- 2023/06/24 掲載
NFTとは何かをマンガでもわかりやすく解説、なぜデジタルデータに数億円の価値が付くのか?
藤森みすず
大手Slerにてシステムエンジニアを経験後、フリーランスのライターに。IT・IoT、FX・保険・不動産・フィンテックなど、多様な記事の執筆を手掛ける。
しらいはるか
エディター・ディレクター
医療系大学院修了。公務を経てライターとしてキャリアをスタート。「医療」「金融」「ビジネス」の3分野をメインに執筆。ブックラィティングやコピーライティングも手掛ける。2018年よりエディター・ディレクターにシフト。現在は主にサイト運営やメディア管理を行う。
NFTとは何か? 何が革新的なのか?
NFTとは、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のこと。暗号資産(仮想通貨)と同じく、ブロックチェーン上で発行および取引される。従来、デジタルデータは容易にコピー・改ざんができるため、現物の宝石や絵画などのような資産価値があるとはみなされなかった。この状況を変えたのがブロックチェーンだ。ブロックチェーン上のデジタルデータは、参加者相互の検証が入ることでコピーや改ざんをしにくくし、デジタルデータの資産価値を持たせられるようになった。ビットコインが数百万円でやり取りできるのは、この仕組みのおかげだ。
これまでも、デジタルデータに電子透かしを入れるなどの方法はあったが、コピーや改ざんを直接防ぐ技術はこれまでなかった。デジタルデータに唯一無二の価値を持たせることを可能にしたのがNFTなのである。
NFTの出現に期待できる分野は多い。デジタルアートはもちろん、ゲームやマンガ、デジタルジャケットの限定版などは利用が期待できる。
國光氏によれば、「物理的なものの管理や資産価値の証明、たとえば不動産の証明書などにも活用できるが、わざわざNFTを使う必要がない。デジタル資産やデジタルアートなどに対する証明でこそ、NFTの真価を発揮できる」という。
NFTが注目を集めるようになった背景
NFTの歴史は、2017年にイーサリアムブロックチェーン上で誕生した「CryptoKitties」というゲームに端を発する。しかし、急速に注目を浴びだしたのは2021年に入ってからだ。2021年3月には、Twitter創業者のジャック・ドーシー氏の出品した同氏の初ツイートが約3億円で落札。テスラのイーロン・マスク氏が出品した音楽作品には約1億円の値が付いた。日本人では、VRアーティストのせきぐちあいみ氏が出品した作品が約1,300万円で落札されるなど、話題に事欠かない状況が続いている。
NFTの代表的な取引サービスとして知られる「OpenSea」。2021年1月に約8億円だった月次取引高は、翌月2月には約100億円と急速に成長した。
従来は資産価値の付与が困難だったデジタルデータがNFTにより資産的価値と売買市場が形成されたことにより、アート界隈で注目を集めるようになった。さらに、上記で紹介したような高額での取引が実際に行われたことなどから、急速に注目を集めている。
NFTと暗号資産は何が違うのか? イーサリアムとの関係は?
