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- 2018/12/06 掲載
ドイツ「以外」の欧州、インダストリー4.0にどう取り組んでいるのか
連載:第4次産業革命のビジネス実務論
フランスの動き
2008年のリーマン・ショック以降、フランス経済は10年以上失速をし続け、失業率は一時10%を超えるまで悪化しました。また、フランス国内の産業設備は平均で20年ほど経っており、中小企業の設備は30年以上使われているものも多いといわれています。フランスの標準化の推進においては、ドイツとロードマップを共有し、国際標準への道筋をつけていく方針がとられており、ショーケースとなるプロジェクトを複数立ち上げ、新たな輸出産業を活性化させています。
また、ドイツのインダストリー4.0と組みながら、中小企業に特化した150以上のユースケースをWebサイトでも展開しているのも特徴的でしょう。
フランスのIndustry of the Futureは、インダストリー・ドリブン(産業駆動型)によって社会に実装していくモデルです。
また、農業大国フランスでは、IoTの農業分野への積極的な利用が行われています。たとえば、植物の成長速度をシミュレートし、収穫時期と収穫量を予想する機能の開発などが進んでいます。
仏ダッソーグループとシュナイダーエレクトリックの動き
ダッソーグループは、ソフトウェア企業ダッソー・システムズ社などを配下に持つ複合企業体です。戦闘機ミラージュなどの航空機開発でも知られており、その設計用に開発した3D-CADであるCATIA(キャティア)などが中核ソリューションです。
ダッソーグループは、Industry of the Futureの共同推進役として、フランス企業を支援すべく、デジタル化のサポートを行っています。デジタルの力で企業ビジネスの変革をサポートするという点に重点を置いており、中小企業の持続的な成長を促しています。
IoTにおいては、生産工場のプラン二ングやシミュレーションを可能とするとともに、意思決定に必要な情報を取り込むことで生産活動のリアルタイムなトラッキングを可能とし、スケジュールの変更やモデルの変更、保守計画策定などが実施できるソリューションを提供しています。
シンガポールの国全体を、地形情報だけでなく、建物・交通などの社会インフラ施設や樹木なども含め、精密に3次元モデル化する取り組み「バーチャルシンガポールプロジェクト」においても中核的な役割を担っており、3Dモデル上でさまざまな都市向けシミュレーションが可能なアプリ「3D EXPERIENCity」を提供しています。
一方、シュナイダーエレクトリックは、フランスのパリ近郊のリュエイユマルメゾン(Rueil Malmaison)に本社を置く世界的な重電メーカーで、エネルギーマネジメントのスペシャリスト企業です。一時は米国Industrial Internet Consortium(IIC)の中核企業としてもテストベッド活動などを進めていました。
また、Industry of the Futureに呼応する形で製造効率の向上や市場投入加速を目指す戦略を進め、3Dプリンティング技術の導入などを推進しています。
さらに、拡張現実(AR)技術により、生産現場での保守作業を効率化し、人的ミスを削減するソリューション「EcoStruxure Augmented Operator Advisor」なども提供しています。
自社ドメインの「モノ」を販売するのと同時に、その「モノ」の上で培ったノウハウを活かしたプラットフォームなどの「コト」ビジネスを展開するという姿勢が明確であり、後述のスイスABBなどと同様に、自らのドメインに強みがあるビジネスは、そこから産まれる「コト」にも価値があると考えていると思われます。
スイスの動き
スイスでは、巨大な産業界や金融業界とニッチな産業分野の中小企業とが連携して、第4次産業革命を推進しています。ドイツのインダストリー4.0は、スイスフラン高に悩まされてきた国内の製造輸出業者や、コストのかさむ規制改革に直面している銀行にとっては最適なカンフル剤といえます。インダストリー4.0による製造のスマート化やデジタル化は、国内の工場を閉鎖したりコストの安い東ヨーロッパに移転させたりするよりも良い方法といえるからです。
問題は、それをどう実現するかです。特に資源の限られている中小企業にとっては深刻です。中小企業は、製造方法に関しては多くのノウハウがありますが、慣れた方法を捨てて、新しい事柄にチャレンジしようとするのは簡単ではありません。
この動きをリードしているスイスの企業が、ABBグループ(Asea Brown Boveri)です。ABBグループは、スイス・チューリッヒに本社がある電力と重電、重工業の世界的企業です。スウェーデンのアセアとスイスのブラウン・ボベリが1988年に合併して生まれ、世界100カ国以上に進出しています。ファナック、安川電機、KUKA(クーカ)と並ぶ世界4大産業用ロボットメーカのひとつでもあります。
ABBグループでも、デジタル領域への取り組みを推進しています。2017年度のABBの売上高4兆円のうち半分以上がソフトウェアまたはデジタル接続可能な機器類が占めるなど、デジタル領域で実績を伸ばしています。
ABBグループではデジタル領域の競争力を高めるため、「IoTSP」(Internet of Things、Services and People)というコンセプトを掲げ、インターネットを通した人とサービス、モノを接続するという考え方を提唱しています。保守、運用、制御などのデータが集まるコントロールルームにおけるトータルソリューションでの優位性を確保する取り組みを強化しています。IoTSPのソリューションを導入することにより、データ分析の品質や安全性や信頼性、生産性の向上などの成果をあげた企業事例も出てきています。
ABBグループは製品をラインアップするとともに、各国のユーザーとの協働を進める目的で「アプリケーションワークショップ」を各国に設けています(東京にも設立)。そこで新しいアプリケーションのテスト、開発やトレーニング、シミュレーション、実機の検証などに取り組み、ユーザーとの結び付きを強めています。
イタリアの動き
ドイツのインダストリー4.0への対応が非常に重要な意義を持つのが、顧客にドイツ企業を多く持つイタリアの製造業です。しかし、イタリア産業総連盟(Confindustria、イタリアの経営者団体)は、2016年3月に発表した文書で、ドイツのIoT分野における国家戦略の戦略性の高さと比較して、イタリアの取り組みが遅れていることを指摘しています。
その中で、イタリアの典型的な形態である中小企業のIoT適応のための公的支援・啓発活動/中小企業におけるデジタル技術者の育成/国内に限定しない欧州広域・産業分野横断でのデジタルイノベーションの拠点となる組織の相互交流などの必要性や、ドイツとの産業構造の違いを踏まえたイタリア版インダストリー4.0の必要性について言及しています。
イタリア版インダストリー4.0の目的は、関係省庁や研究機関が中心となり、イノベーションへの投資、人材の強化に重点を置くことで産業の改革をはかることであり、ITを活用したものづくりの高度化を目指したものです。
このような産業革新に向けた動きがみられる一方で、イタリア全体で見れば、まだネットワークインフラがIoTに適応できるほどには十分に整備されていないなどの課題があり、ドイツと同様の形というよりは、ネットワークインフラの拡充も含めた設備投資といった意味合いが強いものになる可能性が高いと推察されます。
EUでドイツなどに比べ、大きく遅れをとっている国はイタリアだけではありません。ドイツのインダストリー4.0から始まった産業のデジタル化の動きは欧州諸国に拡大しつつある一方、デジタル化の取り組みレベルには格差があり、必ずしも大きな成長が見込めるとは考えられていないことも事実です。
【次ページ】Brexitの影響は?イギリスの動き
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