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- 2016/08/10 掲載
今さら聞けないブロックチェーンの基本と仕組み、なぜ「無限の使い方」が可能なのか
GLOCOM高木聡一郎 准教授が解説
ブロックチェーンとは何か?その3大要素とは
高木氏:私は、ブロックチェーンをインターネットという情報インフラの上にある「ミドルウェアのようなもの」という理解の仕方をしています。インターネットは情報と情報とをつなぐものですが、その1つ上のレイヤーに、価値/人/企業などの主体間の関係性を定義するようなネットワークがもう1つできたという理解です。
ここで言う主体とは、経済活動における自律的な存在のことを指します。企業が保有するデジタル化された資産の場合もあれば、相互に繋がって取引を行うデバイスの場合もあります。
──ではビットコインはあくまでその価値が金銭的な価値だったということでしょうか。
高木氏:はい。たとえばビットコインであれば、どういう人や企業が、どれだけのビットコイン(価値)を保有し、さらにそれを流通させているのかの関係性がわかります。ここでいう価値は通貨としての価値だけとは限らないということです。この辺は現在も進化を続けているポイントです。
──それでは、ブロックチェーンはどのような特徴を持った技術と言えるのでしょうか?
高木氏:ブロックチェーンの明確な定義は定まっていませんが、共通して3つの要素が挙げられます。
1点目が、データが連結されていることです。あるまとまった単位の取引データを1つのブロックにまとめていきます。このブロックを連結していくことで、過去のデータを改ざんすることが非常に難しい性質を持つことになります。
1点目がブロック単位の話をしているのに対し、2点目は個別の取引データの話です。先の話とも重複しますが、主体と情報資産を紐づけて管理できます。たとえばAさんという人と、Aさんが所有しているお金とを紐づけるといったことです。
こういった取引データと、それをまとめて連結したブロックチェーンをP2Pで管理します。このP2Pによるデータ管理が、ブロックチェーンの3点目の特徴となります。P2Pでデータ管理することには2つの意味があります。1つ目が、相互に繋がるどれか1台のコンピュータがダウンしてもサービスの提供が続けられることです(耐障害性)。2つ目が特定の管理者が全体をコントロールしなくても、システムが運用されることです(管理者不要)。
最も新規性が高いのは、3点目のP2Pでデータを管理できるところだと思います。P2P技術自体は目新しいものではないですが、ブロックチェーンのような「データの整合性に関するコンセンサスを取れるP2P」は生まれ立ての技術と言えます。たとえばビットコインの場合は、取引に参加しているすべてのコンピュータが同じデータを持ち、これが今正しいバージョンだということを合意し合う必要があります。
一方、1点目と2点目の特徴は、技術的な面では比較的安心して使えるアーキテクチャです。1点目と2点目、それぞれの特徴だけに焦点を当てた使い方も可能で、今後はもっと増えてくる可能性があります。
ブロックチェーンの課題、セキュリティは大丈夫なのか
──ブロックチェーンは多くのメリットをもたらしてくれる技術だと思いますが、現場で活用していくにはどのような課題を解決する必要があるのでしょうか。高木氏:まず今のブロックチェーンの課題として挙げられるのが、認証に時間がかかることです。改ざんできないレベルの単位にブロックがまとまるまでには、どうしても一定時間が必要で、ビットコインなら10分間隔です。実は10分でも100%確実ではないのですが、一応10分で確定と見なしましょうということです。そのため、ビットコインは、情報資産をストックする分にはよいですが、リアルタイムの取引には向いていないと言えます。
セキュリティ上の課題もあります。今ブロックチェーンにはオープンなものと、特定の組織やグループ内に閉じたクローズドなものとがありますが、オープンなブロックチェーンの場合、基本的にすべてのデータを外から誰でも見ることができてしまいます。もちろん個人名などは見えませんが、利用者のIDは公開鍵として示されるので、その公開鍵を持った人が、過去にどんな取引をしているかをすべて追うことができるのです。復号のための秘密鍵をどう管理するかも問題ですね。
またブロックチェーンをデータベースとして使えないかという話も出ていますが、ブロックチェーンにはデータの「書き換え」という概念がありません。たとえばAさんからBさんに情報資産を移す取引をして、もしそれが間違っていた場合、取引を取り消すのではなく、BさんからAさんに資産を戻すという取引をしなければなりません。したがって、処理をすればするほどデータは増えていき、データ保存用のコストも増大していくことになります。
こうしたさまざまな問題はありますが、解決策も次々に出てきています。その意味でブロックチェーンは、現在もイノベーションを続けているテクノロジーだと言えます。
──具体的な解決策としては、どのようなものがあるのでしょうか。
高木氏:たとえばイーサリアム(Ethereum)は、ブロックチェーン上で汎用的なコンピュータプログラムを実行できますし、認証時間もずっと短くなっています。
──ビットコインなどの課題を解決してくことは可能なのでしょうか。それとも、イーサリアムなどに置き換わるもの、あるいは置き換えなければならないものなのでしょうか。
高木氏:通貨というものを考えた時、通常我々は通貨を発行する国を信頼して、その通貨を使います。ビットコインという仮想通貨を使う時に我々が信頼するのは、そのアルゴリズムです。今信頼しているアルゴリズムを変更するためには、改めて合意形成が必要です。利用者が新たなアルゴリズムを良しとするかどうか。たとえば今、ビットコインを“発掘”しているマイナーたちは、自分たちが不利になるなら嫌だと言うでしょう。ビットコインのように、多くの人々に浸透し、オープンで運用されているブロックチェーンを丸々変更することには、やはり大きな障壁があります。
合意形成の負の側面が出てイノベーションが阻害されるようだと、別のブロックチェーンへの乗り換えということが起きてくるかもしれません。
一方、ブロックチェーンをクローズドで使うなら、そういう問題は起きません。限定的な主体間で合意を取って使えばいいですし、ビットコインのブロックチェーンをカスタマイズして、認証スピードを上げてもいい。つまり何を課題ととらえるかは、どんな目的で、どんな範囲でブロックチェーンを利用するかにも依存するということです。
ブロックチェーンが革新的な理由
──現在はビットコインに代表される金融分野での利用にスポットが当たっているブロックチェーンですが、ほかにはどのような領域での活用が見込めるのでしょうか。高木氏:先に紹介した3大要素に照らし合わせて見ていくと、まずデータを改ざんできないという特徴からは、秘匿性はあまり求められないが、偽造されては困るものや、第三者が検証することが重要なものに適用することができます。これはたとえば、各種の登録・台帳的なものや決算データの偽造防止といった場面で効果を発揮するでしょう。
また主体と情報資産との紐づけという観点からは、資産の所有者や資産の状態がどんどん変わっていく時に、それらを管理したいという場面でブロックチェーンは有用です。たとえば、デジタルコンテンツの所有権を譲渡するという時や、もう少し言うと特定のサービス上で購入した電子書籍をサービス横断的に管理したり、中古で販売することも可能になります。
そして、P2Pによる管理者不要という観点からは、中央管理が必要なサービスを置き換えることができる可能性があります。たとえば、現在、米国では乗客とドライバーをマッチングするArcade Cityというライドシェアリングサービスが登場しています。このサービスは、Uberなど中央管理者が全体をコントロールするのではなく、より分散的に車に乗りたい人と車に乗せたい人を結びつけることを目指したサービスです。既存のタクシー業界を破壊しつつあるディスラプター(破壊者)のUberですが、ブロックチェーンの技術を使えば、そのディスラプターがディスラプト(破壊)される可能性もあると指摘されています。
【次ページ】ブロックチェーンの活用事例
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