NFTと暗号資産の違いは、端的に言えばトークンが代替性か非代替性かどうかという点にある。暗号資産は、FT(Fungible-Token:代替性トークン)であり、資産個別の識別情報を無視して「〇〇万円分の資産価値を持ったデジタルデータ」として扱うことで、他の暗号資産や現金と交換できる。つまり、暗号資産は代替可能なトークンなのだ。一方、NFTは各作品の識別情報も踏まえて資産価値を与え、他の同等作品とは交換できない唯一無二の存在として扱う。したがって、同じようなデータでもまったく異なるうえに、その金銭的な価値は相対取引によってのみ決まるケースも多いだろう。芸術作品などとの相性が良いのはこうした理由からだ。
また、イーサリアム(ETH)は、ヴィタリック・ブテリン氏によって開発されたプラットフォームの名称だ。ここで使用される仮想通貨はイーサという名称だが、日本では、プラットフォームとイーサをどちらも「イーサリアム」と呼ぶケースが多い。
現在、NFTの取引の大半はこのイーサリアムブロックチェーン上で取引されている。イーサリアムはプラットフォームになっているが、オープンソース・ソフトウェア・プロジェクトのため、中央で管理する者がいないのも特徴だ。NFT市場の過熱に合わせて、プラットフォームとしてのイーサリアムも仮想通貨のイーサも評価を高めている。
一方で、NFTで注目を集めているがゆえに競合の台頭も著しい。國光氏によると、「イーサリアム以外のブロックチェーンプラットフォームプレイヤーが出そろってきた。今後はこのプラットフォーム同士の戦いが始まる。かつての検索エンジンやECサイトで見られた競争と同じことが起こるだろう」という。
名称 | 暗号資産 | NFT |
特徴 | 代替可能トークン | 非代替性トークン |
意味 | 同じトークンが存在する | 同じトークンが存在しない |
分割 | 可能 | 不可能 |
イーサリアムでの規格 | ERC20 (ERC1155) |
ERC721 (ERC1155) |
活用領域 | 通貨やポイントなど数量的なもの | デジタルアート、ゲームアイテムなど、1点もの |
NFTの持つ3つの特徴
NFTの持つ特徴は、大きく分けて3つある。それがプログラマビリティ・取引可能性・相互運用性だ。1.プログラマビリティ
プログラマビリティとは、2次流通で手数料が入るなど、さまざまな付加機能をそのデータ自体に付与できるということだ。 その好例となるのが、転々流通(不特定多数への流通)時の手数料だ。ある絵画を画家から購入した画廊が、顧客にその絵画を販売したとしよう。画廊から顧客に販売する際、画家には収入が入らない。しかし、NFTなら作者の手を離れても、「転々流通時に購入代金の一部を支払う」というプログラムを仕込むことができる。
そのため、1次創作者に継続的にマージンが入る仕組みを作ることもできるし、著者権管理を行う中間団体(たとえば音楽で言うとJASRACのような団体)が存在しなくても済むことになる。
転々流通はあくまでプログラマビリティの要素の1つに過ぎないが、「今後は従来の物理的な取引では想像もつかない仕組みが構築される可能性がある」(國光氏)という。この特徴はNFTの持つ特徴の中でも最も重要な要素と言えるだろう。
2.取引可能性
NFTは、オーナーシップが特定のサービスベンダーではなく非中央集権的なブロックチェーン上に明記されている。このため、所有者は、ビットコインなどのように、所有しているNFTを自由に移転できる。このことを「取引可能性」と呼ぶ。
これにより、国や既存の枠組みにとらわれることなく、従来以上に自由な取引が可能になる。
3.相互運用性
NFTの仕様は、現在のところ共通規格として定められているため、この規格に沿って発行するサービスなら、どこでも取り扱うことが可能だ。
なお、NFTを扱うイーサリアムブロックチェーンの規格は、ERC721が一般的である。ただ、現状、技術的に相互運用性は完全ではなく、この規格が必ずしも標準というわけではない点には注意が必要だろう。
どうすればNFTを購入・販売できるのか?
