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  • 2018/01/04 掲載

2018年は中国が米ITを本気で打ち負かす存在になる、これだけの理由

連載:米国経済から読み解くビジネス羅針盤

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トランプ米政権は2017年12月、台頭する中国を潜在的な経済的脅威と規定する安保戦略を公表した。それと前後して、米グーグル親会社のエリック・シュミット会長も「旧ソ連の崩壊後、他を寄せ付けなかった米国のテクノロジー分野での優位は終わった」と指摘するなど、中国IT脅威論が米国で急速に高まってきている。アップルやグーグル、アマゾン、フェイスブックといった名だたる米ITビッグがなぜ中国ITに勝てないと危機感を抱くのか。そして今後ITを舞台とした米中競争はどのような様相を見せるのか、さまざまなデータを元に探っていく。
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中国IT大手が米IT市場を覆う日が迫っている?
(© cil86 – Fotolia)


すでにテンセントはフェイスブックを上回る

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 米国が先鞭をつけ、世界中をリードしてきたIT分野で、中国勢が中国国内はもとより、世界各国で圧倒的な存在感を見せつけつつある。

 中国3大IT企業の一角を占めるテンセント(騰訊)が2017年11月中旬に時価総額で5,230億ドル(約58兆7700億円)と、米SNS大手のフェイスブックを抜き去り、中国のテクノロジー企業として初めて世界5大企業入りしたことは米国でも大きく報じられ、一挙に危機感が広がった。小米科技(シャオミ)による評価額1,000億ドル超の新規上場(IPO)計画も、米メディアの話題をさらう。また、アリババとテンセントが3年以内に、アップル・グーグル・アマゾンと並んで時価総額1兆ドル超え企業になると予想される。

 こうした中、米経済ニュース専門局CNBCは12月1日の番組で、「テンセントは静かに、米IT大手を『トロイの木馬』的な投資で乗っ取ろうとしている」と報じた。

 というのも、「テンセントは米電気自動車大手テスラの発行済み株式の5%を保有するだけでなく、スナップ(若年層に人気のSNS、スナップチャットの親会社)の10%、スポティファイ(米音楽配信大手)の10%、そしてエッセンシャル・プロダクツ(Androidの父、アンディ・ルービン氏によって2015年に設立された)などにも投資している」(CNBC)からだ。CNBCは「2017年も暮れになり、テンセントが米IT大手の静かなる脅威であることがますます明らかになってきた」と警戒感を隠さない。

 また米Inc.誌は12月22日に、「世界最大の電気自動車市場である中国において、米EV大手のテスラがBYD(比亜迪)、上海汽車工業(SAIC)、第一汽車集団(FAW)、吉利汽車(Geely)、北汽集団(BAIC)、東風汽車などの既存ライバルだけでなく、テンセントなどが投資するNIO(蔚来汽車)の追い上げを受けている」と報じ、追い上げられる米国の焦りをにじませた。

 アリババがアマゾンに倣って中国で実店舗の買収攻勢をかける一方、中国ネット通販大手の京東商城(JD.com)が欧米市場への進出を発表し、世界中で無敵の快進撃を続けるあのアマゾンでさえ、安泰とはいえない状況だ。

 そもそも、すでにあらゆる第三国が今や米中ITの「戦場」となっている。たとえば、中国配車大手の滴滴出行(ディディ・チューシン)が、米の隣国メキシコに進出して米配車大手ウーバーのライバルになることが12月初旬に伝えられると、米有力ニュースサイトのアクシオスは、「ウーバーの中国事業を2016年に買収した滴滴は従来、海外においては他の配車プラットフォームに出資するのみで、ウーバーと間接的に競争しているに過ぎなかったが、メキシコではウーバーと『ガチンコ勝負』をすることになる」と解説し、その意義を強調している。

