- 会員限定
- 2018/07/23 掲載
シタラ興産は自動産廃分別ロボットで「灰色」から「白」を目指す
森山和道の「ロボット」基礎講座
ディープラーニングを使った産廃選別ロボット
ロボットが導入されているのはベルトコンベア上を流れる廃棄物から大きな石や木材、プラスチック、金属などを選別する作業である。ベルトコンベア上を、いわゆる混合廃棄物が流れていく。建築現場でも分別されているが、分別しきれないのである。「95%は現場で分けても、5%はわけられない。この5%がこの工場のターゲット」だという。
実際に見てみると、サイズは大きいが、基本的には工場で使われていることが多いピッキングラインと同じであることがわかる。ロボットは2本のアームで一組となっており、シタラ興産ではそれを2組、合計4つのアームが直列で使われている。ロボットはお互いにフォローしあっており、1台目が取れなかったら2台目で取る。1台目と2台目のコンベアには段差がつけられており、その段差で落とすことで、流れてくる廃棄物の裏面が出やすくなるように工夫されている。
ラインの最後の部分には人間が両脇に一人ずつ配置し、後工程のハンマー破砕機を壊してしまいかねないような5cm以上の大きな塊が入るのを人手で防いでいる。これは実は、もともと人手選別用ラインとして設計された名残だ。
作業量は6倍、人件費ベースでは50名分以上を削減
実際に現場を見せてもらったとき、最初に「あれ?」と思った。事前に見ていたビデオよりも、ロボットがガンガン動いていなかったのだ。これには理由がある。詳細は後述するが、一言でいうと、いろいろ試してみて、現在で最適と思われるかたちに落ち着いたわけだ。シタラ興産は、一台あたり数億円するこのロボットを入れるために、当初予定されていた設備を使わずに廃棄している。その廃棄費用だけで6000万円かかった。ベルトコンベアもロボットのハンドによる反動を吸収するようにクッションを入れるといった工夫が為されている。使いこなしにも様々な苦心があった。それでも入れたメリットはあったという。
ざっくりいうと、「作業効率は物量でいうと6倍になっている」という。ベルトコンベアの速度を人手で行っていたときの0.08m/sから0.51m/sまであげ、ベルト幅を倍にしているからだ。人件費も、単純な手選別作業員の削減だけでなく、管理者や労務管理の手間などを合算すると、おおよそ51~54名分の削減ができているという。
工場は現在は2交代制で、16時間稼働している。処理量は合計で500~800t。導入直後は交代制は導入していなかったが、ロボットがだいぶ使いこなせるようになり、従業員も慣れてきたので2交代制をスタートさせた。
産廃処理業者によるロボット活用――。それは一言で言ってしまえば「たまたま」だったという。シタラ興産代表取締役の設楽竜也氏に話を伺った。少し遠回りだが、経緯から述べたい。一つのエピソードではあるが、ロボット導入だけでなく、事業継承に悩んでいる中小企業一般にとっても興味深いものであるはずだ。
「マイナスからのスタート」から夢を描くように
設楽竜也氏は2016年に就任した2代目である。実は「ホテルマンになりたい」と考えていた時代もあった。現場作業員だった頃はパッカーと呼ばれるゴミ収集車に乗っていたが、友人たちにそれを見られるのが恥ずかしいと思っていたこともあったと振り返る。地味な仕事が嫌で、あまり気持ちが入っていなかった。「なぜ俺なんだ」という思いもあったという。
2003年、設楽氏が24歳になったときに事件が起こる。同社が中間処理をした後のゴミ処理を委託していた業者が、福島県に不法投棄をしていたことが発覚し、行政から8,000立方メートルのゴミの片付け命令を受けたのである。折しも社長だった父親は病に倒れてしまい、現場指揮を設楽氏が執ることになる。一度選別したゴミを再び手で選別しなおさなければならない。この処理には三年半かかった。ところがひと段落ついたときに、また別の業者による3,000立方メートル分のゴミの不法投棄が発生してしまう。
作業を続けていて設楽氏は思った。「今のやりかたでは、また同じことが繰り返される。何回同じことをやらないといけないかわからない」。このままでは「心が折れてしまう」。会社を辞めることも考えた。辞めるか残るかの2択。残るなら会社を変えるしかない。では、どんな会社なら自分が継ぎたいと思える会社、工場を目指せるのか――。「そこで初めて夢を持つことができた」と設楽氏は語る。
「グレー」から「白」のイメージを目指す
設楽氏は選別に特化した工場を作ることにした。同業他社も見学に行き、新しい機械について学び、将来どういう会社を作りたいのか、およそ6億ー7億円だった当時の売上高をどうしたら伸ばせるのかと夢を描いた。設楽氏は当時を「マイナスからのスタートだった。いま考えると、あれ(不法投棄事件)があったから今日がある」と振り返る。「ゴミを投入したあとに、全て機械に任せることができれば、危なくないし、全部こちらが指示したとおりに行き先も決めることができる。従業員はその上で活躍してもらう」。後で、そう考えたからだ。
シタラ興産の顧客には製造業もあった。彼らの工場も見せてもらうなかで、産廃処理を製造業のようなきちんと定めたどおりの工程で管理下で行うことを目指したいと思うようになった。設楽氏には製造業は「白いイメージ」に見えていたそうだ。
いっぽう産廃業者は、たとえばテレビドラマにおいても、いわゆる「良い現場」として取り上げられることは少ない。「私たちは、どれだけ頑張っても褒められることはないんです。ゴミに等しいとまでは言いませんが、社会における会社としての価値がほとんどないような気がしていました。そこを変えていきたい。全員が『白』に向かって変えていかないといけないと思いました」(設楽氏)。
設楽氏は、製造業をお手本として、産廃処理に何かとつきまとうダークで「グレーのイメージ」を、少しでも白くしようと考えた。「コストをかけないで利益追及は無理。ただ仕事をまっとうにする環境を作りたい」と考え、「自信を持って他人に『見てくれ』と言われるような廃棄物処理場」を目指すことにした。ちなみに今でも同社工場には写真NGの場所はない。今回の取材でも「ここは撮るな」と言われることは一切なかった。
後継者として、何のために会社をやるのか、自社には何の意味があるのかと考え続けていた設楽氏は、自分自身についても悩んでいたという。「隣の作業員と私を比べても、私には隣の作業員に勝っているものが何もないんです。父は一代で会社を築き上げました。ですが私にはそれがない。息子だからという理由で社長になったところで、自分に何ができるんだと感じていました」。そこで取り敢えず体を鍛え、それでメンタルを支えながら、将来像を思い描いた。2009年に土地を取得し、工場全体で30億円弱程度をかけることを決めた。
他社からも見学に来てもらえるような施設を構想し、環境関連技術の展示会のために海外も訪問した。構想はおおむねできたものの、何か最後の一手、決定的なものが欲しいと思っていた。
【次ページ】たまたま動画サイトでロボットを発見し、交渉する
関連コンテンツ
関連コンテンツ
PR
PR
PR