実際に、NFTに参加して「アート作品を購入したい」「販売したい」「NFT関連銘柄に投資したい」という方もいるだろう。そこで、NFTアートの購入・販売が可能なマーケットプレイスやNFT関連銘柄・NFT関連の仮想通貨をいくつか紹介する。まず、NFTアートを購入するには、マーケットプレイスを利用する。人気の高いマーケットプレイスは、手数料2.50%で取引額も大きいOpenSea、クレジットカードとペイパルが使えるMakersplace、そしてGhostMarketなどがある。
2023年には、手数料無料で話題を博したBlurや、X2Y2・LooksRareなども取引量が高いマーケットプレイスとして認識されるようになった。ブロックチェーン分析プラットフォームDappRadarを確認すると取引量の多さでは1位がBlur、以下OpenSea、X2Y2、LooksRareと続く(2023年4月13日時点)。
国内外の主要なNFTマーケットプレイス
海外 |
OpenSea Rarible Makersplace GhostMarket SuperRare Valuables Blur X2Y2 LooksRare など |
国内 |
Coincheck NFT(β版) SBINFT Market(旧nanakusa) Adam byGMO など |
※国内マーケットプレイス運営者でこちらに記載を希望する方は編集部までお問い合わせください。 読者への有益性を考慮のうえ、掲載を検討いたします |
マーケットプレイスごとに使えるブロックチェーンは異なる。他のマーケットプレイスでは使われていないマイナーなブロックチェーンを選ぶと相互運用性に難が出る。マーケットプレイスを選ぶ場合は、手数料や支払い手段だけでなく、ブロックチェーンの種類にも気を付けたい。
マーケットプレイスでNFTアートを購入する前に、「どのウォレットが必要か」「暗号資産を入れておく必要があるか」などの確認も済ませておこう。
NFTで自分の作品を販売するには、販売するマーケットプレイスと使用するブロックチェーンの種類を決める必要がある。両者を決めたらデジタル作品を登録し、各マーケットプレイスに準じて販売方法を設定して出品。販売方法を設定する際、「作品の転売時にいくら手数料を徴収するか」ということも設定できる。
2023年時点のNFTの最新動向
(1)2023年のNFT市場は競争激化により拡大傾向2023年第1四半期のDappRadarのレポートによると、NFT市場は引き続き急速な成長を遂げ、総取引量は前四半期比で137%増加して47億米ドルに達した。この成長は、新規参入者や既存プラットフォームの拡大により加速している。
また、NFT関連の市場やオークションプラットフォームも次々と登場しており、競争が激化している。DeFiとNFTを組み合わせたイノベーションも目立ち、新たな価値提案と市場機会が生まれている。
たとえば、NFTを活用した借入・貸出プラットフォームや、NFTコレクションの価値に応じた金利や利益を提供するプロジェクトが登場した。これにより、NFT資産の流動性が向上し、市場の活性化がさらに進んでいると言えるだろう。
また、NFTはデジタルアートだけでなくさまざまな産業においても活用されており、スポーツや音楽、ファッションなど幅広い分野で利用されるようになってきた。特に、メタバースやゲーム内アイテムとしてのNFTの需要が高まっており、仮想世界での土地や建物などの資産もNFTとして取引されている。
NFT市場は、新たな技術やプラットフォームの登場、企業や個人の参入によって、市場規模や取引量が今後も拡大していくだろう。また、NFTの活用方法や価値が多様化し、デジタル資産の重要な一部として定着していくことが予測される。
しかし、同時に規制やセキュリティ面の課題も増えるため、今後はさらなる適切な対策が求められる。
(2)Blurなど新興NFTマーケットプレイスの台頭
2023年第1四半期のNFT市場が急激な成長を見せた背景には、新興NFTマーケットプレイスの台頭も挙げられる。2023年2月、新興NFTマーケットプレイスであるBlurが、取引量で長らくトップであったOpenSeaを上回り、注目を集めた。
DNFTアナリティクスサービスの1つであるDune Analyticsで確認すると、2023年2月15日の取引量において、Blurは3万425ETH、OpenSeaは7,246ETHで、市場シェアもBlurが73.7%、OpenSeaが17.6%と大きく開いたのだ。これは、Blurが独自トークンBLURのエアドロップ(無料配布)を行ったことが影響していると考えられる。
Blurの特徴は、手数料が無料であること。この特徴は、Blurの大きな魅力となっている。OpenSeaも手数料を一時的に無料にして対抗したが、その後の取引量はもとの水準に戻っている。一方で、Blurには仮想売買の疑惑が浮上しているものの、その存在感は拡大している状況だ。
Blurは、NFT市場での競争が激化する中で、新たなプレイヤーとして台頭しており、その背後には、24歳(2023年4月時点)のティーシュン・ローケル氏が創業者の一人として活躍している。また、X2Y2など他のNFTマーケットプレイスもシェア争いに参加し、2023年のNFT市場はさらなる波乱が予想される。
NFTにまつわる4つの懸念点とは?
