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  • 2014/08/20 掲載

「組織の愚」を描いた宮崎駿のメッセージを、風の谷のナウシカから読み解く(後編)

連載:名著×少年漫画から学ぶ組織論(13)

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組織の失敗を、その渦中において当事者でありながら同時に正しく知覚し、対策するということは極めて困難である。組織においては自分もまたステークホルダーの一員であり、そこには、十分な客観性や、情報が得られないからだ。しかし今を生きる我々にとって、それは一大事であり、他人事のように片付けて済む問題ではない。「組織における局所最適的な行動の積み重ねが、全体としての大いなる愚行につながってしまう」という状況に対して、人はいかに問題解決をすることができるのだろうか?
前編はこちら。
連載一覧

「駄目な組織」との戦いこそが、この物語のメインテーマ

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「風の谷のナウシカ」と「一下級将校の見た帝国陸軍」から読み解く「組織の愚」とは?
 組織の存続だけが目的となって空虚に日々のルーチンをこなす「自転するだけの組織」のまっ只中にいて、その矛盾や非合理性に一個人が気づくのはなかなか難しい。

 「一下級将校の見た帝国陸軍」でも度々それは指摘されているが、「風の谷のナウシカ」においても、それを象徴するシーンが描かれている。

ナウシカ この人たち いったい・・・?

兵士    捕虜だ 本国の荘園に送れば高く売れるんだがね

       船はこないしにおいはひどいし 我々はまったくの貧乏くじさ

ナウシカ 風の谷のようにトルメキアも人口が減りつづけているときいていたけど
       戦争で何とかしようなんて・・・
       なんという戦争!!いかがわしい正義すらカケラもないなんて
       滅びの道をいそいでいるだけなのが判らないの!!

(風の谷のナウシカ 3巻 P109より)

 この兵士は、その本質として邪悪な心や悪意を持っているわけではない。描写的にも、そのような作意は明確であるように思われる。兵士の目は若干虚ろな雰囲気で描かれており、組織に従って淡々と目の前の業務に従事している人、という感じがする。

 前編では、組織の上層部における無意味な内紛を紹介したが、末端は末端で駄目になっている。組織に対する宮崎駿の視線は、情け容赦ない。

 本作が描く戦争の二大勢力、トルメキア王国と土鬼諸国連合は、対立する勢力であるが、その構造は合わせ鏡のように似ていて、どちらも上層部はろくでもない権力争いにあけくれ、無謀な作戦によって民や兵を無駄死にさせ、益々戦争を不毛なものへと導いている。

 土鬼諸国連合軍の、前線部隊の幹部であるチャルカと、最高権力者である「皇弟」の会話を紹介したい。自国に侵攻してきたトルメキア軍をなかなか撃破できないため、人工的に培養した腐海の植物をばらまいて殲滅しようという、「禁じ手」に手を出そうとするトップを、有能な司令官であるチャルカが、なんとか止めようと説得するシーンだ。

チャルカ なにとぞ なにとぞ いま一度ご再考下さいませ

皇弟   チャルカ、お前の心ぐらいわしに読み取れぬと思うか
      お前は国土の荒廃におののき 民の苦しみに心を奪われるあまり
      眼がくらんでおるのだ
      わが帝国のもっとも重大なかげりは
      民の間に皇帝と僧会への畏怖と崇拝の心がうすれていることだ
      大いなる力への恐怖と尊崇の心がなくば
      愚昧な民はバラバラになり 帝国は崩壊する
      森をつかうは戦を一刻も早く終わらせるためだ
      敵にも民にも僧会の偉大さと恐怖を刻印せねばならぬからでもある
      チャルカよ わしに国土を思い民の苦しみに心をはせる慈悲がないと思うのか
      サパタにたてこもる犬どもを皆殺しにしろ!!
      このつぐないはトルメキアの犬どもに必ずはらわせてやる
      きゃつらの都市を森にくらわせてな

(風の谷のナウシカ 4巻 P22より)

 確かに腐海の力を借りれば、目の前の敵を倒せるかもしれないが、自分たちの土地を汚染してしまう。皇弟は口では民を思うようなことを言いつつ、その考えは破綻している。有能な中間管理職であるチャルカはそれに気づきながらも彼の暴走を止めることができないでいる。

 トルメキアも土鬼も、自己中心的で近視眼的な指導者によって、人類は自らを破滅に追い込んでいる。その愚に気づく人々はいても、ただただ無力である。

 このように読むと、風の谷のナウシカという作品は「トルメキアvs土鬼」という対立構図を物語ったものではないということがわかる。もちろん「風の谷vsトルメキア」であるはずもない。もっと言えば、この作品がテーマとする対立軸は、「善と悪」みたいなものでは決してない。「自然と人間」とか「科学文明と人類」でもない。

 本作が提示する対立構造とは一体何か。それは、「組織における局所最適的な行動の積み重ねが、全体としての大いなる愚行につながってしまうという“現実”と、それをなんとか是正しようとする“意思”との戦い」である。

 まさしくこれは、「一下級将校の見た帝国陸軍」が取り上げたモチーフと相通じるテーマなのであった。

【次ページ】“現実”と“意思”の戦いでは、“意思”が敗北するもの
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