- 会員限定
- 2024/09/14 掲載
植田総裁「世界同時株安」の教訓、日銀9月会合は「無風通過」作戦をとる真因
【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
利上げで市場は混乱、収束に努めた内田総裁
9月19・20日の金融政策決定会合では、ほぼ確実に金融政策の現状維持が決定されると筆者は考える。政策金利(無担保コール翌日物)の誘導目標は0.25%で据え置かれる公算が大きい。今回の金融会合における日銀の内部的な目標は、「無風通過」にあると見られる。7月31日の追加利上げは、決定そのものはさほど驚きではなかったものの、その後の植田総裁の記者会見がタカ派に受け止められ、世界同時株安のきっかけとなってしまったからだ。
米ISM製造業景況指数や雇用統計の悪化が重なるという不運に見舞われたとはいえ、植田総裁が連続的な利上げ方針を歯切れよく示したことで、円キャリートレード(低金利の円で資金調達をし、それをほかの資産へ投資する取引)の巻き戻しを誘発してしまったのは否定しようのない事実であろう。
その発言を修正する形で、8月7日に内田副総裁が次のとおりハト派姿勢を強調し、金融市場の混乱収束に努めた経緯がある。
金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません。日銀として、このような事態は避けたいに違いない。
最近の内外の金融資本市場の動きは極めて急激ですので、その動向や経済・物価に与える影響について、極めて高い緊張感をもって注視し、政策運営において適切に対応してまいります。繰り返しになりますが、当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要があると考えています。
継続的な利上げ方針を示した、植田総裁と高田委員
では、今後の日銀の情報発信はハト派になるのか。その可能性も低い。上述のように1度は大きくハト派に旋回したものの、金融市場が落ち着きを取り戻した8月23日には、植田総裁が衆参の閉会中審査にて、「経済物価の見通しが、私たちが考えているとおり実現していくという確度が高まっていくことが確認できれば、今後、金融緩和の度合いを調整していくという基本的な姿勢に変わりはない」と発言し、継続的な利上げ方針を再確認したからだ。また9月5日には高田委員も同様の見解を示しており、日銀からの情報発信は全体としてハト派から中立的に回帰している。今回の金融政策決定会合では中立姿勢が維持されると予想するのも、このためだ。なお、ここでいう「経済物価見通し」とは、7月の展望レポートで示したデータのことである。
具体的には2024年度の消費者物価(除く生鮮食品)の見通しは、前年比プラス2.4%、2025年度は同プラス2.1%、2026年度は同プラス1.9%と、見通し期間の後半にかけておおむね2%程度に収束していくという。GDP成長率は、2024年度がプラス0.6%、2025年度がプラス1.0%、2026年度がプラス1.0%である。
日本の潜在成長率がプラス0.6%程度と、内閣府によって推計されていることを踏まえれば、この数値は「堅調」な成長が続くという見通しを意味する。潜在成長率とは、中長期的に達成可能であるはずの成長率、いわば巡航速度である。 【次ページ】日銀の見通しどおり? 日本経済の動向
関連コンテンツ
関連コンテンツ
PR
PR
PR