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  • 2019/05/17 掲載

東京大学 越塚登教授が語る、「データ駆動型社会」を実現するための3つのポイント

IVIシンポジウム2019 -Spring- レポート

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5回にわたってお届けしてきた一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)主催イベントの講演レポート。最終回となる今回は、東京大学 教授でユビキタス情報社会基盤センター長の越塚登氏による「製造プラットフォームオープン連携事業」についての講演、ならびに本事業に参加した企業(DMG森精機、ファナック、三菱電機、日立製作所など)によるパネルディスカッションの内容を取り上げます。
photo
パネルディスカッションの様子
(写真:筆者撮影)


2018年度「製造プラットフォームオープン連携事業」とは?

 「製造プラットフォームオープン連携事業」は、DMG森精機、日立製作所、ファナック、三菱電機とともに、製造データを管理する各社のプラットフォームを超えて、製造データが相互に流通することを可能とするフレームワークを開発するものです。政府が提唱する「Society 5.0」および「Connected Industries」を実現する取り組みです。

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データ連携の流れ
(出典:IVI提供)

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 これまで製造業では、秘密保持の理由から、IoTで得られた稼働データなど、比較的付加価値の低いデータだけが、インターネットを介したデータ流通の対象でした。

 今回開発されたフレームワークは、加工プログラムの送受信(DMG森精機)、品質検査データの送受信(ファナック)、ロット検収データの送受信(三菱電機)などを個別のデータ取引契約と対応づけ、相手を特定した通信を行うことで、信頼性を向上した点が特長です。

 また、フレームワークの一部として、日立製作所は、製造業が現場でそれぞれ用いている異なる言語を変換するための辞書サーバを開発し、製造現場が日々使っている用語や業務プロセスをできるだけ変えずにデータ流通に参加できるようにしました。

 開発したデータ流通の仕組みの普及を図るために、IVIは「Connected Industries Open Framework(CIOF)」として、その技術仕様とソースコードをインターネット上に公開しました。技術を公開することで、製造分野におけるデータ流通を担うIT企業の参入を促し、さらなる信頼性と利便性を高め、新たなエコシステムとして活動を発展させていきます。

 IVIは、すでにドイツの「International Data Space Association(IDSA)」および中国の「Alliance of Industrial Internet(AII)」と了解覚書(MoU:Memorandum of Understanding)を締結し、製造業のデジタル化を国際的な協調作業の中で推進していくことで合意しています。このフレームワークは、4月にドイツで開催されたハノーバーメッセにおいて発表されました。

 今回のシンポジウムでは、開発したプロトタイプとともに設定した3つのユースケース(実証実験)の内容が公開されました。実証実験では、東芝デジタルソリューションズ、富士通、NECがそれぞれ連携パートナーとして協力し、製造データの流通先のプラットフォームとして、それぞれの連携シナリオを完成させました。

東京大学 越塚登 氏によるポジショントーク~データ駆動型社会の3つのポイント

 本事業をIT分野からどう見てきたかについて考えてみると、現在、データ駆動型社会といわれる中で「データは宝」とされ、企業や国にはそれを囲い込みたいというインセンティブが働きます。しかしデータは「守ると腐る」ものです。

 データ駆動型社会には、3つのポイントがあります。

 第1のポイントは、AI/IoTの発展に伴い、機械学習などを用いて機械が目や耳を持つようになり、製造業において大きな付加価値を与えるようになったことです。従来ITに求められた知識(脳)に加え、目や耳などを持つことで、目や耳と脳の組み合わせが実現し、生物の進化を加速させたカンブリア爆発と同じ現象が起きています。

 一方、「データハングリー」という、アルゴリズムはあるがデータがないという課題も起きており、これを解決しつつ進化をしていくことが必要になっています。

 第2のポイントは、IoTに必要な技術は、1つ1つは簡単でも組み合わせると非常に複雑であるということです。しかも、これらすべてについてそれなりに理解をしていないとIoTは実現できません。一方、プラットフォーマーも乱立し、国際標準化団体も多数存在します。標準が多すぎて、どれをウォッチすればよいか分かりません。こうした状況では、完全な標準化は困難です。

 第3のポイントは、ソフトウェア開発効率が劇的に向上し、開発環境、開発手法が変化していることです。ソフトウェアの部品化なども実現されています。実行環境だけでなく開発環境もクラウド化し、自分でコードを書くよりも、自分がやりたいことを実現できる既存のコードを探すことのほうが大事になっています。

 一方、グーグルのプログラムコードは20億行ともいわれるように、システムが巨大化しています。こういった巨大システムがオープンに実現できていることを考えると、レガシーシステムの置き換えも可能ではないでしょうか。

 日本はこの3つのポイントを前提として、「Connected Industries」をいかに発展させていくかが重要です。

 2019年1月のダボス会議で、安倍首相は日本がデータ流通のリーダーシップを取っていくと述べました。GAFAなどのプラットフォーマー規制の議論も盛り上がっています。一方、データの集中化、偏在化が進んでいます。

 こういった動きを米国から見るか、日本から見るかが重要です。米国ではコンピュータ業界が家電業界に出てくるように、頭脳(IT)に手足(機械)を付ける形で議論が進んできました。一方、日本では、家電メーカーや機械メーカーが自身の機械をネットワークにつなげていくような、手足に頭脳を付ける形態で議論が進んできました。

 この中間の領域をどちらが攻めるかということもありますが、製造業が製造の中だけで戦うといったように、自社のビジネスを既存ビジネスに閉じこめると、いとも簡単に他の業界からアタックされてしまうのがIT化のポイントです。

【次ページ】どこが新しく、どこに可能性があるのか?パネルディスカッション
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