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  • 2019/10/21 掲載

「バーチャル・シンガポール」「タイランド4.0」って何だ?ASEANで今起こっている変革

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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第4次産業革命の取り組みは、主に欧米や東アジアで進められていると思われがちですが、昨今はASEAN(東南アジア諸国連合)でも積極的に進められています。今回は、ASEANにおける第4次産業革命の取り組みの例として、シンガポールとタイを取り上げます。
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シンガポールをはじめ、ASEANで今どのような変化が起きているのか
(Photo/Getty Images)


ASEANに第4次産業革命が必要な理由

 ASEANは1967年の「バンコク宣言」によって設立され、現在は計10カ国(ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)で構成されています。今後の世界の「開かれた成長センター」となる潜在力を持つと世界各国から注目されている地域協力機構です。

 これまで豊富で安価な労働力を武器に成長してきたASEANですが、昨今の人件費の高騰などもあって経済成長は鈍化傾向にあります。加えて生産年齢人口も減少しつつあり、限られた労働人口で経済成長を促すことのできる高付加価値産業への変革が、生き残りをはかる上で必須と言える状況です。

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アジア各国における生産年齢人口比率の推移
(ここでのアジアとは、ASEAN+6の計16か国)

(出典:経済産業省「通商白書2010」をもとに作成)
(データ出典:国際連合「World Population Prospects, The 2008 Revision」)

国全体をデジタルツインでバーチャル化するシンガポール

連載一覧
 第4次産業革命を実現する技術の1つである「デジタルツイン」。現実世界にある機器や設備の稼働状況、環境情報などをリアルタイムで収集し、バーチャル空間に写像して分析やシミュレーションを行う技術です。さまざまなモノやヒト、建物、場所などを対象に、そのデジタル情報を組み合わせることで、より現実世界に近い世界を、バーチャル空間上に再現できることになります。

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 このデジタルツインを用いてシンガポールの国全体をバーチャル化する試みとして進められているのが、「バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)」です。

 このプロジェクトは、シンガポールの政府機関であるNRF(シンガポール国立研究財団: National Research Foundation)などが主導しています。都市国家であるシンガポールの面積は東京23区より少し大きい程度ですが、国全体をバーチャル空間の中に再現してしまおうというのは、大胆な挑戦と言えます。


 「バーチャル・シンガポール」では、シンガポール全土の地形情報や建築物、さらには交通機関などの社会インフラに関する情報までを統合し、バーチャル空間上に3Dモデルとして再現し、さらにその3Dモデルに各種のリアルタイムデータ(交通情報、車・ヒトの位置情報など)を統合し、「都市のデジタルツイン」を実現しようとしています。

 バーチャル空間上で国土のみでなく空間も含めた最適な利用シミュレーションを行い、現実世界にフィードバックすることで、国家資産である国土や空間、社会インフラなどの最適な配置や利用を目指す取り組みです。

 シンガポールは2014年に「スマート国家(Smart Nation)」構想を打ち出し、デジタル技術を活用して住みやすい社会をつくるという理想を掲げています。

 その実現に向けて、国土に関する情報のデジタル化と、各種センサーの整備を進めています。「都市のデジタルツイン」によって、各インフラを整備する計画の立案や、太陽光発電パネルの設置場所の検討、アクセシビリティの改善、渋滞の解消や公共交通機関の改善といった利用法が示されています。

 今後「バーチャル・シンガポール」の情報を民間へ開放することも計画されており、そうなればよりユニークな活用法が提案されることでしょう。

シンガポールの第4次産業革命の特徴

 現在、世界の多くのインダストリアルIoTのソリューションプロバイダーがシンガポールにアジアの中核拠点を設け、ユーザー企業とともにイノベーションを生み出しています。このシンガポールのイノベーションを支えるのが、インダストリアルIoTのソリューションプロバイダーなどが中心となり構築しているエコシステムです。

 具体的には、幅広い分野にわたる数百から数千のスタートアップ、イノベーションに積極的に投資をする大企業、イノベーション人材を育成する教育機関、資金を提供するエンゼル投資家やベンチャーキャピタルなどがこのエコシステムに参加します。これによりイノベーションの土壌がしっかりと固められ、「バーチャル・シンガポール」に代表されるような政府の動きと相互作用を起こしているのではないかと考えられます。

 また、テクノロジーによる産業変化が著しい中、10年先も年2~3%の経済成長を続けるため、シンガポール政府は大々的な官民一体の産業転換プログラムを開始しています。

 プログラムには2016年以降の5年間に日本円換算で約3,600億円の予算が投入され、シンガポールのGDP(国内総生産)の約8割を占める主要な23業種のテクノロジーを推進することで、生産性の向上、イノベーションの創出、国際化の推進、雇用の創出、という4つの観点での産業転換を目指す試みです。

 さらに、2010年ごろよりシンガポール政府は労働生産性の向上による経済成長の達成を目標に掲げ、それまでの積極的な外国人受け入れ策を転換しています。外国人雇用規制を徐々に厳格化して外国人の流入を抑制し、その一方、労働生産性向上のために、ロボットやAI(人工知能)などのデジタル技術の活用を目指すなどの取り組みを政府が行っているのです。

【次ページ】「タイランド4.0」とは?日本企業への影響は?
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