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日本を代表する名経営者の一人と称され、独特の存在感を放つ富士フイルムホールディングス(HD)の古森重隆会長兼CEO(最高経営責任者)が語るリーダー論とは、どのようなものか。リーダーに必要な考え方、そしてやるべきことは何か。SAPジャパンが先頃開いた招待制のエグゼクティブセミナーで、ゲストとして登場した同氏のスピーチからエッセンスを記しておく。
「真のライバルは、コダックではなくデジタル技術だった」
「GAFAが繰り出すビッグデータなどに惑わされるな」──。こう語るのは、富士フイルムHDの古森重隆代表取締役会長兼CEOだ。SAPジャパンが先頃、都内ホテルで開いた招待制のエグゼクティブセミナー「SAP SELECT 2019」で、ゲストとして基調講演を行った中でのひとコマである。
「GAFAに惑わされるな」とは、どういうことか。それを紐解く意味でも、まずは古森氏のスピーチのエッセンスを紹介しよう。
富士フイルムHDは、連結の売上高2兆4314億円(2019年3月期)、従業員数7万2332人(同)、子会社数279社(国内90社、海外189社)の規模を持つグローバルな精密化学メーカーである。古森氏は同社で2000年から経営トップを務め、今や日本を代表する名経営者の一人と称されている。
富士フイルムHDといえば、最近では米ゼロックスの買収をめぐる動きが注目されているが、これまでの経緯で多くの人の記憶に残っているのは、米コダックとの写真フィルムをめぐる市場競争だろう。かねて世界市場を席巻していたコダックに立ち向かった同社は、ついに追撃するところまでに至った。
しかし、2000年代になって市場の様子が変わってきた。写真フィルム自体の需要が急減していったのである。この経緯を説明した古森氏が放った次の一言が印象的だった。
「真のライバルは、コダックではなくデジタル技術だった」
その後、写真フィルムに代わってデジタルカメラの需要が急増していった。とはいえ、当時の富士フイルムもデジタル時代の到来を早くから予測し、「デジタルカメラの開発および商品化でも先行した」(古森氏)。
ただ、「2000年頃は、写真フィルム関連の売上高が全体の過半数、利益のおよそ7割を占めていた」(古森氏)という事業構造を短期間で転換するのは難しく、5年後にはこの屋台骨の事業が赤字に陥ってしまった。
「利益の7割」を締めた写真フィルム事業を「1%以下」に
そこで当時、社長に就いて間もない古森氏が事業構造改革に向けてまず取り組んだのは、「当社にとって一番大事なのは商品。つまり、何で勝負するか」というメッセージを明確に市場へ発信することだった。具体的には、図1のように4象限からなる「技術の棚卸し」を行い、その上で重点事業分野を明確にした。その際の選定ポイントは、「成長市場か」「技術はあるか」「競争力を持てるか」の3つだったという。
そして、2004年には「徹底的な構造改革」「新たな成長戦略」「連結経営の強化」といった3つの基本方針に基づいた中期経営計画を発表し、図2に示すように6つの重点事業分野を定めた。
その結果、事業構成は図3に示すように変わった。2つの円グラフ 最大ポイントは、2001年3月期で54%を占めていた写真関連事業(うち写真フィルムは19%)が、2019年3月期には16%(同1%以下)にまで減少したことにある。2つの円グラフを見比べると、重点事業分野によって構成が様変わりしていることがわかる。
【次ページ】古森氏が指標にする「10個のP」「2個のS」
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