 米グーグルの親会社、アルファベットの会長を2018年1月に退任するエリック・シュミット氏は2017年11月13日に行った講演で、「旧ソ連の崩壊後、他を寄せ付けなかった米国のテクノロジー分野での優位は終わった。中国などがAIの波に乗って米国に挑戦する一方、米国は国立科学財団(NSF)の乏しいAI予算をさらに10%削減するなど、間違った方向に進んでいる」という趣旨の発言をしている。

 シンクタンクの新米国安全保障センターのグレゴリー・アレン研究員は、米外交問題評議会(CFR)のサイトで発表した中国のAI分野での脅威に関する論考で、「米軍需産業やIT大手は、旧ソ連が世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げた際のようなショックが起きないと、(中国ITの脅威に)目覚めないかもしれない。このままでは手遅れになるかもしれない」と強い危機感を表明した。

中国ITの力の源泉はどこにある?

 米論壇では、中国ITの台頭の源泉にさかのぼり、どのように対抗していくかの戦略を考えるたたき台にしようとする動きが見られる。

 有力シンクタンクのブルッキングズ研究所で中国問題や外交を専門とするライアン・ハース研究員は12月7日付の論評で、「中国は、浙江省で12月初旬に開催された『世界インターネット会議烏鎮サミット』において、中国IT企業に有利で、米国IT企業には不利な国内規制の正当化を主張したが、米国はそのような仕組みに正統性のお墨付きを与えるわけにはいかない」と述べた上で、次のように分析した。

「中国は何十年にもわたって、各種産業革命で米国や西欧に後れを取り、追いつけないと感じてきた。だがインターネット革命においては、中国は自国が強いスタートを切れたと信じている。潤沢な資本の蓄積、比類なきデータの規模と豊富さ、優秀で才能あふれるエンジニアたちの存在があり、その上に中国政府が産業政策を駆使して、AIや量子コンピューター、ロボット技術、クラウドやスマートシティなど先端技術で世界の頂点に立つ強い決意があるからだ」

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科学・技術・工学・数学(STEM)分野の卒業生の数で、中国は米国を凌駕する。
 事実、中国政府は11月に、自動運転(指定企業は百度)、スマートシティ(同アリババ)、医療映像(同テンセント)、音声認識(同アイフライテック、中国名・科大訊飛)の4部門からなるAI国家プロジェクトを認定している。ハース研究員は「米政府がこのまま傍観するには、代償が高すぎる。米国がこれまで何十年もそうしてきたように、先端技術の方向性で世界をリードすべきだ」と、米中IT競争に米政府が強力に関与するよう求めた。

 さらに、「多数の米IT大手の最高経営責任者(CEO)が(世界インターネット大会の)烏鎮サミットに参加したが、米政府も代表を送り、同様の世界的会合に積極的に関わっていくべきだ。そうしなければ、国家主権で統制される中国版のインターネットの概念が、オープンで安全、信頼性があって互換性のある米国版のインターネットに勝利してしまうだろう」と、米政府の消極的な対応を批判した。

 そして、「中国が主導したアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に米国が関与せず、AIIBに対する影響力を失った過ちを繰り返してはならない」と痛烈に批判した。

 また、自動車市場の投資企業であるダン・オートモーティブ(香港)のマイケル・ダン社長も12月8日、自動運転車に関するCNBCの番組で、「中国は、米国より早く自動運転を実現させてしまうだろう。共産党の一党独裁のため、決断がとにかく速く、誰にも文句も言わせないからだ」と述べ、政治制度や文化面で米企業が中国ITに簡単に太刀打ちできない現状を嘆いた。

 米アクシオスは、「中国政府のAI計画は、中国が超大国になって『(欧米や周辺国から覇権主義的と批判される)中華民族の偉大なる復興』の目標を達成し、共産党の独裁を維持する政策の一環だ」と看破している。

 事実、10月の共産党大会で習近平国家主席が打ち出したのは、「政治・経済・社会のすべてを党の統制下に置く」方針であり、中国ITはその実現に向けて大きな役割を期待されているのである。

【次ページ】中国に対する米国の「逆転のカード」は?
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