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  • 2020/02/27 掲載

代替肉とは何か?ビヨンドミートは何がすごい? 世界で進む脱肉ビジネスをひも解く

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今、世界的に「代替肉」が大流行の兆しを見せています。代替肉とは、その名の通り、豚肉や牛肉、鶏肉といった動物の肉を使わず、植物などの別の素材で代替したもの。この代替肉について、特に菜食主義者の拡大、環境面の配慮などから、急速にその市場が拡大しつつあります。その代替肉のトップランナーというべき存在が今回紹介するビヨンドミートです。肉を代替しようという動きはこれまでもありましたが、なぜここにきて代替肉がここまで注目を集めているのでしょうか。ビヨンドミートを通してみていきましょう。
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カナダのマクドナルドではビヨンドミートを使ったハンバーガーを実験的に販売した
(写真:ロイター/アフロ)

ビヨンドミートによる代替肉とは?

 ビヨンドミートは、その名の通り「肉を越えて」であり、同社が提供するのは食肉の代わりとなる代替肉(プラント・ベース・ミート、植物由来の肉)です。この代替肉の実現方法はさまざまです。たとえば、牛の筋肉の細胞を培養して肉を人工的に合成する方法や植物由来の原料で食肉の食感を実現するなどの方法もあります。

 その中で、ビヨンドミートは、植物由来のタンパク質をもとに代替肉を製造・提供しています。その実現方法を一言で表せば「サイエンス」と言えそうです。具体的には、図1の上部に示すように、実際の牛肉があるとして、その牛肉のすべての構成要素を分子レベルで洗い出します。

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図1:ビヨンドミートの代替肉の製造アプローチ
(出典:ビヨンドミート社資料)

 そして、その構成要素について、植物由来のタンパク質、具体的にはエンドウ豆、ココナッツオイル等の素材によって「肉」を置き換える仕組みです。これによって、図1下部に示すように、たとえばソーセージについては、元のソーセージと分子レベルでは遜色のないレベルまで代替が可能になります。これこそがビヨンドミートの「サイエンス」の力です。

 では、ビヨンドミートの味は本当にオリジナルの肉と同じなのか。これは人によって好みが分かれているようです。筆者の極めて個人的な見解になりますが、ビヨンドミートの「Beyond Burger」については、その名の通り、ハンバーガーのような形で食べれば、肉としての再現度は非常に高いと感じました。一方で、ステーキのように食べることができるのかというと疑問符が付いたのも事実です。

 代替肉において肉々しさをどう出すかは各社の課題で、ビヨンドミートのライバルであるインポッシブル・フード社では、血のしたたるような「肉々しさ」を再現するため、ヘムという鉄の分子から構成される物質を大豆の根粒から採取し、これを代替肉に混入しています。

ビヨンドミートの販売チャネル

 ではビヨンドミートのビジネスをもう少し詳しく見ていきましょう。同社は図2に示すように、大きく2つの販売チャネルで展開しています。1つ目はホールフーズ、ウォルマートなどの小売店経由での販売(主力製品ビヨンドバーガーは1パック2個入りで5.9米ドル)、2つ目はカールス・ジュニア、KFC、マクドナルドといったレストランへの提供です。販売地域は、主に米国・カナダ、ヨーロッパで、日本では現在販売されていません(その理由については後述します)。

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図2:ビヨンドミートの販売チャネル
(出典:会社資料)

 特筆すべきは、同社の売上は小売店向けならびにレストラン向けのいずれも2019年度に入って急拡大したことです。2019年10月に発表された同社の2019年第3四半期決算では、小売向け、レストラン向けの売上高の合計は9196万ドル(1ドル108円換算で99.3億円)と大幅に伸長、それに伴い税引前利益も409万ドル(4.4億円)の黒字に転換しました。

ビヨンドミートの2つの根本的な課題

 ビヨンドミートは2つの根本的な課題に取り組まなければいけない状況にあります。まず1つ目は大量生産技術の確立です。たとえば、インスタントラーメン、冷凍ギョーザといったレシピが確立されているものは人手をかけずに大量生産が可能です。しかし、現状の代替肉はレシピが確立されたものでなく、研究開発によって材料などを変更しているため大量生産がなかなか難しい分野になっています。

 そして、もう一つの課題は、代替肉の市場自体がまだ十分に立ち上がっていないことです。具体的には、S1-Formのリスクファクターにおいて以下のように指摘しています。

「Our financial performance depends in large part on our ability to arrange for the purchase of raw materials in sufficient quantities at competitive prices. (財務パフォーマンスの多くの部分は、原材料を十分かつ競争的な価格で購買できることに深く依存する)」

 原材料自体の価格の変動、デリバリーの遅延等が課題になっています。この問題は、いわゆる「鶏が先か卵が先か」の議論で、代替肉市場が立ち上がっていないため、原材料の供給が十分ではない、なおかつ、原材料の供給が十分でないため代替肉市場が立ち上がらないというジレンマと言えます。こうした生産能力という「弱み」をどう「強み」に変えるのか、この点がビヨンドミートには問われています。

ビヨンドミートの脅威(Threat):
 脅威という点では、やはり、結局のところ、生産能力でも触れたように、代替肉市場のリーダーであるビヨンドミートにとっては、本当に代替肉市場が立ち上がるのかという点にありそうです。すなわち、ビーガン市場が拡大し、環境にやさしいクリーン・テックであろうとも、結局のところ、選ぶのは消費者であり、消費者がコストや味などを総合して代替肉をそれほど必要としない可能性があります。

 たとえば、カナダ最大のドーナッツチェーンであるティム・ホートンズは、2019年5月に一部の店舗でビヨンドミートの朝食を提供、その後、提供する店舗を増やしましたが、2020年1月に顧客の代替肉へのニーズが高まらなかったことから、提供を中止しています。

 また、ビヨンドミートのライバルにあたるインポッシブル・フード社では、米国の一部のバーガーキングで、同社の代替肉を使った「インポッシブル・ワッパー」を提供しています。しかし、ブルームバーグが20年1月23日に報道した内容によれば、1店舗でのインポッシブル・ワッパーの1日の売上は当初、平均32個であったものが、28個に低下し、一時的なブームともみられかねない事態が明らかになりました。この報道をうけてビヨンドミートの株価は5.9%も下落しました。

 いずれも事例でも代替肉市場が立ち上がらないと捉えるのは早計ではありますが、同社が消費者に代替肉のメリットをより訴求したり、品質を向上する必要があるのは間違いなさそうです。

【次ページ】ビヨンドミートのポジショニング
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