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- 2015/09/24 掲載
三谷幸喜が描く「清須会議」に学ぶ ポジションと人物のギャップの乗り越え方(前編)
連載:名著×少年漫画から学ぶ組織論(36)
この世は「ポジションと人物のギャップ」という悩みに満ちている
コンサルティング会社で事業戦略の立案を手がけてきた人物が事業会社に中途採用され、現場の陣頭指揮をとる職務を与えられたときに、うまく人間関係を構築できずにまったくパフォーマンスを発揮できなかった、といったような話がしばしば語られる。十分な能力があるはずなのに、なぜか仕事がうまくいかない。この世はこのような「ポジションと人物のギャップ」の悩みに満ちている。ある人があるポジションに就くにあたっては、当たり前だが「その人が、その役割を果たすことができるかどうか」が、第一に問われるべきである。単純に考えると、イコールそれは「能力」ということになる。そして、能力とはすなわち「知識と技能」である。
簿記の知識がなくて会計ソフトも触れないようでは、会計業務は遂行できないし、構造力学とCAD操作を知らなければ建築の仕事はできない。
ポジションとは「情報を獲得し、意思決定をして、指示あるいは実行する機能」の最小単位である。獲得した情報を正しく理解できないようでは到底その役割は務まらないし、何かを実行したくともそのスキルが存在しなければ意味が無い。能力とは、そこで扱われる情報を理解するための専門知識、指示・実行をする段階においての、そのツールを使いこなすための専門技能ということである。
しかしこれ以上に、ポジションが人に要求するものがある。その組織における人望や信用、人事権を有する人間との関係性といった「非能力要件」とでもいうべきものである。
そのポジションにおける「役割」とは、それ自体が単体で、独立して存在する情報の入出力ではなく、他のポジションに就いている人々との関係性を円滑に構築することも含む。組織が歴史を背負う以上は、その組織固有の事情や人的ネットワークに立ち入る必要があることも多分にあるのだ。
ポジションと人物の間にあるギャップを埋めるための折衷案
組織に秩序をもたらす力の本質とは、上下関係である。意思決定者とそれを実現するものが階層状にネットワークされることで、多数の人間が共通の目的にむけて行動することができる。その結果として、人ひとりでは決して達成できないような大きな物事を成し遂げることが可能となる。このネットワークは、ピラミッド型であったり、ハブ・アンド・スポーク型であったり、アメーバ型であったり、様々な形態が存在するが、いずれも例外なく最終意思決定機関を起点として、上下関係による階層化がされている。
組織に属するということは、この階層構造のどこかの「立ち位置=ポジション」に立脚するということである。ポジションとは、「役割」という風に言い換えることもできる。その組織の階層構造のどの層に立つかによって、得ることができる情報の内容、そして、意思決定して指示できること、あるいは自ら実行できることが決まってくる。
組織を円滑に、生産的に運用するために必要なことは、ポジションが求める「能力要件」と「非能力要件」を明らかにし、それにフィットする人を配置する、ということである。
しかし、これは極めて困難な話であって、往々にして組織には「古株」「お局様」といった呼称で称される一群の人々が存在するのであった。能力はさておき、組織の創成期からの歴史的貢献度は大であるが、さりとて、組織が大きくなった今となってはそのミッションを果たすには何かが足りない。かといって外部から人を雇い入れると、今度は人間関係がうまくいかない。
それは、高校の演劇部の公演のようなものである。台本を書く時に、特定の役者を前提として芝居を考える「あて書き」で書き下ろすのか、先に台本があって、それを実現できる役者を探すのか、という話があるが、限られた部員を前提にすると、純粋にどちらかの手法を選ぶことが難しく、「部員の顔ぶれを考えながら、シナリオも書く」という折衷的解決法をとるものである。
あらゆる演劇部の部長と同じように、企業活動においても「スタッフの顔ぶれを考えながら、組織戦略を策定する」という現実を生きざるを得ない。結局のところ、「今いる人間を前提としてポジションを考える」という本末転倒的行為が生まれる。このようにして、ポジションと人物の間にギャップが生まれ、そのギャップが円滑な組織運営を阻むのである。
【次ページ】織田信長亡き後を描いた「清須会議」は組織論のケース・スタディ
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