1.NFT作品の価値消失リスクNFTはそもそも、デジタルデータに対してお墨付きを与えるだけの存在だ。したがって、デジタルデータをコピーするといったことを防げるものではない。
また当該デジタルデータが別のプラットフォームに依拠している場合、たとえば、ツイッターのツイートデータはツイッターの運営が終わってしまうとそのデータの価値も消失してしまう懸念がある。
2021年4月、現代美術家・村上隆氏は、OpenSeaへ出品していたデジタルアートの発売を延期し再検討することを発表した。
その理由として、村上氏は作家と購入者の権利を守るためとしている。NFT作品の価値消失リスクにどう対応していくかは今後の課題だろう。
2.マネーロンダリングに悪用される懸念
NFTは、「マネーロンダリングに悪用される懸念がある」という指摘もある。非中央集権的なブロックチェーンプラットフォーム上にあるためだ。
ただ、國光氏は「代替性のある暗号資産や現金のほうが、NFTよりもずっとマネーロンダリングしやすいのではないか」と指摘する。NFTは現状、2次市場の流動性が低く、暗号資産を直接活用したほうがより一層手軽に多額の資金を移転できることを考えると、国光氏の指摘はもっともだろう。
3.コンプライアンスの未整備
NFTは、資金決済法上の暗号資産に該当しない。そのため、金融規制の監督外となり、何らかのトラブルが発生しても現状は自己責任となってしまう。守るべきコンプライアンス基準が十分に整備されていない状態の中、トラブルが起こる可能性があるため、各自が責任をもって注意しなくてはならない。
世界的な金融正常化機関であるFATF(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)は「NFTも暗号資産や法定通貨に交換可能であり、監視対象にある」として注視している。
4.バブル化の懸念
現状のNFT市場は、落札価格、取引価格が非常に高くなっており、「本来の価値に比べても高くなり過ぎたバブル状態ではないか」という懸念の声が出ている。現在、NFT市場で売買しオークションで落札をしている人の多くは、アート作品のコレクターではなく投資家という指摘もあるため、個人で購入を考えている人は十分に注意する必要があるだろう。
5.環境破壊の懸念
NFTの普及に伴い、環境破壊への懸念も話題になった。その主な理由は、NFTの生成や取引に使われるブロックチェーン技術が、大量のエネルギーを消費している点にある。
特に、NFTの多くがイーサリアムブロックチェーン上で発行されており、イーサリアムはPoW(Proof of Work)というコンセンサスアルゴリズムを採用していた。PoWでは、コンピュータが複雑な計算を競争的に行い、その計算結果によって新たなブロックが生成されるため、多くの電力を消費してしまう。
しかし、イーサリアムはエネルギー効率の高いPoS(Proof of Stake)への移行を2022年9月15日に完了させた。PoSは、ブロックチェーンのエネルギー消費を99.9%削減すると言われているため、環境破壊に対する懸念はかなり軽減されることが期待される。
NFTは「新しいコンテンツ流通」の血液となるのか
バブル化の懸念については、イーサリアム創始者のVitalik Buterin氏も「NFTが、裕福な人がさらに利益を得るためのカジノのようなものになってしまえば、とても面白くない結果に終わってしまうだろう」という警告を発しており、単なるブームやバブルにしないよう、業界全体で社会的利益を考えていく動きは加速している。この記事でも触れてきたように、NFTは今後、新しいデジタルコンテンツ流通の価値創造の点で、グローバルスタンダードになっていく可能性を秘めたものだ。またすでに、コロナ禍であえぐアートやコンテンツなどさまざまな業界を救った実績を持ったテクノロジーであることは間違いないだろう。
NFTが今後、世の中でどう定着していくのか、その行く末に注視してもらいたい。
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