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欧州連合(EU)は、2020年頃からEU圏の企業がデータを共有できる制度を構築し、産業データ活用を進める施策を推進してきています。そして現在、4つのデータ関連法により、データの扱いに関する規制を強化しつつあります。これらの動きは、個人データを押さえつつある米国の巨大プラットフォーマーや中国企業への対抗措置であるとともに、データの提供と利用の間の不公平を是正していくものでもあると考えられます。今回はEUのデータ関連法「データガバナンス法(DGA)」「デジタル市場法(DMA)」「デジタルサービス法(DSA)」「データ法(DA)」ついて解説します。
EUが掲げる「欧州データ戦略」とは
欧州連合(EU)の欧州委員会は、2019年から2024年までの優先課題の1つに「デジタル時代にふさわしい欧州(A Europe fir for the Digital Age)」を掲げており、これに沿って2020年2月に「欧州データ戦略」を公表しました。
この戦略は、データの単一市場である「欧州データ空間」構築を目標としたものであり、EU圏の企業がデータを共有できる制度を構築することで産業データ活用を進めることを狙ったものと言えます。また、個人データを押さえつつある米国のプラットフォーマーや中国企業への対抗措置の意味も持っています。
このEUのデジタル戦略を支えるのが、「データガバナンス法(DGA:Data Governance Act)」、「デジタル市場法(DMA:Digital Markets Act)」、「デジタルサービス法(DSA:Digital Services Act)」、「データ法(DA:Data Act)」の4つの法規制になります。
ここからはこの4つのデータ関連法について解説していきます。
知っておきたい法制(1):データガバナンス法(DGA)
前述の欧州データ戦略では、データの単一市場である欧州データ空間構築の実現に向けて、8つの課題と4つの課題解決策を提示しています。そして、課題解決策の1つとして欧州データ空間のガバナンスのための法的枠組みを作ることを挙げています。
こうした中、欧州委員会では2020年11月、欧州データ戦略に基づく初の立法措置として、データガバナンス法の元となる「欧州のデータガバナンスに関する規則案(COM (2020) 767)」が提出されました。その後、規定の整備などが行われ、2023年9月からデータガバナンス法が施行される予定です。
データガバナンス法とは、データプラットフォーマーによるデータの独占に対抗し、EU経済圏の発展と市民の利益確保を目指した法律です。この法律により、信頼性を確保した上でデータ流通を促進し、経済発展を目指すとともに、データに基づく方針決定を可能とするとしています。
データガバナンス法では、信頼性を確保したデータ流通の促進のため、公的機関内にある機密性の高いデータを二次利用できる仕組み、データ共有やデータの保存を担う「データ共有サービスプロバイダー」の信頼性を確保する仕組み、市民や企業が社会の利益のためにデータを提供できるようにする仕組み、目的に合ったデータを業界や国境を越えて利用できるようにする仕組みの4つが提示されています。
データガバナンス法によるデータ流通促進と信頼性確保に関する重要な項目として、「データ利他主義」があります。個人や企業が自発的に社会の利益のためにデータを提供することを促進し、その信頼性を高めるための規定が示されています。
この概念はこれまであまり馴染みのないものであり、企業にとっては自社利益の最大化を考えると、なかなか理解しにくいものですが、中長期的な社会全体の利益を目指す観点から、これまでの資本主義経済での常識に一石を投じる取り組みと言うことができます。今後運用の中でどこまで実効性を高められるか、引き続き動向が注目されます。
知っておきたい法制(2):デジタル市場法(DMA)
デジタル市場法とは、欧州委員会が2020年12月に後述のデジタルマーケット法と合わせて発表し2022年11月に施行されたもので、デジタルプラットフォーマーがもたらす巨大経済市場や市場の囲い込みといった実態を踏まえ、市場の競争可能性と公平性を確保するための規制であるとされています。
デジタル市場法では規模基準、ユーザー数規準、継続性基準を設け、欧州委員会は巨大なデジタルプラットフォーマー(ゲートキーパー)を指定し、かつゲートキーパーの保有するプラットフォームをリスト指定します。この指定されたゲートキーパーに対し、欧州委員会は行為規制や調査、差し止め、課徴といった制限をかけることができるとしています。
【次ページ】知っておきたい法制(3):デジタルサービス法(DSA)
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