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アーンスト・アンド・ヤングによると、AI関連の市場規模は2020年、日本国内だけで23兆円、2030年には86兆円に達するという。このAIで大きく変わる領域がある。それがマーケティングだ。電通 アウト・オブ・ホームメディア局 業務統括部 部長 神内一郎氏は「AIが従来のマーケティングパラダイムを大きく変革させる」と指摘する。今後マーケティングはどう変わっていくのか。神内氏のほか、日本マイクロソフト 執行役員の西脇資哲氏、クラウディアン 代表取締役の太田洋氏、ポスタースコープ ベン・ミルン氏らが語り合った。
AIは従来のマーケティングパラダイムを変革させる
第2回Advertising Week Asia 2017において、「AIは電子マネーの夢を見るか?」と題したセッションが行われた。同セッションではじめに登壇したのは、モデレータを務める電通 アウト・オブ・ホームメディア局 業務統括部 部長 神内一郎氏だ。同氏は統計データとともにAI市場の広がりを報告し、次のように語った。
「マーケターにとって、少数のデータから全体を推測するのではなく、IoTですべてのデータを計測し、全数調査結果からマーケティングを行い、AIを用いてキャンペーン予測が行えるのは画期的なことで、AIが従来のマーケティングパラダイムを大きく変革させると期待しています」(神内氏)
そこでこのセッションでは、商用サービスにおけるAIの活用方法にフォーカスを当て、各パネリストがショートプレゼンテーションを行った。
AIが実現するのは正確な将来予測
トップバッターは日本マイクロソフト エバンジェリスト(執行役員) 西脇資哲氏だった。同氏は「IoTとAI、この2つは切り離すことができない」といい、マイクロソフトが世界で着手している社会インフラ領域でのIoT、AI活用事例を紹介した。
その一つは、英国・ロンドンの地下鉄の事例である。同地下鉄のエスカレータ、エレベータ、非常装置、スピーカーなどの設備は今やすべてインターネットにつながろうとしており、この東京からでも稼働状況がわかるという。
これを人工知能を活用することで可能になったのは「いつ故障するか」という故障予測だ。そのため、故障が発生する前に修理できる。乗降客に不便をかけることなく営業できるというわけだ。
一方、日本においては、海上保安庁との協力で海上交通の新管制システム導入に向けた研究を行ったという。東京湾は世界一航行が過密な海域だが、考えてみれば、船舶は車両に比べ航路予測しやすい走行動体で、IoTとAIを用いてこれを実現、船舶に注意情報を提供できるシステムを構築した。この研究は成功裏に完了したという。
さらに、東京サマーランドでは、2万5,000人の来場者の「表情」を認識する仕組みを開発した。これによって同施設では来場者の性別、年齢、喜怒哀楽が把握可能になった。
「来場者の属性をつかめるということは、女性が多ければ女性向けの広告を展開でき、レストランのメニューをより女性向けに変えることができます。データを蓄積して、そのデータを使って予測ができるようになります。これによってこれからの広告、マーケティング、セールスの方法はまったく変わってきます」(西脇氏)
走行してくる車種を認識して広告内容を切り替えるスマート広告
続いて登壇したのは、クラウディアン 代表取締役 共同創立者 太田洋氏である。同社は、100%ネイティブのS3 APIストレージシステムを開発提供する、シリコンバレーのオブジェクトストレージ企業。現在、電通と協力し、六本木でディープアドプロジェクトと呼ばれるスマート広告の実証実験を行っている。
これは、屋外広告のそばにモニターカメラを設置し、このカメラで走行する車両の車種を判別して、その車種に合わせて広告を動的に切り替えるというもの。
開発に当たっては、Web画像のクローリング、シミュレータによる画像生成などによって、337車種の車両それぞれに5,000枚の教師データをAIに与えてトレーニング。ディープラーニング実行環境において、認識→判断→制御をリアルタイム処理して広告切り替えを実現した。
太田氏は、こうした車両認識から制御を行う仕組みは、さまざまに応用できると語る。たとえばショッピングセンターの駐車場に屋外広告を設置して、ファミリーカー向けにファミリー向け広告を展開する、交通量調査を自動化する、自動車ディーラー店舗前にデジタルサイネージを設置して前を通る車種に応じた広告を転換するなどといった具合だ。
「交通量調査の場合、数取り機を使った手動調査は人手がかかり、簡単に実施できません。これをAIを活用して自動化すれば、低コスト化が図れ、常時計測可能です。また、多点で測定でき、集計の高速化、見える化も期待できます。屋外広告であれば、これまで考えられなかった視聴率も測定できるようになります」(太田氏)
太田氏はこのようにメリットを語った。ただ、商用化においては費用対効果の検討が極めて重要であるという。例を取ると、コンピュータリソースをクラウド側に寄せるエッジクラウド型にすればコンピュータリソースは余裕を持てるが、高額な回線コストを覚悟しなければならない。
反対に、組み込み型モデルにすると回線コストは低減できるが、モニターカメラが高額になり、コンピュータリソースの制限から処理量が限られる。しかし、AIを使ったスマート広告はすでにスタートを切っており、実用化・商用化に向けた進展段階に入った、と同氏は強調していた。
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