- 会員限定
- 2021/04/01 掲載
CSVとは何か?CSRとの違いは?ネスレも取り組むポーター教授の差別化戦略の本質
事例や図解でフレームワーク解説
-
|タグをもっとみる
CSV (Creating Shared Value)とは、2011年にハーバードビジネススクールの教授であるマイケル・E・ポーター氏とマーク・R・クラマー研究員が発表した論文『Creating Shared Value』(邦題『経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略』)で提唱されたものです。日本では、「共通価値」「共有価値」などと訳され、CSR(Corporate Social Responsibility)の発展形と言われることもありますが、ポーター教授いわく、CSVとCSRは似て非なるものです。CSVは、企業にとって負担になるものではなく、社会的な課題を自社の強みで解決することで、企業の持続的な成長へとつなげていく差別化戦略なのです。
CSVは競争優位につながるのか?
ここでいう「ポーター仮説」とは、「適正な環境規制は、規制を実施していない地域の企業よりも競争力の面で上回る。規制が企業の効率化や技術革新を促している」という企業の国際競争力についての仮説です。
日本の歴史を具体例として、少しかみ砕いて説明しましょう。
かつて高度成長期の日本は、有毒な汚染物質等による健康被害や生態系へのダメージなど、深刻な公害問題を内包していました。企業の社会的な責任が問われ始めたのは、この頃からでしょうか。
その負の歴史を教訓として、環境規制が急速に強化されることにより、企業はこれら社会的な課題へのニーズに対応する形で、環境技術のイノベーションを起こし、先進的な環境技術や省エネ技術を生みだしました。これは企業責任という枠を超え、その社会的価値のある環境技術が新しいビジネスへと発展し、その後の日本企業の競争力の源泉ともなりました。
このように、社会的な課題とはビジネスの機会でもあるのです。CSVでは、この課題解決がイノベーションを創出する源泉であり、ポーター教授は社会と企業が対立しない「新しい資本主義」であるとしています。
CSVとCSRは何が違うのか?
CSVとCSRとは社会性という意味では似ていますが、端的に言うと、CSRは守りのイメージです。社会や環境への自社の責任として害を低減する、ステークホルダーと良好な関係を生み出すものですが、どの会社でも同じような活動をしています。
一方、CSVは、攻めのイメージです。その企業の持つ強み(経営資源・専門性等)を活かし、資本主義の原理に基づいて、ビジネスとして社会問題を解決するという視点であり、その点で、CSRとCSVでは大きく異なっています。
CSVに似た概念は、日本に昔からあった?
その通りで、古くから日本にはこのCSVに通じる概念に似た言葉がありました。近江商人が大切にしていた精神であり、現在では伊藤忠商事などの企業理念としても知られている「三方よし」です。売り手よし・買い手よし・世間よしという経営哲学を表現する言葉には、事業の社会的意義と、ビジネスとの相関を表しているものでもあり、社会性と事業性はトレード・オフではないというCSVの概念にも通じるところがあります。
また、『マネジメント』の著者ピーター・F・ドラッカーは、著作の中で、マネジメントの3つの役割の一つとして、こう述べています。
「企業は、社会や経済の許しがあって存在している。社会に有用かつ、生産的な仕事をしているとみなす限りにおいて、存続を許されている」。また、「企業の利益は、企業や事業の目的ではなく、条件あり、妥当性の尺度である」と。
事業の存続には社会性が必須であり、同時にビジネスとして成り立つことが条件であるという部分は、CSVの考え方とよく似ています。
【次ページ】CSVを実践する企業の具体例とは?
関連コンテンツ
PR
PR
PR