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カスタマーエクスペリエンス(CX)の施策の推進には課題も多い。根底には、組織横断型の取り組みになるため、意思決定に時間がとられ、方針も揺らぎがちなことなどがある。その結果、思い通りの成果が上がらず、せっかくの取り組みがかえって悪影響をももたらすケースも少なくない。こうした事態を回避するための有効な手段が、社内統制の一環としてCX施策を管理する「CXガバナンス」だ。ガートナー シニア ディレクター,アナリストの川辺謙介氏が、CXガバナンスの概要とその推進方法を教示する。
※本記事は2020年2月13日-14日に開催された「ガートナー カスタマー・エクスペリエンス&テクノロジ サミット 2020」の講演内容をもとに再構成したもので、コロナの影響は考慮されていません。
CXの効果を適切に制御するCXガバナンス
「CXガバナンス」という言葉を初めて目にする方も多いだろう。ガートナーの定義によると、その意味するところは「ビジネス全体にわたるCXの効果的な管理を目的とし、意図的に採用された一連の正式な内部プロセス、ポリシー、合意事項」だ。
これにより「CXの向上を促進する重要なタスクについての運用基準を設定し、プロジェクトに優先順位を付け、責任範囲を明確にすることによって、行動と意思決定に影響を与えるもの」となる。企業経営を管理/監督する仕組みを意味する「コーポレートガバナンス」という言葉があるが、CXガバナンスもITガバナンスと同様、その一部に位置付けられる。
別の切り口からも説明できる。CXのケイパビリティは「顧客の理解」「CX戦略策定」「CXのデザイン」「顧客中心文化の確立」「CXの管理」に分けられるが、CXガバナンスは「CXの管理」の構成要素とも言える。
「ともあれ、CXガバナンスはCXで極めて重要です」とガートナーシニア ディレクター,アナリストの川辺謙介氏は説明する。
「CX活動は、うまく行けばドミノ倒しのように良い効果が全社に広がる反面、うまくいかない場合にも悪い効果が同様に広がります。その効果を制御する要の取り組みがCXガバナンスなのです」(川辺氏)
部門横断型の施策ゆえのCXの難しさ
ただし、CXガバナンスは意外なほど困難なのだという。活動の柱となるのが、リスクを抑えつつ効率的な遂行を目指す変更管理だが、「そもそも変更管理自体が情報収集からフレームワークの設計/検証/実装/運用、パフォーマンス評価までの作業を必要とする煩雑な作業です」(川辺氏)。
加えて、マーケティングや営業、顧客サービスなど、顧客と直接的に関わる部門に加え、体制整備や仕組みの管理、CXにおける人事評価のために、サプライチェーンやIT、人事などの広範な部門を巻き込んで進める必要があることも問題になる。
「CX活動には極めて多くの部門が参加するため、その平均的なメンバー数は平均で直属12名、非直属も含めると総数で97名にもなります。これほどの規模となれば、ガバナンス抜きの推進は当然、困難なわけですが、そこで厄介なのが、CX活動を成功させるには、CXリーダーと全参加部門との適切な協業が必要なものの、CXにおける各部署の役割や重要性が異なるため、一律な管理ではそれを現実的に望みにくいことです(図1)。結果、どこかで綻びが生じてしまいがちなのです」(川辺氏)
では、そこでどんな問題が生じるのか。川辺氏がまず挙げるのが、ビジネスでもしばしば指摘される「機能しない組織構造」である。
CX改善に取り組む企業の組織構造は、次の5つに大別されるという。
- CEOや執行役員レベルの配下に専任組織を置く「機能集約型」
- CEOの配下にあり、執行役員と同等の立場の専任組織を置く「CXインフルエンサー型」
- 事業部レベルの役員の配下にあり、当該部門の製品/サービスに関するCXについてのみ責任を持つ「分散型」
- 顧客対応業務を担う複数の部署の役員による小規模な運営委員会を持つ「タイガーチーム(専門家集団)型」
- 経過的措置的な位置づけでCX組織を初めて組織する場合に見られる、上記組織の「ハイブリッド型」
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