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- 2015/02/17 掲載
スティーブ・ジョブズとナポレオン トップダウンのカリスマの共通点と違い(後編)
連載:名著×少年漫画から学ぶ組織論(25)
徹底的なトップダウン型組織では
トップの衰えが組織全体の根幹を揺るがすことになる
ナポレオンの終末期を、「凋落するカリスマ起業家」に重ね合わせる理由には、2つのポイントがある。
これは、「名将たちの決断」において、ワーテルローの戦いにおけるナポレオンの敵軍、ウェリントン卿の視点で描かれる記述が参考になる。
ひとつ目は、徹底的な上意下達、トップダウン型組織(部下・後継者の育成の失敗)についてである。
ナポレオン麾下のフランス軍は、その当時のヨーロッパ最強の戦力を有していた。オーストリア、ロシア、プロイセンなどが連合しても、常に勝利はナポレオンに帰していたのだ。
ところがそれら一連の戦勝は、ナポレオンの軍事的才能だということに、ウェルズリー中将(編注:後のウェリントン卿)は気づく。手強いと覚悟していたジュノ将軍が、あまりにも戦略的に、戦術的に無能だったからである。
中将はこの地でのフランス軍との戦闘に高い勝率を収めた。フランス軍はパターンで戦いを展開するので、それを読み切ってしまえば勝てることに気づいた。
(中略)
ウェルズリー中将は、ナポレオン自身がスペインに在るときには、強いて戦わずにやりすごす。そしてナポレオンがこの地を去ると、俄然攻勢を加えたのだ。
(『名将たちの決断』 1.ウェリントン卿 より)
ウェリントン卿は、ナポレオン率いるフランス軍との戦いで、ただひとり数々の勝利を収めたことで「反ナポレオン」の象徴となった名将である。
どうして彼がナポレオンに勝てたのか、それはフランス軍の将軍たちの全てが有能なわけではない、ということに気づいたからだったのだ。天才的軍人はナポレオンただひとり。その部下の多くは凡庸なるマネージャーであり、せいぜいナポレオンの指示に従うのが精一杯であった。2章で取り上げられているネイ元帥こそ、名将の誉れ高いとはいえ、これは例外であり、人材不足には常に悩んでいたということだ。
戦略的な天才性とは、すなわち「臨機応変」ということである。だがしかし、真の意味での臨機応変を発揮できるのはナポレオンだけだった。彼がいない戦場は、あくまで遠方からの指示を頼りにした作戦展開がなされた。そこには必ずパターンがあらわれる。これを衝いてしまえば、個々の戦いでの勝利はそんなに困難なことではなかった。
これは、冷静に敵軍の内情を看破したウェリントン卿がお見事だった、という以外にないわけだが、もっとも示唆的なのは、強烈なカリスマによって急激に組織を成長させる際に、それを支えるマネージャーが、トップよりも有能足りえず、それが最大の弱点となってしまったということだ。
現代の企業経営においても、全く同じことが言える事例が数えきれないほど実在する、ということは言うまでもない。
【次ページ】勝てる要因を作るのは敵方である
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