶ! 需要予測の基本」(日本ロジスティクスシステム協会)を担当するほか、コンサルティングファームで需要予測のアドバイザリーを務め、さまざまな企業や大学等で需要予測の講演を実施。著書に『需要予測の基本』(日本実業出版社)や『需要予測の戦略的活用』(日本評論社)、『品切れ、過剰在庫を防ぐ技術』(光文社新書)があり、機関誌にコラム「知の融合で想像する需要予測のイノベーション」(Logistics systems)を連載中。
行本顕(ゆきもと・けん)
国内大手消費財メーカー勤務。経営企画・財務・法務および海外調達・生産管理を担当。2010年より米国の販売代理店に駐在しS&OPを担当。元銀行員。法学修士。グローバルSCM標準策定・推進団体であるASCM(Association for Supply Chain Management)の資格保有(CPIM-F, CSCP-F, CLTD-F)。同団体の認定インストラクターとして日本生産性本部や日本ロジスティクスシステム協会などにて「APICS科目レビュー講座」「『超』入門!世界標準のSCMセミナー」「S&OPセミナー」ほか複数のSCM講座を担当している。2020年、『ロジスティクスコンセプト2030』(JILS)を各分野の研究者・実務家と発表。同年よりJILS調査研究委員会委員。2021年よりJILSアドバイザーを兼任。著書に『基礎から学べる!世界標準のSCM教本』(共著・日刊工業新聞社)、『APICSディクショナリー第16版』(共著・生産性出版)がある。
泉啓介(いずみ・けいすけ)
外資系化学メーカーでSCMを担当。B to Bビジネスにおける工業用製品や建築用製品、ヘルスケア製品など、さまざまなカテゴリーの生産計画立案や需要予測、需給調整などを経験。国内外のグループ会社の生産計画立案業務の標準化とその展開等にも携わった。
ASCMの資格、CPIM(在庫管理や需給調整に関する知識)とCSCP(サプライチェーン全般のマネジメントに関する知識)を取得。同団体認定インストラクター。サプライチェーン用語を解説するAPICS Dictionaryの翻訳メンバーにも、第14版より参加している。最新版は『APICSディクショナリー第16版』(共著・生産性出版、2020)
小橋重信(こばし・しげのぶ)
物流コンサルティングを専門とする株式会社リンクス代表取締役社長。アパレルメーカーにてMD(マーチャンダイザー)やブランド運営を担当し、上場と倒産を経験。その後、SONY通信サービス事業部にてネットワーク構築の営業や、3PL会社のマーケティング執行役員を経て現職。IFI(アパレル専門の教育機関)やECzine、ECミカタなどで物流をテーマとした講演を実施。日本オムニチャネル協会の物流分科会リーダーを務める。物流倉庫プランナーズのウェブサイトでコラム「攻めの物流、守りの物流」(https://lplanners.jp/blog/kobashi-05/)を連載中。
バリューチェーンとは
ビジネス規模(売上規模)や業界、企業ごとの戦略によって、組織の設計はさまざまです。またビジネス環境の変化に合わせ、組織は常に変化し続けている、といっても過言ではありません。実際、筆者らも毎年のように大小の組織変更を経験しています。
一方で、どんなメーカーもバリューチェーン(Value Chain:価値連鎖)に沿って顧客へ価値を提供するという構造は同じであり、それを支える組織の役割分担には多くの共通点があります。
バリューチェーンという言葉は、メーカーのビジネスを知るうえで不可欠です。製造業のオペレーションに関する用語や定義についてグローバルで標準化を推進しているASCM/APICSという団体では、バリューチェーンを次のように定義しています。
バリューチェーンとは…
企業が消費者に販売し、支払いを受け取る商品やサービスの価値を増大する企業内の機能。
つまり、メーカーが製品やサービスといった新しい価値を生み出し、それを伝達するとともに、顧客に安定的に届け、なにか問題があった時にはすぐに対応して価値を守る、といった一連の流れを指します。バリューチェーンは、図表1のようにさまざまな機能が連携することによって構成されており、各機能は専門的な組織によって遂行されます。
バリューチェーンを支える社内の機能
顧客のニーズに応える製品・サービスは、マーケティングを担う部門によって開発されますが、新しい価値を提供するためには、新しい知見や技術が必要です。それを生み出すのは研究開発部門であり、製品・サービス開発を直接の目的としない基礎研究を継続する中で蓄積されていきます。もちろん、あるニーズを満たすことを目的に研究が行われることもありますが、研究には長い期間を要することも多く、常に長期的な目線で研究開発を続けることがメーカーの競争力につながります。
しかしアパレルメーカーでは、自社に研究開発部門をもたないことも多いです。よく見られるのは、洋服などの素材はテキスタイルメーカーが、縫製においても機器メーカーが研究・開発し、アパレルメーカーはそれを採用するといった構造です。つまり、これらの組み合わせで新しい価値を生み出していくことが、アパレルメーカーの一つの競争力と言えるでしょう。
こうして設計された製品・サービスの原材料は、購買・調達部門によって手配されます。原材料の品質、価格、納期を購買・調達部門とマーケティング部門で確認し、取引を行うサプライヤーが決まります。
調達された原材料を使って、工場で商品が製造されます。このとき、基準を満たす品質の商品を、安定的に、需要を十分に満たせる量を生産すること(量産化)が重要です。それは商品の設計とは別で、生産部門や工場が確認しなければなりません。
量産された商品は、物流センターで保管され、小売店や卸売業者からの発注に合わせて出荷されますが、このオペレーションを担うのがロジスティクス部門です。実際に商品の配送は協力会社が行うこともありますが、この交渉や管理もロジスティクス部門の仕事です。
メーカーにとっての顧客である小売店や卸売業者へ商品が出荷されると金銭のやり取りを伴うため、この取引を担当する営業部門があります。顧客や消費者からのクレーム、返品への対応や商品に関する問い合わせには、営業部門だけでなく、カスタマーサービスを専門的に担う部門が対応している場合もあります。
さらに、これらのバリューチェーンを横断的に支えるIT、人事、広報、IR(Investor Relations)、監査、財務・経理といった後方支援部門(バックオフィス)、あるいはメーカーの目指す方向性を決定する経営企画部門などもあります(図表2)。これらはメーカー特有のものではなく、他業界でも設置されています。
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