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「御社の取り組みは、デジタル化のためのデジタル化に終始していませんか」。そう投げかけるのは、日本コカ・コーラでCDO(最高デジタル責任者)を務める石井 恵三氏だ。ありがちなDX推進の間違いから脱却し、売り上げ向上とコスト削減という本質的な経営改革を成功させるためのDXアプローチを解説する。
執筆:吉田育代、編集:ビジネス+IT編集部 本橋実紗
執筆:吉田育代、編集:ビジネス+IT編集部 本橋実紗
本記事は2020年12月10日開催「CEO Japan Summit 2020(主催:マーカスエバンズ)」の講演を基に再構成したものです
「ヒト・モノ・カネ」に「情報」が並列される違和感
2020年は産業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が流行した。未曽有のコロナ禍が発生したため、人々の視線はそちらに奪われてしまったが、今やDXを推進しないまでも、意識しない企業はかなり少数派と言って良いだろう。
しかし、石井氏は、ほとんどの企業がDXに向けたデジタル化を、明確な目的やビジョンの下に行っていないのではないかと指摘する。デジタル化しろという風潮だからデジタル化する、というわけだ。
なぜデジタル化するのか。よく語られるのは、“情報(データ)がヒト・モノ・カネに次ぐ第4の資産だからだ”という言葉だ。石井氏はこの考えに対し、次のように疑義を呈する。
「私は、データがヒト・モノ・カネと並列関係にあるとは思っていません。正確に表現するなら、データはヒト・モノ・カネのパフォーマンスを向上させる道具です。たとえば、ヒト。これまでヒトが行っていた作業をデジタルで自動化すれば、ヒトはもっとクリエイティブな仕事に時間を割くことができます。クルマでいえばターボのような存在で、これがあるとないとではパフォーマンスがまったく違ってきます」(石井氏)
B2B企業がB2C企業に主導権を奪われないためにすべきこと
デジタル化の解釈もまた、世間ではさまざまだ。手紙を電子メールに変えるのも、対面販売をECにシフトするのもデジタル化ではある。しかし、「デジタル化の本質的なベネフィットであり、目的と言えるものは2つのポイントに集約されます」と石井氏は語る。
その2つのポイントとは、「コスト削減」と「売り上げの向上」だという。このうち、前者は比較的短期で成果が出しやすい。たとえば、ヒトの仕事をシステムに置き換えて人件費を削減するなどがその例だ。これに比べると、売り上げの向上は簡単ではない。
しかし、データを集めてプレディクティブ(予測)マーケティングを行うことで新しいアクションを取れるようになる。
コカ・コーラのような飲料メーカーを例にとってみよう。飲料メーカーにとって天候データは重要で、暑さ/寒さが売り上げを大きく左右する。これはあくまで一例だが、非常に暑い日であれば、飲料の価格を少し上げても人々は変わらず買ってくれるかもしれない。データを活用したプレディクティブマーケティングによって、売り上げの向上を目的とした施策を打つことも可能になる。
ただ、コカ・コーラのようなB2B企業(注1)にとって、最前線の需要データを集めるのはたやすいことではない。顧客とじかに接しているのはB2C企業だからだ。アマゾンやヤマダ電機が強いのは、顧客がある商品を買うのにどの商品と比較して、どのような手順を踏んだかといった詳細な顧客のデータを持っているからである。そのため、売り上げ向上を目的とした次のアクションを取りやすく、それによってさらに強くなっていく。
注1:炭酸飲料のコカ・コーラが身近な商材であるゆえ、B2C企業と勘違いされがちだが、飲料メーカーである日本コカ・コーラは、イオンなどの小売企業を相手にするB2B企業である。
B2B企業がB2C企業に主導権を取られないためには、B2Bであったとしても努力してエンドコンシューマーのデータを持つべきだ、と石井氏は強調する。
ここで同氏は、グローバルな動きとしてナイキがアマゾンから撤退した事例を紹介した。アマゾンは出品者に顧客情報を一切出さないことで知られる。あえて安定した売り上げを捨て、自社独自のECに集中することを選んだのは正しい動きだった、と石井氏は評する。
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