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- 2014/02/19 掲載
”進撃の巨人”で主人公が直面する 「情報が足りないという現実」への向き合い方
連載:名著×少年漫画から学ぶ組織論(3)
クラウゼヴィッツの説く「情報に対する身の処し方」とは
クラウゼヴィッツは「情報」をどのように定義しているのだろうか。戦争論の第一篇 第六章がそのものずばり、「戦争における情報」とのタイトルだ。そこで、情報についての考えが述べられている。その冒頭の言葉はこうだ。
「情報」という語は、敵および敵国に関する知識の全体を意味し、従ってまた戦争における我が方の計画ならびに行動の基礎を成すものである。
戦争論 第一篇 第六章 戦争における情報より
ここまでは当然だが、面白いのはここからだ。
ところでこの基礎の本来の性質、即ち絶えず変遷してけっきょく当てにならないという性質を考えてみるがよい、すると戦争はぐらついている建物のようなもので、いつ崩壊して我々がその下敷きになり、瓦礫や土砂のなかに埋没するかも判らないということを感じるだろう。
(中略)
我々が戦争において入手する情報の多くは互に矛盾している、それよりも更に多くの部分は誤っている、そして最も多くの部分はかなり不確実である。
この指摘は、端的に言って、身も蓋もない。身も蓋もないが、これこそがリアリティというものだ。
情報を得ることが困難であるなかで、私達は一体どのような態度で事に臨むことが可能なのだろうか?
残念ながらビジネスにおいても、ほとんどの場合、十分な情報を得ることはできない。実際、本当に必要十分な情報とは、客先や競争相手といった、交渉相手の「真意」であるわけだが、そんなことが簡単にわかることはない。
交渉相手どころか、身近にいる人間の情報ですら、取得するのは難しいものだ。
「今回のプロジェクト、社長が全面的にバックアップしてくれると言ってるから、しっかりな」なんて部長に言われ、喜び勇んで仕事に取り組んだのはよいが、いざ蓋を開けたらなんてことはない、部長の勘違いで、報告会に出席すらしてくれなかった、なんていう話は珍しくない。
端的に言って、こうした伝聞を真に受けて自分が被害を受けても、「人の言葉を信じた自分が悪かった」としか言いようがない。「本当に社長がバックアップしてくれるかどうか」が大事な情報であれば、社長のもとに出向いてその意向を確認しておけばよかったのだが、時としてなぜか人はそれを怠り、舞い上がり、何の役にも立たないプロジェクトに貴重な時間を突っ込んでしまうという悲劇が起きる。
情報というものはその性質上、「誰かが受け取って、次の誰かへ渡される」という形で伝わっていくものであり、その都度必ず「解釈」が付け加えられるものだ。そして「解釈」にはいつも「願望」という名のバイアスがかかる。
社長は確かに部長に対して「期待してるからな」という言葉をかけたかもしれないが、それを「全面的にバックアップしてくれる」と理解するか、単なる励ましと受け取るかは、部長の願望にかかっている。
現場においては、どの情報が正確で、何が確からしいのか、実質的にはほぼ手探りで立ち向かっていくものだ。
クラウゼヴィッツは、個別の話に一喜一憂するな、ということを説いている。良い知らせもあれば、悪い知らせもある。その相反する情報を冷静に受け止めて、恐怖に負けず、希望を見出し、強固な意思をもって前を見据えなさい、というのがその教えだ。
次ページにて、さらにその言葉をひもといていきたい。
【次ページ】何を信じたらよいのかわからない状況下での選択
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