- 2025/04/19 掲載
AIが「生と死の概念」すら変える? 安野貴博氏が見据えるテクノロジーの未来
なぜ「アジャイル開発」が近年主流になっているのか
私はソフトウェアの中でもAIに関連する開発をメインにやってきました。AIならではの特殊性というと、ただでさえスピーディなソフトウェア開発の中にあって、変化の速度が桁違いに速いことが挙げられます。AIに関する論文数は指数関数的にガンガン増えていて、AIの専門家ですら、すべての動きをキャッチアップするのは事実上不可能になってきています。そのため、たとえば5年後にAIがどれくらい賢くなっているかという議論をしても、まだ全然だよと言う人もいれば、人間より賢くなっているだろうと言う人もいて、非常に不確実性が高い領域であるわけです。
それだけ変化の激しい世界なので、未来を確実に見通すことなど、誰にもできません。そこで紹介したいのが「地図よりコンパス」という言葉です。事前に地図を用意しても、目的地もそこにたどり着くための最短ルートもどんどん変化する。そんなときは固定的な地図を頼りに動くよりも、コンパスを持ってそのつど、進むべき方向を軌道修正しながら行動したほうがよいのです。
日々テストと修正をくり返して小さな改善を積み重ねるのは、近年のソフトウェアエンジニアのやり方でもあります。特にウェブ界隈では、改善の回数が多ければ多いほどよしとする文化があります。たとえばYouTubeのようなサービスは、日々、細かなバージョンアップをくり返しています。これがハードウェアなら、改良版が出てくるのに早くても半年、遅ければ数年以上かかったりしますが、変化のスピードが極端に速く、不確実性が高い環境では、そんな悠長なことをしていたら間に合いません。小さな改善を積み重ねて短期間で成果を出すアジャイル(注)的な開発手法が主流になっているのは、そのためです。
今回の都知事選で、マニフェストを一度発表して終わりではなく、皆さんの声を反映してアップデートを重ねたのも、ソフトウェア開発のやり方を取り入れた結果です。誰でも声を上げられ、その内容がよければ、すぐに実現に向けて動き出す。政治や行政の世界に、デジタルツールのリアルタイム性や双方向性を持ち込めば、それだけ多くの声や知恵や価値観を織り込める可能性が高くなる。その実例をお見せできたのではないかと思います。
どんどん進化していくAI、最終的にはどうなる?
世の中で語られるAIの話を聞いていると、今すぐにAIがなんでもかんでも人間に代わってやってしまうような印象を受けるものもあります。しかし実際には、まだできないこともたくさんあります。AIのソフトウェアの分野は、今後次のような段階を踏んでいくのではないかといわれています。
- 人間との会話に自動で応答するレベルのAI(チャットボットなど)
- 論理的な推論(リーズニング)ができるAI
- 自律的に動き、思考して何かアクションを起こせるようなAIエージェント
- 人間並みに色々なことを考えられるAGI(Artificial General Intelligence:汎用AI)
- 人間を超えたASI(Artificial Super Intelligence:超AI)
自然な日本語で対話ができるチャットボットのレベルから、AIはどんどん進化していきます。2025年3月現在は、質問に応答するようなAIがよく使われていますが、近年では自ら推論を組み立てられるようなAI(ChatGPTでいえばo1シリーズが該当します)、続いて、自律的に考えて自らアクションを起こせるようなAIエージェントが登場してくるでしょう。
25年3月現在でも、たとえば「明日の札幌行きのフライトを予約して」とアプリに伝えるだけで、勝手にフライト検索&チケット購入サイトで予約してくれるといった、ごく初歩的なエージェントは出現してきています。ここまでは確実に実現する未来です。
いずれは、人間並みにさまざまなことを考え、実行できるAGI(汎用AI)が実現するといわれています。最終的には、人間の知能レベルをはるかに超えたASI(超AI)が登場する未来が待っているかもしれません。何年後に実現するかはわかりませんが、進化の方向性としては、間違いないと考えています。
ハードウェアの面では、ロボティクスや自動運転、自動操縦などへのAIの応用が本格化していきます。しかし、ヴァーチャル空間で完結するソフトウェアと違って、リアル世界では物理的な制約や、人間の生命に直接関わるリスクもあるため、ソフトウェアの進化と比べると、やや時間がかかるはずです。 【次ページ】核融合や再生医療…AIの進歩が与える影響範囲は想像以上か
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