• 2023/10/23 掲載

「欧州バッテリー規則」とは何か? 電池事業者が負担することになる“ある費用”とは

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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2023年8月、EU(欧州連合)で「欧州バッテリー規則(EU Batteries Regulation:Regulation(EU)2023/1542)」が発効されました。欧州バッテリー規則は、バッテリー製品の生産工程すべて(原材料調達、設計・生産、再利用、リサイクル)を対象とした規制であり、今後、生産量が増えていくことが予想されるバッテリー製品による環境負荷を低減させる狙いがあります。今回はこの欧州バッテリー規則を解説します。
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EUの「欧州バッテリー規則(EU Batteries Regulation:Regulation(EU)2023/1542)」とは何か?
(Photo/Shutterstock.com)

「欧州バッテリー規則」とは

 EUでは2023年8月、バッテリー製品による環境負荷を減らすべく、バッテリー製品の原材料調達から設計、製造、利用、リサイクル、廃棄などに至るライフサイクル全体を規定する「欧州バッテリー規則(EU Batteries Regulation:Regulation(EU)2023/1542)」が発効されました。規制対象となるのは、自動車用、産業用、携帯型などEU域内で販売されるすべてのバッテリーです。

 また、欧州バッテリー規則では、バッテリーの温室効果ガス排出量を示すカーボンフットプリントについても定めています。

 具体的には、バッテリーの製造工場ごとにカーボンフットプリントを公表することを求めています。温室効果ガス排出量はバッテリーのライフサイクル全体(LCA:Life Cycle Assessment)での算定、つまり、原材料となる資源の採掘、製造、輸送から使用後の処理に至るまでの総合的な排出量の算定が求められています。

 ただし、使用段階での温室効果ガス排出量は含まなくて良いことになっています。これら規則に則り、2024年から順次、規定された開始時期に沿って各義務が適用されることになります。

 EUでは、欧州バッテリー規則の要件を段階的に明確化する予定であるとしています。日経エネルギーNext『EUで「電池規則」が発効、蓄電池の国際覇権を狙う欧州の戦略とは(2023/09/08掲載)』の記事によれば、「電池規制の位置づけは、2050年カーボンニュートラル目標の必須要件であるモビリティーの電動化の実現に資することであるが、最初の数年は仕組みづくりに費やされ、その後段階的に要件が厳格化され、2050年の目標に近づくように設計されている」とのことです。

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2023年8月、EUはバッテリー製品による環境負荷を減らすべく「欧州バッテリー規則(EU Batteries Regulation :Regulation(EU)2023/1542)」を発効した
(Photo/Shutterstock.com)

欧州バッテリー規則の構成

 2020年に欧州委員会は最初の欧州バッテリー規則案を発表していますが、当時は全13章、79条および14の附属書の構成でした。しかし、実際に2023年8月に発効された欧州バッテリー規則は、全14章、96条の条文および15の附属書で構成されるものになりました。当初案と比較すると、規制内容が大幅に増加したことになります。

 理由としては、適用対象となるバッテリーのカテゴリにLMT用バッテリー(Light Means of Transport Batteries:電動アシスト自転車・スクーター用など軽輸送手段に用いられるバッテリー)が追加されたことが関係しています。

 さらに、第7章のバッテリーの使用を開始する経済事業者に対するデューデリジェンス義務や方針、評価に関する規定を定めた「バッテリーのデューデリジェンス方針に関する経済事業者の義務」、第8章の回収した廃バッテリーを廃棄またはエネルギー回収作業の対象にはしないことを前提に、バッテリーの回収、処理およびリサイクルに関連する義務が規定された「廃バッテリーの管理」の要求事項が大幅に拡充したことも関係しているようです。

欧州バッテリー規則の対象商品

 欧州バッテリー規則には自動車用、産業用、携帯型など、EU域内で販売されるすべてのバッテリーを対象に、カーボンフットプリントの申告義務や、リサイクル済原材料の最低使用割合、廃棄された携帯型バッテリーの回収率、原材料別再資源化率の目標値の導入などに関する事項などが盛り込まれており、サプライチェーンの見える化・強靭化を通じて、EU域内の重要原材料の確保や戦略的自律を目指すとしています。

 カーボンフットプリントの申告開始時期はバッテリーごとに定められており、EV用のバッテリーの場合、2025年2月または委任法(計測方法)、実施法(申告細則)の施行から12カ月後のいずれか遅い日以降に適用されます。

 リサイクル済原材料の最低使用割合の開示においては、産業用バッテリー(2キロワット時(kWh)を超えるもの)、EV用バッテリー、SLI用バッテリー(Starting Lighting Ignition Batteries:自動車の内燃機関を始動させるために設計されたバッテリー)で、活物質にコバルト、鉛、リチウムまたはニッケルを含むものは、コバルト、リチウム、ニッケルについては、バッテリー製造廃棄物または消費後廃棄物から回収されたものの割合に関する情報を記載した文書を添付することが求められ、鉛については、バッテリーに含まれる、廃棄物から回収された鉛の割合に関する情報を記載した文書を添付することが求められます。

 これらについては、2028年8月または委任法の発効から24カ月後のいずれか遅い日以降に開示が義務付けられます。LMT用バッテリーについては、2033年8月から開示が義務付けられます。

 また、LMT用バッテリー、産業用バッテリー(2kWhを超えるもの)、EV用バッテリーは2027年2月から、バッテリーパスポートと呼ばれるものを介し、ラベル表示情報、原材料構成、カーボンフットプリントなどに関する情報へのアクセスを確保することが求められ、これらをQRコードから読み取ることができるようにすることも定められています。 【次ページ】蓄電池の生産者に求められる「費用負担」とは?
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