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情報処理推進機構(IPA)は企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を目的として、日本および米国の企業のDXに関係する企業戦略、人材、技術について現状を調査・分析し、その結果を「
IPA DX白書2021」として2021年10月に発行しました。これは、IPAがこれまで刊行してきたIT人材に関する調査を取りまとめた「IT人材白書」や、AIに関する技術動向や事例をまとめた「AI白書」を統合したものになります。今回は、このレポートから見られる日米のDXの違いや今後企業が取るべき対応について考察します。
米国に後れをとる日本のDX、特に製造業では大差
日本ではDXに取り組んでいる企業(「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」の合計)は55.8%であるのに対して、米国で79.4%と大きな差があります。
業種別に見ると、情報通信業と金融業においてDXの取り組みが進んでいるという点で日米の傾向は似ていますが、製造業の割合に関しては日米差が大きく、日本の製造業が後れをとっていることがわかります。
外部環境変化のビジネスへの影響についての回答結果を見ると、パンデミックをはじめとしたすべての外部環境変化に関して、日本企業より米国企業の方が「非常に強い影響があり、ビジネスを変革させ最優先で影響に対応している」という回答割合が高く、特に「パンデミック」と「技術の発展」において日米の差が大きくなっています。日本企業は、外部環境変化を事業機会と捉えて対応する意識が弱いのではないでしょうか。
また、日本企業は米国企業と比べてデジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)の実施成果で、すでに大きな差がついています。ペーパーレスの推進などの着実な対応レベルでの差がDX推進における差にもつながっていると考えられます。
DXは、顧客ニーズの不確実性が高く、技術の適用可能性も不確かな状態で推進することが多く、状況に応じて柔軟かつ迅速に対応していくことが必要です。そのため、アジャイル的な取り組みが求められます。しかしながら、アジャイルの原則とアプローチを組織のガバナンスに取り入れている日本企業は、いずれの部門においても半数以下になっており、米国企業との差は大きくなっています。
日本企業では、経営者・IT部門・業務部門が協調できている(「十分にできている」「まあまあできている」の合計)が39.9%にとどまりますが、米国企業では86.2%となっています。部門間などの組織の壁を越えた協力・協業についても同様の傾向を示しています。
また、米国では、DX推進プロセスにおいて、KPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)の評価や評価結果に基づくリソース配分などの見直しを「四半期に1度」より高い頻度で行っている企業が多いのに対し、日本企業においては「評価対象外」との回答が5割近くにのぼり、DX推進に際してアジャイルの原則とアプローチに基づくガバナンスを推進できている企業はごく一部にとどまっています。
顕著な方針の違い、リーダーに必要なのは実行力かリテラシーか
企業変革を推進するリーダーにあるべきマインドおよびスキルについての回答結果を見ると、日本企業では「リーダーシップ」、「実行力」、「コミュニケーション能力」、「戦略的思考」の4つの割合が高くなっています。一方、米国企業では「顧客志向」が最も高く、次いで「業績志向」、「変化志向」、「テクノロジーリテラシー」の順となっています。
また、日米間で回答割合の差が大きいのは「実行力」と「テクノロジーリテラシー」です。「実行力」を選択した日本企業が48.9%に対して米国企業は19%、「テクノロジーリテラシー」を選択した米国企業が31.7%に対して日本企業は9.7%です。
DX推進をけん引する上でリーダーに求める重要な資質として、米国企業が顧客や業績、変化など経営視点での成果や変革に関する項目を重視するのに対して、日本企業ではリーダーシップや実行力といった組織での推進力に関する項目を重視していることがうかがえます。
事業戦略上の変革を担う人材の「量」と「質」の確保について、米国企業では「過不足はない」という回答が、「量」で43.6%、「質」で47.2%にのぼるのに対して、日本企業では「量」で15.6%、「質」で14.8%となっており、日米で不足感に開きがあります。日本企業では量と質の両面で人材不足が課題であることがわかります。
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