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  • 2021/01/14 掲載

タイガー魔法瓶「復活劇」立役者が明かす、100年企業のDXとD2Cの取り組み

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大阪・門真市に本社を置くタイガー魔法瓶は、創業97年の老舗として有名な調理家電メーカーだ。誰もがその名を知る企業だが、ここ数年、業績が漸減していた。そのころ、ある1人の幹部が同社に着任し、わずか数年で業績を復活させた。その人物こそ、ソニーでVAIOなどの事業を立ち上げ、ソニー本社研究開発本部事業戦略部で統括課長を務めた後、ソーシャルメディア系スタートアップ2社を上場、イグジットさせた浅見 彰子氏だ。同氏は、いかにして、傾きかけていたタイガー魔法瓶を返り咲かせたのだろうか。
執筆:井上猛雄、編集:ビジネス+IT編集部 本橋実紗

執筆:井上猛雄、編集:ビジネス+IT編集部 本橋実紗

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タイガー魔法瓶
取締役
浅見 彰子氏

※本記事は2020年12月10日開催「CEO Japan Summit 2020(主催:マーカスエバンズ)」の講演を基に再構成したものです


“創業100年”目前で業績低迷に苦しんだタイガー魔法瓶

 まもなく創業100周年を迎えるタイガー魔法瓶。浅見 彰子氏が2018年10月に執行役員として入社した際は、IoT化などの新規事業系をメインに担当する予定だったが、前職経験を買われ、同社の事業戦略や商品企画・戦略マーケティングなどの上流領域全般を任されるようになったという。

 当初は「NEXT100年」事業戦略として、利益率が低い調理家電や断熱水筒などの国内B2C市場はSDGs価値訴求や戦略マーケティングで売上を防衛しつつ、産業用部品や医療・宇宙・建設・自動車などのB2Bに事業領域を広げ、海外売上比率を高める戦略を立てていた。

 しかし調理家電などの主力事業の国内市場が予想を超えて縮退。さらに中国や新興企業の参入により、足元の屋台骨に火がつき始めた。


 既存事業の立て直しも任された同氏は、主婦経験を生かし、既存フラグシップ炊飯器の内鍋に「中ブタ」を付けるアイデアを加えた、金型などの投資が不要な商品企画を大ヒットさせ、いきなり同カテゴリーの売上を前年同月比500%伸ばすことに成功。当該炊飯器は2019年度の家電大賞金賞を受賞した。

 この功績などが経営層から認められ、半年後の2019年4月に浅見氏は同社初の女性取締役に昇格。同社で既存事業の大胆な集中と選択の実行やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進など、構造改革の旗手となった。そして2020年、その成果が表れ始めた。

 たとえば、2020年の炊飯器の出荷は、前期比140%、金額ベースでも160%と絶好調で、業界で一人勝ちの状態だ。2020年はフラグシップモデルの土鍋炊飯器は「炊飯器界のロールスロイス」(雑誌『家電批評』より)と評価され、数十年ぶりに業界1位の座に躍り出た。

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炊飯器の業績推移

 電気ケトルについては、ティファールがトップシェアだが、タイガー魔法瓶は4倍あった差を縮め、逆転まであと一歩のところまで2年で追いついた。商品自体には手を入れず、マーケティングを全面改訂しただけで、この結果を出しているというのだから驚きだ。

 なぜ浅見氏は、これほどの短期間にタイガー魔法瓶の業績アップに寄与できたのであろうか。

タイガー魔法瓶を再生した「3つの施策」

 まず浅見氏は、2018年に同社の再生に着手した際、アジャイル経営を中心に据えた3つの施策を打ったという。

(1)事業の選択と集中
(2)横断チームによる商品づくり
(3)利益を出すためのDX徹底

 同氏は「まず、事業の選択と集中を徹底しました。次に、分断されていた組織を横断できるチームを強化して、商品づくりに専念できる環境にしました。そして3つ目は、利益を出すためのDXに振り切りきる。この3つに取り組みました」と振り返る。

 これまでスタートアップを立ち上げてきた浅見氏は、老舗企業とスタートアップの経営の違いが分かっていた。

「スタートアップは生き残るために、とにかく成長が大事です。そのために、あらゆる面で工夫を凝らし、ハイリスク・ハイリターンを狙います。一方、老舗企業は、同じことを続けること自体に価値を生むため、継続を大切にしており、基本的には冒険はしません」(浅見氏)

 つまり老舗の場合は、環境が変わらない限り、劇的な改革は不要だと考えている企業が多いということだ。ところが、ひとたび既存市場が衰退すると、存亡の危機に陥ることになる。価値観の変化でも魅力が薄れてきてしまう。まさにタイガー魔法瓶は、そういった「老舗企業のワナ」にはまっていたのだ。

【次ページ】老舗企業改革における3つの注意点
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