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- 2018/07/20 掲載
キヤノン中国 小澤社長に聞く、中国で“一流”と認められる秘訣
連載:中国への架け橋 from BillionBeats
「見た目はそっくり、中身は外国人」というあたり前
小澤氏:中国人にだまされたという話をよく聞きますが、それは違います。
外国人とのビジネスではお互いに簡単には理解し合えないという前提に立つべきで、それはアメリカ人だろうがインド人だろうが中国人だろうが同じです。欧米とのビジネスでもだまされることはあるのに、相手が欧米人だと見た目も文化も歴史も違うから「理解されなかった」と納得する。
ところが、中国人は見た目をはじめ共通項が多いがために無意識のうちに同胞幻想を抱いた揚げ句に「だまされた」と思ってしまいがちです。相手は日本人と同じような顔をしているけど外国人だとしっかりと認識して向き合うべき。理解してもらえるんじゃないかという幻想を持つのは、日本人の方の甘えだと思った方がいいでしょう。
そもそも日本人は、中国に対してどこか上から目線があるのではないでしょうか。でも中国は今やEコマース先進国ですし、留学や旅行など海外経験者が増大するなど、非常に速いスピードで変化し続けています。変化を見誤ると、とんでもないことになります。
――45年のキヤノン勤務のほとんどを海外で過ごされています。
小澤氏:27歳でNYに赴任して間もないころは、アメリカ人の同僚の議論に英語が得意でない私が加わると、彼らが私に気を遣って「How is Japan?」などと仕事と関係のない話題をふられるのがつらかったです。現場で英語と仕事を覚えて行く中でだまされる経験もし、相手と自分は違うというスタンスに立つことが徹底して身につきました。
このアメリカでの12年が私の国際ビジネスの土台になりました。シンガポール、香港、北京と、その後もほとんどずっと海外勤務ですが、フレンドリーに接しながらも相手を性善説だけで盲信しないというやり方を通しています。
謙譲の美徳と性善説は日本人のすばらしい国民性ですが、日本以外ではそれはあり得ないと思っておいてちょうどいい。中国人ともそのスタンスで向き合えば、だまされたとはならない。
小澤氏:中国人とのビジネスは、もちろん簡単ではありません。まず社内の話を紹介しましょう。
キヤノン中国の社内で「ZD運動」というキャンペーンをしています。ZDとはZero Dishonesty。つまり、「ウソはつくな、不正はするな」とあからさまに社員に向かってトップである私が発信しているわけです。この話を日本ですると「トップが社員を信頼しなくてどうするのか」などと言われることがありますが、単純な性善説は海外では通用しません。
一方、2012年に日中問題が悪化した時には、このことでむしろ社員と気持ちが通じ合う経験をしました。当時の中国経済はGDPの成長率がニ桁台で、カメラが非常によく売れて毎年前年比3割の成長が続いていたところへ、この事件でいきなり2割減となりました。
グローバル企業では政治と宗教の話は控えるのが暗黙の了解事ですが、この時ばかりは、日中問題が直接売上に影響してしまっているので、この話を避け続けているわけにはいかないと判断しました。
2週間後のことです。中国全土の幹部がテレビ電話で参加する会議の時に話そうと決めました。切り出す際は緊張しましたし、その場はしんと静まり返りました。このことをきっかけに、社内が日中で対立することも予想されたからです。
人はそもそも多面的であることをわきまえる
小澤氏:私の言葉に対して中国人幹部は特に発言しませんでした。でも「いっしょにがんばっていこう」というふうに、明らかに雰囲気が変わりました。中国人社員とのランチの際にも思い切って「日系企業に勤めているためにご家族が心配しているでしょう?」と言葉にしたところ、何人かの社員から「自分の意志でキヤノンで働いていますから、だいじょうぶ」「会社が困っている時だから力になりたい」などの言葉を聞き、ぐっときて感動しました。ZD運動では建前やきれいごとではなく警告的な意志を示しながらも、社員とランチミーティングをするなど、日頃から意識して社員との距離を縮めるようにしています。こうした両面からのアプローチは重要です。
社内に限らず社外でも、フレンドリーにつき合う、でも簡単に信用はしない。これは原則です。親しくなることはとても大事なのですが、胸襟を開いたあとでビジネスの交渉で仮に先方の示す数字に違和感があれば、あいまいにせず自分で調べます。自分で調べる、これがないのは中国ビジネスではあり得ません。
そして、中国人に限らず、人はそもそも多面的であるという側面をわきまえておくことは大事です。
【次ページ】中国は世界一難しく、世界一おもしろい
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