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  • 2014/09/05 掲載

世界最大の旅行代理店プライスラインとは?買収戦略に学ぶ、変化への対応力

【連載】世界ハイテク企業ウォッチ

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最近、ある経営者から「ウチが長く続けられた理由は世の中の変化に対応してきたから」というお話を伺いしました。当たり前といえば当たり前ですが、この当たり前が意外と難しいものです。今回紹介する、オンライン旅行代理店(OTA: Online Travel Agency)で時価総額世界一の「プライスライングループ(Priceline Group)」は、変化の激しいネットビジネスの中で、うまくその変化に対応している企業です。なぜ同社がエクスペディアなどの競合がひしめくオンライン旅行代理店において世界一となれたのでしょうか?ここでは、“3本の矢”という切り口で、同社のビジネス戦略に迫ります。

フューチャーブリッジパートナーズ 長橋賢吾 編集:編集部 松尾慎司

フューチャーブリッジパートナーズ 長橋賢吾 編集:編集部 松尾慎司

2005年東京大学大学院情報理工学研究科修了。博士(情報理工学)。英国ケンブリッジ大学コンピュータ研究所訪問研究員を経て、2006年日興シティグループ証券にてITサービス・ソフトウェア担当の証券アナリストとして従事したのち、2009年3月にフューチャーブリッジパートナーズ(株)を設立。経営コンサルタントとして、経営の視点から、企業分析、情報システム評価、IR支援等に携わる。アプリックスIPホールディングス(株) 取締役 チーフエコノミスト。共著に『使って学ぶIPv6』(アスキー02年4月初版)、著書に『これならわかるネットワーク』(講談社ブルーバックス、08年5月)、『ネット企業の新技術と戦略がよーくわかる本』(秀和システム、11年9月)。『ビックデータ戦略』(秀和システム、12年3月)、『図解:スマートフォンビジネスモデル』(秀和システム、12年11月)。
ホームページ: http://www.futurebridge.jp

photo
図1 プライスライングループの「3本の矢」(図の拡大はこちら
(出典:著者作成)

 「プライスライングループ(ティッカー:PCLN)」は、日本でのビジネスが限定的なこともあり、ご存じない方も多いかもしれません。しかし、この企業、オンライン旅行代理店(OTA:Online Travel Agency, 以下、OTA)の時価総額では世界一の企業です。2014年8月18日終値での時価総額669億ドル、1ドル102円換算で6兆8238億円にのぼります。

 ちなみに2位は日本でも急速に知名度を上げている「エクスペディア(Expedia)」です。2013年のエクスペディアを通して行われた予約は394億ドルにのぼり、プライスラインの392億ドルを上回っていますが、エクスペディアの時価総額は109億ドル(同1兆1118億円)にすぎません。では、なぜプライスライングループはこれほど高い評価を得ているのでしょうか?

 それが変化に対応する「3本の矢」です。

2013年度 世界旅行業取扱額 上位企業
企業名取扱額(百万USドル)
1Expedia(エクスペディア)39,443
2Priceline(プライスライングループ)39,173
3Carlson Wagonlit Travel
(カールソン ワゴンリー トラベル)
31,611
4TUI(トゥイ)25,593
5AMERICAN EXPRESS(アメリカンエクスプレス)24,256
6Thomas Cook(トーマスクック)18,122
7JTB(ジェーティービー)15,180
出典:Euromonitorを元にJTB総合研究所作成

第1の矢:海外展開への足掛かり

連載一覧
 プライスライングループのビジネスは、日本でいえば、楽天トラベルやじゃらん、あるいは一休などと基本的には同じビジネスモデルです。ホテルの空き状況ならびに宿泊価格をウェブサイトで表示し、そのウェブサイトを閲覧したユーザーがホテルを予約・決済し、その手数料を徴収します。

 このビジネスモデルにおいて重要なのは、サイトの認知度、そして、提携しているホテルの数です。もともと、プライスライングループは、米国内でホテル予約サイト(プライスラインドットコム:Priceline.com)を展開していましたが、米国にはエクスペディアという強力なライバルが存在します。

 こうした状況の中で、提携ホテル数を増やすべく、プライスライングループの放った第1の矢は海外ホテル旅行サイトの買収でした。同社は、2005年、オランダを本拠地として、ヨーロッパのホテル予約に強みをもつ「Booking.com(ブッキング・ドットコム)」、そして、2007年にはタイなどの東南アジアのホテルに強みをもつ「Agoda(アゴダ)」を買収しました。

 こうした海外旅行予約サイトによる果実は、同社の米国内・海外の予約比率を見れば明らかです。図2のように、同社の海外予約比率は86.3%(2014年第2四半期実績)。ブッキング・ドットコムならびにアゴダが同社の海外予約比率の向上に貢献していることがわかります。

photo
図2 プライスライングループの海外売上高比率は高まっている
(線グラフ部分、単位:%)
(出所:会社資料をもとに作成)


 もちろん、ライバルのエクスペディアも海外展開していますが、同社の決算資料によれば米国国内比率は4割、海外比率6割であり、海外比率の高さでプライスライングループにはおよびません。

 今後の成長余力という点では、もちろん海外にあります。実際、2012年第2四半期の米国内予約額12.6億ドルから2014年第2四半期18.5億ドルと2年で+47%成長したのに対して、海外は同54.5億ドルから116億ドルと+112%の成長を遂げています。

 同社の海外展開はさらに拡大しています。2014年8月には、中国を代表する旅行サイト「Ctrip(携程旅行網)」に5億ドルを出資しました。調査会社のトレフィスによると、Ctripのホテル部門はこの5年間、年平均25%の勢いで成長しているといいます

 また、旅行調査会社フォーカスライト社によれば、2013年米国では、トラベル予約のうち61%がオンライン、ヨーロッパでは50%と高い水準に対して、アジア地域では27%、中南米では21%と低い水準にとどまります(エクスペディア年次報告書46ページで同調査結果について言及)。こうしたアジア、中南米地域でのオンライン予約の強化は今後の成長余力となるでしょう。

【次ページ】オンライン旅行代理店業務はいずれなくなる?既存ビジネスへの“危機感”

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