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現在のロボットは、まだ十分に人の代替ができるとはいい難い。環境や対象の変化に対する柔軟性にも欠けるし、速度も遅い。熟練者の人の作業は本当に速いのだ。だが、現状の1作業における速度の差だけを見て、自動化検討をちゅうちょするべきではない。今後のトレンド、そして自動化本来の目的を見据えて、できる範囲から自動化は進めていくべきだ。ラピュタロボティクスの自動フォークリフトと、テムザックの天井施工ロボットを見て、自動化のこれからを考えてみよう。
自動化の真の目的とは
まず一般論を述べる。最近ますます「人手不足」「人件費高騰」という言葉を聞くようになった。合わせて「効率化」や「生産性向上」もセットで議論されている。加えて、「質の担保」や「エラーの削減」、そして「データ収集・活用」も、自動化の効用の1つとされる。
初期投資は必要だが、理想的には、自動化することで、リソースや時間のムダをなくし、運用コストとミスを低減させつつ品質も向上させ、人をより複雑かつ高度な作業へと回すことだ。収集されたデータを使って、現場の状況を数値で把握し、改善していくこともできる。同時に自動化プロセスは一般的にスケーラビリティを向上させるので、必要であれば業務量に応じてスムーズに拡張することも可能になる。コストのことを考えなければ自動化には良いことばかりのようにも思える。
これまで積み重ねられた多くの努力により、大量生産品の生産現場では、すでにかなりの部分が自動化されている。残っている部分は必然的に、従来の自動化技術では対応が難しい、より正確にいうと「コスト的に見合わない」部分ということになり、それらの多くを人間の手作業が担っている。
人間は安くて高性能なのだ。しかもフレキシブルでさまざまな作業の変更に容易に対応できる。だが、今や人手は足らず、取り合いになっている。人件費が今から上がることも間違いない。今後業務を維持するためにも、さらに1歩踏み込んで人手作業の自動化が各業界で求められている。
すでに動いている現場では、できるだけ従来のやり方を変えたくない。安定して動いているやり方を変えたくないと思うのは当たり前だ。そのため、人間の作業をできるだけそっくりそのまま自動化技術で置き換えられないか、という考え方が出てくる。これもまた当然の発想だ。十分なコストでそれが可能なのであれば、それも1つの手だ。幸い、AIなど新たな技術の活用により、ロボットなど自動機械の柔軟性、変動への対応能力も増しつつある。
だが、人間の作業をそのまま置き換えることは、必ずしも自動化の本来の目的ではない。これは常に念頭においておかなければならない。自動化の目標は全体の生産性を上げ、業務の質を向上させることだ。人がいくら柔軟だからといっても、複雑な対応能力や、感覚的な判断が必要な作業それ自体が「本当に必要だ」とは限らないのである。これはしばしば陥りやすいワナなので常に見直す必要がある。
繰り返しておく。たしかに人の作業能力は素晴らしい。特に熟練者は現在のロボットではできないような複雑な作業を圧倒的な速度でこなせる。だが、それをそのまま機械で置き換えることが自動化の目的ではないはずだ、ということである。
欲しいのはアウトプットであって、その途中経過ではない。自動化するにあたって、業務プロセスを丸ごと見直すほうがベターというケースもしばしばある。そもそも自動化するにあたっては、業務プロセスの現状把握と分析は必須である。でないと、どこをどう自動化すれば効果が最大になるのか分からないからだ。自動化は、業務プロセス見直しの良いチャンスでもあるのだ。
もっとも、全てを変えようとすると、さまざまな反動も大きくなる。「いきなり全体に手をつけるよりも、まずは部分的に始めてみるべきだ」という話も、また当然のことである。自動化は段階的に進めるべきなのか、それとも一気にやるべきか、このあたりの考え方はケース・バイ・ケースで一概にいえないところがある。あちらを立てればこちらが立たず、トレードオフやジレンマとなることが多い。そもそも、人や資金などのリソースも無限ではない。大なり小なり、どのあたりが現実的な落としどころなのかを探ることになる。
つまるところ、業務を分析しつつ、全体を見直す視点を常に忘れずに、しかし過剰な期待を抱きすぎず、貴重になりつつある人と、現在の機械の機能とを、どう組み合わせると最大の効果が出せそうなのか、いろいろと手探りしつつ段階的に進めるべし、ということになる。これが自動化に取り組むときの基本的な考え方だ。
「作業速度」の探求がそこまで良いことではないワケ
