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近年、日本の金融機関においてもFinTechへの投資や実証実験の活動が相次いでいる。2017年以降、FinTechはどのように進化していくのか。また、FinTechを有効活用し、成功を勝ち取る金融機関はどのような態勢を整えていくべきなのか。さらに自らがビジネスチャンスを掴むためには何から始めればよいのか――。破壊的イノベーションの到来に備えるための問いかけに、ガートナーでFinTechの第一人者と呼ばれるジェームズ・プラス バイスプレジデントが応えた。
日本でもFinTechへの投資トレンドは続く
世界規模でFinTechへの投資が拡大している。2015年の民間企業によるFinTechへの投資は190億ドルとなり、2010年の18億ドルから10倍以上に急増した。
問題は、この時代の潮流をどう捉えるか、だ。FinTechを新たなビジネスチャンスと見るか、それとも脅威と見るかによって、今後の展望は大きく変わってくる。実際、デジタルテクノロジーを駆使した新規参入者がもたらす破壊的イノベーションにより、金融機関は莫大な売上や利益を失うリスクにさらされるという予測もある。
ガートナー コンサルティング バイスプレジデントのジェームズ・プラス氏は、「伝統的な金融機関がFinTechにビジネスチャンスを見出したいのであれば、デジタルビジネスへの転換を急いで、新たなビジネスモデルやエコシステム、プラットフォームを構築し、顧客との革新的なインタラクションの方法を模索していく必要がある」と説く。
そして今、日本にもFinTechの波は確実に押し寄せている。先に示した世界の投資規模から見ればまだまだ比率は小さいが、それでも2015年における日本のFinTech投資は1億4,173万ドルに達しており、大きな伸びを見せているのである。
プラス氏もまた、日本のFinTech市場のさらなる成長を有望視している。
- 日本国内には16兆ドルを超える個人金融資産があり、その50%以上を現金または現金相当の資産が占めている
- マイナス金利の環境下で、金融機関は先を争って新たな成長分野や収入源を模索している
- 5%ルールの緩和をはじめとする法改正の計画があり、金融機関がFinTech企業に出資しやすくなる可能性がある
- NTTデータのような有力企業が、APIによるオープン・バンキングのサポートを開始した
- 金融庁が2016年4月に『フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議』を設置し、日本でのFinTechエコシステム推進をサポートし始めた
といったことが、その理由だ。
「ペイメントはもちろん融資、各種ローン、パーソナルファイナンス・マネジメントなど、さまざまな分野で多くの企業が新規参入の動きをとっており、日本でもこのトレンドが続く可能性は非常に高い」とプラス氏は予測する。
APIが今後のプラットフォーム/エコシステムのライフラインになる
FinTechを新たなチャンスとして活用し、成功を勝ち取る金融機関は、具体的にどのようなデジタルビジネスの態勢を整えているのだろうか。
プラス氏がまず挙げるのが、「プラットフォーム/エコシステムの概念でサポートされる新たなビジネスモデル」だ。これまでのビジネスは、製品とサービス、資産、機能、構造、人、プロセスなど、あらゆる要素が1つのシステムに実装されていた。こうしたサイロや閉鎖領域ではなく、他社との協業によるプラットフォーム/エコシステムを活用してビジネスを展開していくことで、今後の価値提案を強化することが可能となる。
当然、そこでは従来とは異なる企業間連携の仕組みが必要となる。APIおよびそれに関連するオープンな概念を採用することで、エコシステム内での情報共有を促し、新しいビジネスモデルをサポートするのである。
「APIが今後のプラットフォーム/エコシステムのライフラインになる」と示唆するプラス氏は、「自社のオーナーシップのコントロールを他社にも渡していくという企業文化の変革によってこそ、FinTechのビジネスチャンスを掴み、有効活用することができます」と強調する。
その変革の中で、新たな働き方を確立することも重要だ。「古い人材モデルや運営モデルに固執することなく、共同設計やコロケーションを通じたコラボレーションを推進することで、アジリティを担保することができます」とプラス氏は語る。
加えて考慮すべきが、カスタマー・エクスペリエンスの創出である。単なる商品やサービスにとどまらない卓越した“体験”を顧客のライフサイクルを通じて提供することで、企業は売上や利益を増大することができる。「もちろんコストは必要だが、それは市場投入までの時間との対比で考えるべき」とプラス氏は説く。
すなわちアジャイルな協業によってタイムツーマーケットを短縮することが、新たな価値創造につながり、相対的な意味でのコスト削減をもたらすのである。
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