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- 2021/12/02 掲載
NFTと現物の同時販売が本格化、実際に取り組んだ人が「役割はまったく別」と語るワケ
自動車のNFTの落札価格は10倍に
自動車メーカーの日産は、日産R35 GT-Rをモチーフとした「世界に一台だけのGT-R」のNFTをNFTマーケットの「RubiX Network」に22万ドル(約2,500万円)で出品した。落札者にはNFTだけでなく、実際のGT-R NISMO スペシャルエディション 2021モデル(2,420万円相当)が贈られる。このNFT作品はカナダの著名アーティスト、アレックス・マクラード氏によるもので、光沢感のある幻想的なデザインが特徴。作品の最終的な落札価格は230万1,438ドル(約2億6,200万円)で当初価格の10倍近くにおよんだ。
この出品は営利目的ではなく、出品管理などを行った日産のカナダ法人は、手数料を差し引いた収益を慈善団体に寄付するという。
NFTというと、購入者が投機的な目的であることをいぶかしがる向きもあるが、そもそも現物のGT-Rの高騰をご存じだろうか。中でも1999年に登場したR34 GT-Rの中古車は現在米国で1,600万円相当で売買されている。発売されて20年も過ぎれば、廃車になることも少なくない中で、大変な高値で取引されていることになる。
種明かしをするとこれは米国の「25年ルール」が背景にある。製造後25年が経過した車両はクラシックカー扱いになって米国内に持ち込み可能になるという法律が施行され、その対象にGT-Rが加わったことで自由に出回るようになったわけだ。
法律の後ろ盾があるからというものの、根強いファンたちによるビンテージ的な価値が見出された値上がりだったと言えるだろう。
とはいえ、今回のNFTオークションで販売に付属している現物のGT-Rは現在販売中のモデルであり、これほどの価格高騰の背景にはNFTがあったことは間違いなさそうだ。
NFT販売にいたった、とあるアーティストの取り組み
ツイッターの創業者の初ツイートが数億円、VRアートが数千万円など、NFTは投機的な資金流入であるとしばしば言われるが、NFTに期待を寄せるアーティストもいる。karenさん(アーティスト名)は、普段は企業のWebデザインに携わるかたわら、イラストレーターとして活動するアーティストだ。karenさんはこれまでもさまざまな作品を発表してきたが、「新しいテクノロジーを試してみたい」と考え、NFTへの出品を検討したという。
しかし、自身はテクノロジーに詳しいわけではない。そこでNFTに詳しい友人に相談。コンテンツプロデュース業を手がける林さんのところに話が舞い込んだ。
当時、林さんはkarenさんの取り組みとはまったく別にサウナや銭湯、キャンプなどで「チル(くつろぐ、まったりする、落ち着くの意味)する」ことの可能性に着目しており、事業としての可能性を模索していた。
そこで、karenさんからの相談とそのデザイン力に着目。チルにまつわる2次元上のキャラクターを設計し、そこにさまざまな設定を加えていった。
当初はどんなイラストにするのかについても漠然としていたkarenさんだったが、林さんの考案した設定をもとに「熱波師」「サウナ」「銭湯」の3つをモチーフにしたイラストを制作、「もともとは3人の女性を描いてもらっていたのですが、姉妹という設定にしたうえで、実はほかにも4女や5女がいる、ということにしました」(林さん)
そしてkarenさんのイラストをNFTとして販売するうえで、実際にどこで販売するのかという悩みに直面した。具体的に検討したのは、世界最大のOpensea、Coincheck NFT、Adam by GMO、LINE Blockchainの4つ。最終的にはOpenseaを選んだ。
Openseaを選んだ理由についてkarenさんと林さんは「世界最大のNFTマーケットプレースであるのと、海外の方々へもアプローチできる可能性が高いから」と語る。
さらに、今回のイラストはNFTとして販売するだけにとどめず、Tシャツにプリントして販売していく考えも林さんはkarenさんに提案。このTシャツはコミュニティ内のマイクロインフルエンサーに着てもらって、SNSに発信してもらう狙いもあるとのことだ。
このように、今回のイラストはNFTと実物のいわばハイブリッド販売を行うことになる。ただ、これだけを見ると、イラストのNFTとTシャツの販売を行うだけの話に見えてしまうかもしれない。
林さんは語る。「今はものを作って終わりではありません。特にアーティストが手がけるもの、キャラクターが立つものについては新しい時代のファンの構図をしっかり理解しなくてはなりません。NFTと現物のTシャツでは役割が違うのです」
【次ページ】新しいファンマーケティングのあり方
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