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  • 2024/07/03 掲載

リチウム空気電池をやさしく解説、仕組み・課題は? なぜソフトバンク・東レが注力?

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「リチウム空気電池」とは、究極の蓄電池と呼ばれるリチウムと空気中の酸素を使って電力を生成する充放電可能な次世代充電池だ。理論重量エネルギー密度(単位重量あたりに電池から取り出せるエネルギー量)が非常に高い。現在、主流となっている「リチウムイオン電池」の約6倍の重量エネルギー密度であるため、軽くて容量を大きくすることができる。そのため、軽量性が重視されるドローンやIoT機器、電気自動車(EV)といった幅広い分野への応用が期待される。ただし、充放電できる回数がまだ少なく、蓄電池としての寿命が短いことから、現状は試験開発段階にある。本記事では、そんなリチウム空気電池の仕組みやメリット・デメリット、開発に取り組む企業の事例などについてわかりやすく解説する。
執筆・監修:Seizo Trend編集部
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究極の蓄電池と呼ばれる「リチウム空気電池」とは?
(Photo/Shutterstock.com)

リチウム空気電池とは

 リチウム空気電池とは、リチウムと空気中の酸素を使い電力を生成する次世代型の電池のことである。電池から取り出せるエネルギー量を示す理論エネルギー密度が非常に高く、同じ重量のリチウムイオン電池の最大6倍程度のエネルギーを蓄えることが可能だ。

 また、理論エネルギー密度が圧倒的に高いことから、大容量でありながら蓄電池の軽量化を実現することができる。そのため、ドローンやIoT機器、EVといった、搭載する蓄電池の軽量化が求められる領域における活用が期待されている。

 そんなリチウム空気電池は、究極の蓄電池とも呼ばれており、現在、実用化に向け、企業・研究機関によって開発が進められている。

登場した背景

 リチウム空気電池は、近年普及しつつあるリチウムイオン電池の電池容量の制約と重量の問題を解決する存在として注目されている。

 たとえば、リチウムイオン電池をEVに採用する場合、EVには搭載できるリチウムイオン電池には容量に限界があるため、ある程度の距離を走行するには大量の充電池を搭載しなければならない。走行距離を伸ばそうと考えると、結果的に車体価格が大幅に上昇してしまう。

 こうした問題を解決した上で、さらなる蓄電池の大容量化が期待できる存在として注目を集めるのが、リチウム空気電池だ。

 現在、企業や研究機関が研究を進めている段階であり、実用化の具体的な目処は立っていないものの、たとえば共同研究を行う国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)とソフトバンクは、5~10年後の実用化を目指すとしている(後ほど詳しく解説します)。

リチウムイオン電池とは何が違う?

 リチウム空気電池とリチウムイオン電池は、そもそもの動作原理とエネルギー密度が異なる。

 現行のリチウムイオン電池は、負極でリチウム黒鉛層間化合物が酸化し、正極でリチウム遷移金属酸化物が還元されることで電力を生成する。これに対し、リチウム空気電池は、負極でのリチウムの酸化反応と正極での酸素の還元反応を利用して電力を生成するのだ。

 電力を生成する物質が軽量であるため、理論上、リチウム空気電池がリチウムイオン電池よりもはるかに高いエネルギー密度を実現する可能性を生み出す。

 さらに、リチウムイオン電池の正極・負極では、リチウムイオンが黒鉛や酸化物などのようなホスト材料の「すき間」に侵入し、層間化合物を形成するインターカレーション反応が起きる。しかし、リチウム空気電池の正極では、リチウムイオンが外部から取り込まれた酸素と反応するために酸化物のホスト材料が不要であり、負極ではリチウム金属が溶解析出するので黒鉛のホスト材料が不要である。これこそが、リチウム空気電池の軽量化が実現する理由だ。

リチウム空気電池の仕組み

 ここからは、リチウム空気電池の構造と、放電時と充電時にどのような反応が起きているのかを確認したい。

■放電時の電極における反応
 基本的にリチウム空気電池は、空気中の酸素を利用して動作する。「正極(酸素極)」「セパレータ+電解質」「負極(金属リチウム)」を積層しており、負極には金属リチウムが使用され、正極には空気に触れる構造があるのが特徴だ。

 放電時の負極では金属リチウムが電解質に溶出し、正極では酸素と反応して過酸化リチウムが発生する。

 具体的には、負極での反応は「Li → Li+ + e-」であり、金属リチウムが酸化溶解する。溶解したリチウムイオンはセパレータ内の電解液を通り抜け、正極側の解液に移動するのだ。

 正極では、「O2 + 2Li+ + 2e- → Li2O2」で表される酸素還元反応によって過酸化リチウムが生成し、電気エネルギーが得られる。

■充電時の電極における反応
 充電時のリチウム空気電池では、放電時のプロセスが逆転する。正極で発生した過酸化リチウムが分解され、リチウムイオンが再度負極に戻り金属リチウムが発生する。

 化学式であらわすと、正極での化学反応は「Li2O2 → O2 + 2Li+ + 2e-」、負極での化学反応は「Li+ + e- → Li」だ。

リチウム空気電池の活用によるメリット

 リチウム空気電池を活用することで得られるメリットは何か。各メリットを解説する。

■重量エネルギー密度が高い
 リチウム空気電池は、非常に高い重量エネルギー密度が実現可能だ。重量エネルギー密度とは、電池の重量当たりの放電エネルギーを数値化して表したもので、エネルギー密度が高いほど軽量でありながら、大きなエネルギーを供給できる。

 リチウム空気電池は理論上、1キログラムあたり3467ワット時の重量エネルギー密度とされている。リチウムイオン電池と比較して、約6倍のエネルギーを蓄えるのだ。

 また、高エネルギー密度の特徴から、軽量な蓄電池に大容量のエネルギーを蓄えることができるため、ドローンやEVのほか、IoT機器やモバイル機器などでの活用が期待される。ドローンの飛行距離やEVの航続距離を大幅に伸ばしたり、軽量で長時間動作するノートパソコンやスマートフォンなどのポータブルデバイスを可能にしたりするだろう。

■環境への影響が小さい
 リチウム空気電池のメリットとして、環境への影響が小さいことも挙げられる。

 正極に金属ではなく空気中の酸素を用いるため、有害な重金属や希少金属の使用が原理的には無い。それにより、使用済みのリチウム空気電池も、リチウムイオン電池に比べ環境に与える影響が少ないとされる。

 たとえば、EVには大量のリチウムイオン電池が使用されており、使用済みバッテリーの廃棄やリサイクルの問題が顕在化している。リチウムイオン電池の正極にはコバルトやニッケル、マンガンなどの酸化物が含まれているため、廃棄されたバッテリーから資源をリサイクルする取り組みが行われている。

 しかし鉱物を精錬して正極の酸化物を製造する工程、またリサイクルの処理工程でも多くの電力を消費することから多くの二酸化炭素が放出されている。よって、リチウム空気電池が実用化されることで、この問題の解決につながる可能性が高い。 【次ページ】リチウム空気電池の課題

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