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「テルハラ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。テルとは、電話のこと。転じて、テルハラとは、職権を利用して、会社での電話番を押し付けることを指している。より具体的にいうと、「電話は若手社員が取るべき」と電話対応を強いる行為だ。海外では考えられないというこの行為は、日本では “当たり前の慣習”となっている。信用される組織を築くために、今の日本社会に求められているものとは?
職場の“当たり前の慣習”がハラスメントに
近年、さまざまなハラスメントが問題視されているが、厚生労働省によれば、ハラスメントには以下の6類型がある。
1.精神的な攻撃
例)同僚の目の間で叱責される、必要以上に長時間、繰り返し執拗に叱る
2.身体的な攻撃
例)叩く、殴る、蹴る
3.過大な要求
例)新人で仕事のやり方もわからないのに、莫大な量の仕事を押し付け、自分は帰る
4.過小な要求
例)運転手なのに、営業所の草むしりだけを命じられた
5.人間関係からの切り離し
例)1人だけ別室に席を移される
6.個の侵害
例)交際相手について執拗に問われる
「テルハラ」なるものを上のどれかに当てはめるとするならば、4にあたるのだろうか。中小企業の労務問題に詳しい城南中央法律事務所(東京都大田区)所長の野澤隆弁護士は、こう解説する。
「日本の職場では、新卒一括採用、年功序列による昇進、そして長期雇用という特有の労使慣行が背景にあります。この慣行により、若手社員には厳しい仕事が多く課される傾向があります。加えて、若い労働者人口の減少が進む中で、若手に高い生産性を求めるためには、ジョブ型雇用(役割に基づく雇用形態)の導入が経済的にも効果的でしょう。この形式では、非効率的な仕事はアルバイトや外部業者に委託し、若手社員にはより価値のある業務に集中させることが推奨されます」
「しかし、日本では『(儒教文化では美徳とされる)長幼の序』という価値観が強いため、多くの企業がこの新しい雇用形態を受け入れにくい状況にあります。社会問題となっている『テルハラ』(パワーハラスメント)を根本から解決するためには、政治的なアプローチによってジョブ型雇用を基盤とする労働立法の推進が必要です」
「過度な電話対応」が心を病む原因にも…
筆者自身の経験を考えると、電話対応は、本当に苦手であった。大学生の頃、政治家の国会事務所でインターンをしていた。学生に大事な仕事など任せられるわけはなく、やることといえば、事務所の掃除や資料の整理、そして電話番だった。
政治家の国会事務所に電話してくる人は、いくつかに分類される。
- 他の国会議員事務所
- 議員の秘書
- 官僚
- ホームページなどで電話番号を知った有権者
- 議員本人
- メディア
- 支援者
- 議員の家族
1と3については、電話をかけてくる人が常識人で対応も丁寧だ。こちらがアタフタしていてもむしろより優しく話しかけてくれるし、用件がきちんと伝わっているか確認までしてくれる。
2と5は、同じ組織内で、よほど機嫌が悪いときでない限り、基本的にはフレンドリーだ。報道ベースで知る限りだが秘書に対して怒鳴り散らす議員も一定数いるようだから、そこは運かもしれない。
8については、とても変な人もいれば、まともな人もいるが、悪意はない人たちだ。常識的な対応をしていれば間違いは起きない。
6のメディアは、ケース・バイ・ケースだった。新聞やテレビの人はすごく丁寧な連絡をくれるが、週刊誌系やフリーランスのジャーナリストは、いつも上から目線の物言いが多かった印象で、電話は苦手だった。
一度会ってコーヒーでも飲んで打ち解けると、逆に、学生であっても色々なことを教えてくれることもわかった。当時、とても不思議な人種だと感じていたが、私がその後、そちらの世界へ飛び込むとは考えてもみなかった。
厄介なのは、4と7の有権者であり、支援者だ。それぞれに違う苦労があった。
支援者が厄介なのは、議員本人と直接つながっている可能性があり、また今後どこかで接する可能性が高いことだ。とにかく笑いの一つでもとっておかないといけないという変な義務感にかられたのを覚えている。
有権者は、議員のやることに腹が立って電話を(代表電話に)かけてくるケースが多い。当時、私がインターンをしていた議員は、釣り人の間で大人気だったブラックバスを外来魚として、駆除することを政策として推進していた。
日本中のブラックバス釣り愛好家、それを支える釣具屋から、電話が来て怒鳴り散らされたのをよく覚えている。連日連夜のファックス抗議もすごくて、事務所の連絡ができない状態になったので、新しくファックス回線を引くことになった。
私は、ブラックバスの駆除に賛成だったし、こういう電話に対して、受話器から耳を離して対応していたわけだが、こうした電話を真に受けて、心を病む人がでてもおかしくはないだろう。
こう考えると、電話番というのは、職場にもよるが非常に鬼門であろう。生産性は上がらなくとも、なくすわけにもいかない。では、一体誰に電話番を任せるのが得策なのだろうか。
【次ページ】“辞めない電話番”はどうやって採用すべき?
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