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- 2024/12/13 掲載
わかってる人少ない…「富士山の環境破壊」の超重要論点、山梨県の解決案は何がダメ?
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
環境問題で衝突する「山梨県」と「住民」
山梨県の長崎幸太郎知事が大きく打ち出していた「富士山登山鉄道構想」は、地元からの大反発を受け、断念に追い込まれた。富士山登山鉄道構想とは、観光客の増加による混雑・渋滞の解消を目的に、富士山の山麓から5合目までの区域に鉄道や新しい交通システムの導入を目指すという計画だ。実は、山梨県の関係者から「この構想には無理があるのではないか」という情報提供を受け、筆者は実際に試算を行い、県庁や地元・富士吉田市に何度も取材に足を運んでいた。しかし、この山梨県の方針転換により、その取材が完全に無駄になってしまったのだ。
愚痴を述べたいわけではないが、新たに打ち出された「山梨県の新構想」にも共通する問題として、山梨県側の富士山の問題に対するアプローチは、「オーバーツーリズム(観光客過多)を抑制するため」だと言いながら、「観光業を発展させたい」という矛盾に満ちたものである点に変わりはない。
まず、撤回された「富士山登山鉄道構想」に触れておきたい。この構想に関する山梨県の資料では、朝8時から夜18時まで、東京の山手線のように6分間隔で運行し、2両編成、運賃は片道1万円、車両がほとんど常に満席になると年間利用者が300万人に達し、40年で黒字化するという内容だった。しかし、黒字化が現実的に不可能であることは明らかだ。さらに、線路工事で排出されるCO2を回収するには同じく40年が必要という試算もあり、経済的にも環境的にも優れた計画とは言えなかった。
このような荒唐無稽な計画が撤回されるまで、山梨県や長崎知事は自信満々に構想を語っていた。その姿勢に対して、富士山のあり方が損なわれるのではないかと懸念を抱く声もあった。結果として撤回は妥当だったが、その後に登場した代案が、レール(鉄軌道)不要のゴムタイヤ式新交通システム「富士トラム(仮称)」の活用である。
山梨県が発表したイメージ図(上の動画)では3両編成の鉄道風の乗り物が描かれているが、この通りに実現する保証はない。急勾配や急カーブ、冬季の吹雪や雪崩のリスクが頻出するスバルラインで、このような乗り物がスムーズに運行できるかについて、技術的に難しいとの声が関係者から上がっている。実際には1~2両編成のただの観光バスが走る可能性が高い。
富士周辺の交通網は整備済、なぜ山梨県は手を出す?
ちなみに、2023年4月から富士山ではEVバスが運行しており、富士山駅や河口湖駅から五合目まで片道1,780円でアクセスできる。さらに、このEVバスを運営する富士急グループ(富士急バス)は、自動運転レベル4のEVバス導入に向けた実証実験を進めている。世界最先端の交通システムが着実に進行しているにもかかわらず、なぜ山梨県が新交通システムの導入を急ぐのか、疑問が残る。富士急グループが放っておいても世界最先端の交通システムを導入しようとしているのに、なぜ、山梨県は、謎の新交通システムを導入する必要があるのだろうか。地元の新聞記者に事情を聞くと以下のような話を打ち明けてくれた。
「長崎知事がぶち上げた富士山登山鉄道構想は、県庁でも実現に疑問を持つ職員は多かった。山梨県に多大な影響力を持つ富士急グループに対抗心を隠さない長崎知事としては、計画を撤回してしまうと批判を受けると考えて、<計画の変更>にした模様だ。長崎知事は、一連の構想の出発点を国際的な機関イコモスによる『富士山の環境保全』にしているのに、目的が観光業を盛んにするといっており、富士山の開発と環境保全が両立するものなのかと、不思議に思う人は多い」
さあ、ここからが本題である。 【次ページ】わかってる人が少ない…富士山問題の「重要論点」
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