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ソフトバンクが、同社子会社のスーパーセル(Supercell)の売却を検討していると発表しました。その売却先として名前が挙がっている企業、それが中国の「テンセント(騰訊、Tencent)」です。日本ではまだあまり知られていませんが、同社は今や、ゲームの売上高でソニーやマイクロソフトを上回って世界トップ(NewZoo調査)。提供している複数のメッセンジャーのMAU(月間アクティブユーザー数)を単純合算すると11億人超(ちなみにFacebook Messengerが6億人、LINEが2.2億人)にのぼり、それを基盤にしたFinTech市場でも存在感を発揮しつつあります。同社の売上高は、日本の大手ゲームメーカーである任天堂と比べて、売上高で3倍、営業利益で17倍、時価総額は約10倍にもなります。今回、この「テンセント」を徹底解剖していきます。
テンセントとは?QQやWeChatなどのコミュニケーション基盤
「テンセントはヤバい」、上場を控えたある中国人経営者が筆者に語った言葉です。そのテンセントとは、いったいどのような企業なのでしょうか? 一言で言うと、任天堂のようにゲームを提供しながら、LINEやFacebookに近いサービスを手がける企業です。同社の売上高(2015年12月期)は、1,028億元(1元16.5円換算で1.6兆円)、同年度の税引き前利益は362億元(同5,903億円)、時価総額は1.6兆香港ドル(1香港ドル13.8円換算で22.1兆円、16年6月7日現在)にのぼります(ちなみに日本最大のトヨタの時価総額は約18兆円です)。
テンセント、LINE、Facebook、これらの企業に共通している点は、各社が強力なコミュニケーション基盤(プラットフォーム)を保有していることでしょう。テンセントには強力なコミュニケーションプラットフォームが3つあります。1つめは、オンラインメッセージサービスの「QQ」、2つめはモバイル向けSMSや通話機能を提供する「WeChat& Weixin(以下、WeChat)」、3つめはSNS機能を提供する「QZone」です。
同社の3つのコミュニケーションプラットフォームのMAU(Monthly Active User:月間アクティブユーザー数、どれだけそのプラットフォームが利用されているかを示す指標)が
図1です。
同社の創業は1998年、インターネットの利用がようやく開始されたばかりのころ。翌年の1999年2月にはIM(インターネットメッセージング)サービス「QQ」をリリースし、中国におけるIMサービスのスタンダードとなりました。その後もPCの利用からモバイルへの利用へシフト、2016年第1四半期のMAUは8.7億ユーザーに及びます。
中国人口は13.7億人(2015年末)なので、単純計算では中国人口の63%がQQを利用していることになります。そして、利用の形態もスマートデバイス(スマホ、タブレット)のMAU(2016年第1四半期)は6.58億ユーザーと、PCからスマホへのシフトが進んでいます。
テンセントが他社と違うところは、一つのサービスに依存しないこと。上記のQQにくわえて、2011年にリリースしたモバイル向けメッセンジャーが今、中国を席巻している「WeChat」です。中国版LINE・Facebookメッセンジャーに近いコンセプトですが、スマホの本格的な普及にあわせてMAUも増加、2016年第1四半期でのMAUは7.62億ユーザーとサービス開始してから5年近くでMAUではQQに迫るまでに至りました。
上記2つに加えて、写真シェア、ブログなどのSNS機能を提供するQZoneも2016年第1四半期でのMAUは6.47億人とQQ、WeChatに及ばないものの、多くのユーザーを抱えており、
図2に示すように、中国全土でのMAU上位10アプリのうち、4アプリがランクインしています。
図2 中国でのMAU上位10アプリ(2016年3月時点) |
順位 | アプリ | カテゴリ | MAU
(単位:千ユーザー) |
1 | WeChat | インスタントメッセージング(IM) | 648,504 |
2 | QQ | インスタントメッセージング(IM) | 508,195 |
3 | Taobao | 統合ビジネス | 193,910 |
4 | Mobile Baidu | 検索 | 185,085 |
5 | AliPay | モバイル決済 | 170,089 |
6 | Sogou inputmethod | 中国語入力 | 157,805 |
7 | Tencent video | 統合ビデオサービス | 151,204 |
8 | iQIYI | 統合ビデオサービス | 147,613 |
9 | QQ Browser | ブラウザ | 143,640 |
10 | Weibo | ソーシャルネットワーク | 143,334 |
※色の付いた1、2、7、9がテンセントが手がけるサービス (出所: Analysis China) |
こうしたテンセントが提供する3つのコミュニケーションプラットフォームは今や、中国でのネットコミュニケーションプラットフォームそのものなのです。
テンセントのマネタイズはVASで
コミュニケーションプラットフォームにおいて、もっとも重要なKPI(Key Performance Indicators: 重要業績評価指数)が「MAU(Monthly Active User)」です。月間アクティブユーザーとは、1か月に1度以上利用するユーザーの数で、そのプラットフォームの“賑わい”を示します。そして、MAUが多ければ多いほど、賑わっており、そこから課金サービスも生まれます。
テンセントのマネタイズ方法も、まさにこうした“賑わい”を利用した課金サービスで、同社ではこれをVAS(Value Added Service: 付加価値サービス)と定義しています。具体的なVASは、
図3に示すように、QQにおいてはメールボックスの拡張、友達の最大人数を拡張できるQQ VIP会員、プレミアムコンテンツにアクセスできるQzone VIP、そして、同社のもう一つの事業の柱であるオンラインゲーム(ACG:カジュアルゲーム、MMOG:大規模マルチプレイヤーオンラインゲーム)です。
テンセントのゲーム事業、その圧倒的なシェアとは?
テンセントは、2004年、自社での最初のカジュアルゲーム(簡単な操作だけで短い間に楽しめるゲーム)QQ堂をリリース後、2006年にはQQ音速、2007年にはQQ三国とQQの拡大のタイミングで次々とゲームをリリースしました。そして、自社開発のみならず他社開発のゲームを、“賑わい”を活かして、自社のコミュニケーションプラットフォームで展開するライセンス方式も展開しています。
特に中国の場合、海外の企業の参入が難しいことがあり、海外企業にとっては、テンセントのような“賑わっているプラットフォームに自社ゲームをライセンスすることは、中国市場を開拓するうえでも、大きなメリットといえます。たとえば、日本に本社を置くネクソンもテンセントを通じて、PCオンラインゲームであるアラド戦記(Dungeon&Fighter)を提供しています。2016年6月には最大同時接続者数が500万人を突破したことを発表し、話題になりました。
結果として、
図4に示すように、テンセントの中国市場でのクライアントゲームでのマーケットシェアは54.4%と他社を圧倒。テンセントの売上に占めるオンラインゲームの割合も53%(16年第1四半期実績)と自社の稼ぎ頭(キャッシュカウ)となっています。
そして、
図5に示すように、中国のゲーム市場ではモバイルが急速に拡大し、2016年にはPCを追い抜く勢いです。いうまでもなく、こうしたモバイルゲーム市場の拡大は、モバイルユーザーの大半をおさえているテンセントにとっては追い風であり、この“賑わい”を活かして、さらなるゲームの自社開発・ライセンス、ゲーム・アイテム課金の拡大が見込めます。
【次ページ】これからのテンセントの成長戦略とは?
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