- 2025/04/20 掲載
アングル:トランプ関税受けベトナムに生産移転も、中国SHEIN村に打撃
[広州 16日 ロイター] - 超ファストファッションを扱う中国発インターネット通販の「SHEIN(シーイン)」の急成長は、中国南部の広州郊外周辺の村々の命運を大きく左右してきた。そのため、これらの村は通称「シーイン村」と呼ばれるようになった。
シーインが年間300億ドル(約4兆3000億円)を超える商品を販売する巨大企業へと成長できた背景には、低価格戦略に加え、低価格の輸入品を無税で米国に輸入できる関税免除措置(デミニミスルール)を活用したことがある。
しかし、これらの村にある何百もの工場による効率的なサプライチェーンも、シーインの成功の鍵だった。工場では、ヒョウ柄のパンツや農民風のブラウスなどのオンライン注文に対し、他ではあり得ない価格でリアルタイムに製品を製造してきた。
しかし、広州の番禺区のシーイン村を最近訪問したところ、村の雰囲気は暗いものだった。工場長3名と地元の下流サプライヤー4社は、シーインの地元での受注が減少していると話した。同社のベトナムへの生産拠点分散の動きが原因だという。
トランプ米政権による中国への145%の関税やデミニミスルールの廃止により、中国での生産に依存してきた企業の間に動揺が走っている。広州の工場やシーインにとっても、好況がいつまで続くのか懸念が生じている。
工場経営者のリー氏は、2006年から中国国内および海外市場向けに衣料品を製造している。リー氏はシーインと5年間取引をしてきたが、今年のシーインからの発注は、ベトナムへの発注増を受け、50%減少したと語った。
「影響は明らかだ」と彼は述べた。「関税は当面、いつ終わるか見通せないし、次に何が起こるか分からない」
ここでは、何千もの小規模な契約製造業者が、へそ出しトップスやミニスカートを1着数元という安価で生産し、すぐさま世界中の若い消費者に出荷している。
「正直に言うと、ここ2年間の越境EC(電子商取引)は狂ったように成長した。以前は中国にそんなビジネスはなかった」と、工場オーナーでシーインのサプライヤーでもある56歳のフー氏は語る。シーインの創業者で中国系シンガポール人の許仰天(クリス・シュー)氏について、「彼がいなければ、このビジネスは生まれなかった」と評した。
フー氏とリー氏はプライバシーを理由にフルネームの公表を拒否した。
シーインは最近、ロンドンでの新規株式公開(IPO)に向け、英国当局から承認を得た。実現には中国当局の承認が不可欠となる。また、中国南部の工業プロジェクトに100億元を投資する計画も進めている。その一環として、広州市増城区に5億ドルを投じ、巨大なサプライチェーン拠点を建設する予定だ。
フー氏とリー氏は共に、シーインが主要サプライヤーに対し、最低発注量と納期の長期化を約束してベトナムへの生産移転を促していることを認めた。シーインから直接伝えられたか、計画の説明を受けた他のサプライヤーから伝えられたという。
フー氏は「トランプ政権になってから、春節(旧正月)以降、シーインは多くの主要な工場にベトナムでの工場開設を検討するよう求めている」と語った。フー氏の会社は繁忙期には月間20万ー30万着をシーイン向けに製造する従業員約100名程度の会社なので、移転の優遇措置を受けるには規模が小さすぎると付け加えた。
ロイターの質問に対し、シーインは声明で、中国から生産網を移転するという報道は「事実ではない」と否定し、中国のサプライヤー数が昨年の5800社から7000社に増加したと説明した。
同社は、中国の主要サプライヤーに対するベトナムでの工場新設に関する優遇措置や、それが他の中国サプライヤーへの発注量に与える影響については回答しなかった。
<ジレンマ>
ベトナムからの調達を増やすことは、シーインがより低い関税率の適用を受けたり、関税免除措置を利用したりする上で有利に働く可能性がある。しかし、ベトナムから発送される商品についても、この免税制度が維持される保証はない。
しかし、これはシーインにとってはジレンマでもある。価格と時間が重要な業界において、コストがかかり時間も浪費する可能性があるからだ。
デラウェア大学でファッション・アパレルを専門とするシェン・ルー教授は「シーインにとって、調達基盤の多様化とビジネスモデルの大幅な変更は同時に進めていく必要がある」と語った。
何千種類もの新しいスタイルの服を少量ずつ生産し、消費者に迅速に出荷するというビジネスモデルを根本的に変えなければ、シーインはサプライチェーンを多様化できないという。また、中国南部以外の地域に生産地を多様化しなければ、関税を回避して低価格で米国の消費者に製品を届けることはもはやできないとルー氏は述べた。
製品の越境輸送と通関業務の課題解決を支援するePost Globalの製品開発ディレクター、アリソン・レイフィールド氏は、「シーインのビジネスモデルは、よく考えると実に巧妙だ。しかし、そのビジネスモデル全体を転換することは、納期とコストに必ず影響を及ぼすだろう」と指摘する。
同氏はまた、「当然、シーインはコストを消費者に転嫁したいだろうが、そうなると消費者は過去のような量と価格では購入しなくなる」と付け加えた。
工場経営者のリー氏にとって、ベトナムへの移転は魅力的ではない。移転には多額の設備投資が必要となる上、中国に比べて労働生産性が低いからだ。
リー氏は「中国では1日に1000着の服を仕上げられるが、ベトナムでは1か月かかる」と話す。
国内市場向けの供給を増やす計画を立てているリー氏だが、選択肢がほとんどない同業者もいると言う。「彼らには、2択しかない。倒産するか、ベトナムに行くかだ」
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