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デジタル・ビジネスの時代を迎え、企業と顧客とのチャネルは多様化し、取れる顧客データは爆発的に増加した。これらは、カスタマー・エクスペリエンス(CX)の向上に寄与する反面、個人情報を適切に管理しながら、顧客インサイトをいかに得ていくべきかという問題を突きつけている。顧客情報とインサイトを、誰がどう管理し、差別化につなげていくべきか。ガートナーのリサーチ ディレクター、川辺謙介氏が提言する。
※本記事は「ガートナー カスタマー・エクスペリエンス サミット 2018」の講演内容をもとに再構成したものです。現在は一部内容が異なる場合があります。
デジタル・ビジネス時代における顧客データ関連業務のあり方
デジタル・ビジネスの時代には、顧客データだけにとどまらず、企業と顧客の間、企業間、あるいは部門間でプロセスやデータが“つながる”ようになる。そして、この“つながり”が相乗効果を発揮し、さらなる顧客インサイトを生み出す。しかしその一方で、2013年以降、全世界で約60億件のデータの不正利用が起きているともいう。
顧客および顧客データとの接点を持つ関連業務のあり方は、ここ数年で大きく変わってきた。最たるものは、マーケティング業務だろう。従来であれば、キャンペーンプッシュ広告を打ち、見込み顧客にパーソナライズしたコンテンツを配信するなど、さまざまな担当者が、それぞれ別々のツールを使ってマーケティング活動を行っていた。
しかし、それではデータに重複もしくは抜けがあったり、データがつながっていないことで、ターゲティングが適切でなかったり、一度メールを送った人にもう一度送ってしまうということが起きていた。
それを避けるため、さまざまなチャネルや各担当者が使っているツールに分散して存在している同一顧客の情報を一元的に集約し、顧客の状況に合わせてタイムリーに働きかける方向へとシフトしてきている。
「ガートナー カスタマー・エクスペリエンス サミット 2018」に登壇した川辺氏は全日空(ANA)の事例を挙げて次のように説明する。
「ANAでは、Tealiumの『Universal Data Hub』を用いて、各担当者が使っている複数システムのデータを連携・統合した。これにより、最適なタイミングに、最適なチャネルを通じて、最適なコミュニケーションを行うことができ、カスタマー・エクスペリエンスの向上が期待できるというわけだ」
サブスクリプション・モデルで「つながり続ける」
顧客の立場に立って何かを「買う」という行動を考えた場合、これまでは、あるものが欲しいと思ったら、その都度、買うか買わないかを検討し、同じジャンルの商品を比較検討して購入してきた。
しかし、デジタル・ビジネスの時代には、購買に至るプロセスに変化が起きている。たとえば、音楽コンテンツなどは、月間にどれだけ音楽を聴いても定額のサブスクリプション型が主流になりつつある。
「この変化の背景には、市場の競争激化がある」と川辺氏は説明する。競争が激しいゆえに、競合の製品を選んでも差がないわけだ。
商品ジャンルにもよるが、消費者の立場からしても、高額なものを最初に大きな金額を払って手に入れるより、サービス化されて毎月利用料を払いながら使うほうがありがたいというものはある。
この変化によって、一度モノを売ったら顧客との接点がそこで途切れるビジネスから、定常的に顧客と付き合う形のビジネスに変わりつつあるのだ。
新規顧客獲得のマーケティングと顧客化した後のCRMを一貫させる
ガートナーでは2つの大きな予測をしている。
1つは、「2020年までに、あらゆるデータ・アナリティクス・プロジェクトの40%以上は、カスタマー・エクスペリエンスの側面に関連するものとなる」というもの。
もう1つは、「2022年までに、あらゆるカスタマー・エクスペリエンス・プロジェクトの3分の2がITを活用する」という予測だ。
あらゆるカスタマー・エクスペリエンス・プロジェクト全体を考えた場合、中にはITを使わない活動も多々ある。たとえば、担当者の育成や、商品パッケージのデザイン・設計など、さまざまだ。しかし従来ITが関係なかった活動でも、ITを活用するようになってきているということである。
この2つの予測の「間」に起こる現象として、川辺氏はもう1つ、次の予測を付け加えた。
「2021年にかけて、カスタマー・エクスペリエンスの向上を通じて競争力を高める国内大企業の60%以上は、顧客化以前のマーケティング活動から顧客ライフサイクルの終了までの顧客行動を一貫して追跡・分析し、エンゲージできるマーケティング基盤を新たに導入する」
この言葉の意味するところは、モノ・サービスを購入して顧客になる「前」と「後」を合わせて見ていく必要があり、それを実現するためのプラットフォームが必要になってくるということだ。
個人データを扱うルール・規制は強化される
しかし、顧客データを「活用」するための基盤の導入が進む一方、個人データの扱いに関するルール・規制は強化される傾向にある。
まず日本では、2017年5月に個人情報保護法が改正された。改正の要諦は、個人情報の範囲・定義が、デジタルの要素を加味してより明確になったということだ。しっかり匿名かができれば、逆に使いやすくなった側面もあるが、申し出があった場合に情報を削除しなければならないなど、業務的な煩雑さは増した。
2018年5月には、EU内を対象にGDPR(一般データ保護規則)が施行された。EU圏内の人の個人情報を持つ企業は、日本にある企業であっても確認しておく必要があるだろう。厳しいルールのため、世界的な基準として参考になる。「このレベルに対応しておけば、EU以外も含めたグローバル化への対応もしやすくなるだろう」と川辺氏は説明した。
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