さて、ロボットの活用について述べたい。人作業の置き換えに用いられることが多い「協働ロボット」は、一般に作業速度は遅い。ほかの種類のロボットも同様で、人の作業の代替のために現在研究開発されているロボットは、開発が始まってそれほど時間がたっていないこともあり、概して、作業速度が遅い。
展示会等でもロボットのデモを見て「遅いね」といわれているのをよく見る。それに対して「いやいや、これは展示用で、もっと速くできますよ!」とアピールしているベンダーも多いが、実際のところはどうかというと、設備全体を統合するとカタログスペックの半分程度しか出せないことも少なくないのが現実であり、あまり過剰な期待を抱かせるのはむしろマイナスだと筆者は思う。
そしてそもそも、人の作業速度の実現にあまりリソースをかけすぎるのは、ロボット開発メーカーにとっても、システムインテグレーターにとっても、そして現場ユーザーにとっても、あまり良いことではない。求めることは全体の最適化や品質向上であり、工程の一部の速度の実現ではないからだ。
今回は改めてそう感じた事例を2つ紹介する。
TOTO、SBSで活用されるラピュタロボティクスの自動フォークリフト
1つ目はラピュタロボティクスの自動フォークリフト「
ラピュタAFL」である。自動フォークリフトはいくつかのメーカーが出しているが、2023年4月から発売されているラピュタの自動フォークリフトは、壁や柱への反射板設置や床への磁石埋め込みなどが不要で、既存の倉庫に導入しやすい点を特徴としている。
ラピュタAFL トラックからの積み下ろしデモ
いろいろな複数種のパレットに対応するほか、パレットの位置や角度が規定位置から多少ずれていても対応できる。このくらいの柔軟性がないと、実際の倉庫では使うことができない。
これまでに、TOTO 小倉物流センター、SBSロジコム 野田瀬戸物流センター、安田倉庫、鈴与などに導入されていることが公開されている。複数台を同時運用したり、有人フォークリフトと共存させることも可能だ。
現在、主に出荷のための仮置き場と垂直搬送機等の間のパレット搬送の省人化に使われている。自動なので、人の手当が難しい夜間の運用も可能だ。特に、大型の倉庫などで長距離の搬送が必要なケースで力を発揮する。自動フォークだけではなく、有人フォークリフトの運用と組み合わせて使うことで、人をより有効に使うことができる。
ちなみにこれは、ファミレスの配膳ロボットの効率的な使い方とほぼ同じである。運んでいるものが料理か、パレットかの違いはあるが、基本的に同じであるところは面白い。
2024年7月にはバージョンアップされて、トラック荷台からの荷下ろし/荷積みも可能になった。パレット間のクリアランスは15cm以上に対応する。人間の運転手がやるような、パレットを奥におくための「フォーク2度刺し」といった動きも実現している。
自動フォークリフト「ラピュタAFL」導入事例 TOTO 小倉物流センター
ただし、人よりも作業は遅い。ラピュタの自動フォークリフトの搬送速度は、1時間にパレット30枚程度。これは熟練の人間の半分程度だ。熟練者の作業はとにかく圧倒的に速いのである。あまりの速度差に、自動フォークリフト事業部長の有元 啓祐氏は「最初は心が折れそうになった」そうだ。実際、1分間に1枚くらいのペースでどんどん下ろさないと間に合わないと考えている現場は多い。
だが有本氏らは「待てよ」と考え直した。本当にその速度が必要なのか。求められているのは倉庫に到着するトラックから仮置き場への荷下ろし、そして荷積みの作業の手伝いだ。それに対して間に合っていれば十分なのである。
熟練フォークリフト運転者も人手不足となっている。自動フォークリフトや垂直搬送機自体は、スタッフが休んでいる昼休憩や、人の手当が難しい夜間の時間帯でも作業ができる。速度が必要な部分の作業は有人フォークにやってもらうにしても、仮置き場と搬送機の間の荷運びなら、現状の自動フォークリフトでも十分な現場は多い、と考えたのだ。
自動フォークリフト「ラピュタAFL」導入事例 SBSロジコム 野田瀬戸物流センター
「自動化は人の速さに惑わされすぎないことが重要だ」というのは、この有元氏の言葉だ。もちろん速ければ速いに越したことはない。だが、そのためにたとえばセンサー等を増やしすぎたりすると、ハードウェアのコストがどんどん増してしまい、費用対効果が出しにくくなる。現状の機械でも、できることは大いにあるというわけだ。
【次ページ】2つ目、テムザックと鹿島建設が開発中の群制御天井施工ロボット
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