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テクノロジーの進展とともに製品が高機能化し、単に性能が良いというだけでは消費者の支持が得られない時代になりました。「地球上でもっとも顧客第一の会社」をミッション・ビジョンとして掲げているアマゾンに限らず、あらゆる企業が今取り組んでいるのが「体験(エクスペリエンス)」の改善です。しかし、似たような言葉に「ユーザビリティ」「ユーザー・エクスペリエンス」「カスタマー・エクスペリエンス」といった言葉があります。それぞれはいったい何が違うのでしょうか。立教大学ビジネススクール教授で、競争戦略アナリスト 田中 道昭氏が解説してくれました。
ユーザー・エクスペリエンスとは何か?
GAFAやBATH のみならず、もはやあらゆる企業にとって「ユーザー・エクスペリエンス(User Experience)」の向上は、早急に取り組むべき課題になっています。ユーザー・エクスペリエンスとは、ユーザーが、製品やサービスを使うことで得られる経験(Experience)のことです。
似たような意味で使われる「ユーザビリティ」という言葉が、「使いやすさ」や「使い勝手」を指すのに対して、アップルの項目でも解説したように、ユーザー・エクスペリエンスはもっと幅広い要素を含みます。「使いやすさ」だけではなく、「気持ちよさ」や「楽しさ」といった感情面の要素までカバーしているのです。
さまざまな製品やサービスが高機能・高性能となり、それだけでは他社と差別化できなくなっている現在、やはり「使いやすさ」が優れているだけでは決め手に欠けます。「気持ちよさ」や「楽しさ」、あるいは「感動」をユーザーに提供できるかどうかが、差別化のポイントになってきているのです。
ただし「言うは易く行うは難し」で、テクノロジーが発達するにともない、製品やサービスに期待されるユーザー・エクスペリエンスは日々高まっている状況です。
アマゾンは日本人のライフスタイルを変えた
「地球上でもっとも顧客第一の会社」をミッション・ビジョンとして掲げているアマゾンは、ユーザー・エクスペリエンスにこだわり続けている代表的な会社の1つです。
アマゾンが日本でサービスを始めたとき、アマゾンで買った商品が最短で注文した当日に配送されたときは、誰もが驚いたはずです。しかも、年会費を支払えば、何回注文しても最短当日に配送されるという画期的な仕組みで、瞬く間に日本社会に浸透していきました。そして、「ライフスタイルを変えた」とまで呼ばれるようになります。
しかし、その画期的だったサービスが普及してしまうと、今度は当日に届くことに驚きを感じなくなり、いつの間にか“当たり前”という感覚が定着してしまいました。これが、「ユーザー=消費者」の怖いところでもあります。
アマゾンのCEOであるベゾス氏は、「消費者には3つの重要なニーズがある」と言い続けています。それは、「低価格」「豊富な品揃え」「迅速な配達」です。そして、消費者は、どんなにアマゾンがサービスを充実させても、「これ以上安くしたり、品揃えが増えたり、配送が早くならなくてもいい」と満足することがないことをベゾス氏は知っています。人は利便性が高まるほど、それまで感じていなかった新しい不便を感じるようになるからです。
ベゾス氏は、事あるごとに、「消費者は決して満足することはない。そして自分はつねに商品やサービスをもっと良くすることにこだわっている」と述べているのは、先鋭化する消費者のニーズ、期待に対して、アマゾンが先回りをして対応していくという強い意志の表れともいえるでしょう。
アマゾンの物流ネットワークへの執着や、有料会員サービス『Amazonプライム』において動画や音楽、電子書籍などのコンテンツを過剰なまでに提供するのは、そうしたベゾス氏の意志が具現化したものと考えられます。
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