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中央集権的な管理機関を必要とせず、参加者が対等に総合監視/協力をすることで、信頼性を維持する「ブロックチェーン」。その適用範囲は金融分野だけでなく、サプライチェーン・マネジメントやスマートグリッド、さらにIoT(Internet of Things)分野にも広がりを見せている。9月8日に開催された「ブロックチェーン・イノベーション2016」のパネルディスカッション「ブロックチェーンの安全性と汎用性を考える」では、経産省の佐野 究一郎氏、ヤフーの楠正憲氏、MIT 松尾 真一郎氏、日本マイクロソフトの榊原彰氏、GLOCOMの高木聡一郎氏が登壇し、ブロックチェーンの安全性とその課題、さらに将来の可能性について語り合った。
ブロックチェーンの定義はいまだに曖昧
ブロックチェーンは、仮想通貨「ビットコイン」の基盤技術として考案・発展した技術である。ただし、その安全性については疑問視する声が少なくない。学術研究用国際ネットワークである「BSafe.network」の共同設立者であり、長年ブロックチェーンの研究に携わっている松尾氏は、「そもそも『技術的に何が整っていれば“よい”ブロックチェーンなのか』という定義がない」と、ブロックチェーンの定義自体が曖昧であることを説明する。
ブロックチェーンには「非中央集権ネットワーク基盤」「高セキュリティ」「プライバシーの確保」「拡張性」といった特性がある。松尾氏は、「こうした特性は、適用されるユースケースによって要件レベルが異なる」と指摘する。つまり、仮想通貨や土地登記といった適用目的と、スマートグリッドやIoTといった分野で適用されるブロックチェーンでは、重視する特性変わってくるというのだ。
「すべての要件を満たす“解”は存在しない。ブロックチェーンはユースケースによって、その分野に要求される特性をチューニングすることが、本当の使い方だ。『どの分野で』『どの特性が』『どのくらい必要なのか』といった議論が、今後は必要になる」(松尾氏)
もう1つ、松尾氏が課題として挙げるのは、ブロックチェーンで用いられる暗号技術の信用性だ。同氏によると暗号プロトコルを数学的に証明することは難しく、ブロックチェーンの暗号化プロトコルも、その安全性の証明が困難であるという。
ブロックチェーンはこれまでの情報システムとは異なる
学生時代から電子マネーについて研究している楠氏も、「ビットコインやブロックチェーンの安全性は、学問的に“詰められていない状態”にある」と指摘する。その一方で、ビットコインはすでに6年間運用され、1兆円の時価総額があることから、「(利用期間と流通金額から考えて)ビットコイン自体はある程度は安全だと思うが、『ビットコインの安全性=ブロックチェーンの安全性』という論法には疑念を持っている」との見解を示した。
また楠氏は、「業務とデータの関係性で見ると、ブロックチェーンはこれまでの情報システムとは異なる」と指摘する。
これまでの情報システムは、業務を稼働させる基盤として構築されていた。しかし、ブロックチェーンは、データ構造とそれに連携する情報システムが先行して存在する。そして、そのデータ構造をどのように活用していくかを考え、業務の適用範囲を決める。つまり、システムの設計順序が既存のものとは逆なのだ。楠氏は、「ビットコインのようなシステムの設計順序は、テスト工数の削減や信頼性向上に役立つはずだ。ブロックチェーンがこれからの情報システムに与える影響は大きいと考える」と述べ、その可能性の大きさを示唆した。
一方、マイクロソフトの榊原氏が「ブロックチェーン普及の課題」として問題提起したのは、「スマートコントラクト」のあり方である。スマートコントラクトとは、ブロックチェーン技術を応用し、契約の成立や条件判定を自動認識する取り組みだ。榊原氏は「スマートコントラクトは誰でも書けるものであり、自由度が高いぶんリスクもある」と指摘する。
これに対し松尾氏は、「(スマートコントラクトを書く時の)プログラム言語のあり方は、きちんと議論すべきであったという指摘されていた。しかし、現在は(プログラム言語の)研究改良がされているし、スクリプトをチェックするツールも存在する」と現状を説明する。
むしろ松尾氏が課題として指摘するのは、ブロックチェーンのプロジェクトに携わる人材のスキルだ。「(金融分野適用のブロックチェーンのプロジェクトで)実際の金融システムを“触った”ことがない人材が担当している場合がある」(同氏)
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