• 2011/06/21 掲載

関西流ベタベタIT商法の挑戦76~珈琲の伝道師が仕掛ける地域カルチャー

合同会社 関西商魂 代表 中森勇人

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工場見学がちょっとしたブームになっている。ビールやお菓子、新聞印刷から食品サンプルまでありとあらゆる工場に家族連れやカップルが押し寄せる。最近では工場見学のガイドブックが発行されるほどの人気だ。
執筆:中森 勇人
 大阪市平野区で珈琲豆卸・小売を手がける島野珈琲株式会社では60Kgと7Kgの焙煎機を有し、他ではあまり目にする事ができない珈琲豆の焙煎工程を公開している。

 代表取締役の島野渉社長(52)は工場見学のきっかけについて、「当時は社内機密的要素のある作業部署を公開する会社はなく、製造工程の公開には抵抗がありました。でも、多くの人にコーヒーに興味を持って欲しいとの願いから、本社移転にともないガラス越しに焙煎機を設置したところ大きな釜から豆がザーと吐き出される光景がダイナミックだと好評でお客様や近所の方の見学希望が相次ぎました」と話す。

 JAF(日本自動車連盟)から会員向けのサービスとして珈琲教室を開催したいとの相談が舞い込み、企画したところ募集定員が10分で完売。今では年に4回の開催をしている。

ネオタイプの喫茶店を目指す

 島野珈琲は1963年に先代の島野清氏が創業。珈琲を焙煎して喫茶店に納入することを生業としてきた。現社長の島野渉氏が中学生になる頃には大阪万博が開催され、好景気と共に喫茶店が次々と開店。会社は製造と出荷に大忙しで、近隣配達用のバイクがあまりの荷物の多さにひっくり返ることもあったとの逸話もある。

「私が入社してからもしばらくは店を開ければお客さんが来てくれるといった時代でした。週に2~3件は新規OPENの顧客が増えていくような感じでしたね」と当時を振り返る島野社長。

 しかし、高度経済成長、バブル景気、バブルの崩壊、リーマンショックとめまぐるしく変遷する時代の中で顧客である喫茶店は激減し、スターバックスに代表されるコーヒースタンドへと姿を変えていった。ゆっくりと流れる時間を楽しむ喫茶店からスピード重視のコーヒースタンドへ、一見、逆風にも写る時代の流れを島野社長は冷静に見ていた。

“手軽に飲めるスタバの珈琲が普及することでファンの裾が広がる”

 こう感じた島野社長は老若男女に受け入れられるネオタイプの珈琲文化を世に発信していく決断をする。「珈琲の出来は材料6割、焙煎3割、残りは立て方と言われています。だから自分たちの原点である焙煎は命に値します」と語る島野社長は、2004年に都心部から近隣を気にせずに集中して焙煎ができる郊外へと本社を移転し、焙煎工場にスタイリッシュな喫茶店を併設する。

うまいものをお届けします

“B4Cafe”と名付けられた店舗は吹き抜けの天井と木材をふんだんに使ったカントリー調の作り。「食の都大阪から珈琲と食の文化を発信しよう!」を合い言葉に国産小麦と米粉を自家製ミックスした珈琲専用のドーナツを提供する。しかもコーヒーは一杯250円。気軽に入れる事からビジネスマンや家族連れに人気のスポットになっている。

 2階にはフリースペースを設け、ここでは珈琲教室の他、個展やおやじバンドのコンサートもおこなわれる。
島野社長は「工場、喫茶店、フリースペースが混在する中で生まれてくる文化があると思います。今、目指しているのは大阪の懐かしい風味や食感を商品化して珈琲とうまくミックスし、独自のカルチャーを作り上げる事です。その第一弾が『大阪の旬(あじ)』シリーズです」と抱負を語る。

 島野社長が提供する珈琲へのこだわりは食い倒れの街大阪だけに留まらない。沖縄の那覇ではゴーヤ入りホットドックを、宮古島ではフルーツサンドを名物として出す喫茶店をプロデュースする。

 本業である珈琲を軸にして地元の食文化を融合させる。あまりにも日常的で見逃しがちになるシーンに光を当てる島野社長は地域カルチャーを出前する喫茶店のマスターなのかも知れない。


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