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デジタル変革(DX)推進のために、多くの企業でイノベーション組織が新設されている。しかし、こうした“ブーム”の割には、DX推進が進んでいないのも事実だ。DXに取り組む先進企業は「イノベーション組織のメンバーに求められること」をどう定義しているのか。デンソーやみずほFG、NTTコミュニケーションズなど“先駆者”の担当者との交流から、DXに必要な能力、体制など成功のヒントを探る。
白熱塾「拡大版」としてDX先駆者3名が集結
企業がDXを推進、実現していくために必要な人材とは? そして、組織のメンバーに求められる能力はどのようなものか? このほど都内では「白熱塾 拡大版」と題した交流会が行われた。
「白熱塾」とは、デンソー 技術開発センター デジタルイノベーション室 室長の成迫 剛志 氏が2012年より主宰する有志の勉強会で、今回で136回を数える。参加費は無料で参加者が持ち寄ったワインを片手にIT技術や業界トレンドなどを語り合うフラットな勉強会だ。
今回のテーマは「『デジタル変革』にはどんな能力が必要か?」で、新規事業を担う組織の条件をテーマに、DXに積極的に取り組む先進企業から3人のパネリストが登壇した。
1人目は、デンソー 技術開発センター デジタルイノベーション室 室長の成迫 剛志 氏だ。
2人目は、金融分野からみずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部シニアデジタルストラテジストの大久保 光伸 氏が登壇した。大久保氏はみずほ銀行とWiL LLC.が新たな事業創出を目的として設立したBlue Lab(ブルーラボ)の最高技術責任者(CTO)でもある。
そして3人目は、NTTコミュニケーションズ クラウド・エバンジェリストの林 雅之 氏だ。クラウドサービスの開発企画、マーケティング、広報・宣伝に従事する一方で、国際大学GLOCOMの客員研究員も務める。
DXは「技術オリエンテッド」で思考しない方がよい
ファシリテーターを務めたのは、小誌編集長の松尾 慎司だ。松尾は、パネリストに対し、どのような新規事業、DXに取り組んでいるかを問うた。
まず林氏がNTTコミュニケーションズの取り組みを紹介した。同社では「デジタルトランスフォーメーションコンテスト」を開催。第4回には653人、93チームが参加し、4日間の審査を経て、社内の各部門でのインキュベーションの取り組みにつなげている。
同社のDX推進体制は、最高デジタル責任者(Chief Digital Officer:CDO)を設置。DKD(デジタル・カイゼン・デザイン室)がDXによる経営改革を、BIO(ビジネスイノベーション推進室)がDXによる事業創出を推進しているという。
同社は、2019年7月に「REBORN」を掲げ、DXイネーブラーとして、デジタルトランスフォーメーションを顧客企業とともに実現すべく、さまざまなプラットフォームを提供していく。
現在、特設サイトでは「REBORN VOICE」と題して社員の声などが掲載されているほか、幹部向けデザイン思考ワークショップを定期的に開催、顧客視点に立った「顧客志向経営」を実現する経営基盤の再構築に取り組んでいるところだ。
大久保氏は、現在、みずほフィナンシャルグループにてデジタル戦略を担当。また、一般社団法人 金融革新同友会FINOVATORSのFounder兼CTOとして、FinTechスタートアップへのメンタリングやパブリックセクターへの提言、海外FinTech業界団体との連携等により金融イノベーションのエコシステム形成に携わる。
「キャッシュレス化」が政府の方針としても大きなテーマとなる中で、省庁横断型の「規制のサンドボックス制度」でイノベーション創出を後押ししようという取り組みが進んでいる。
これは、いわゆる“規制の砂場”、すなわち、革新的な新事業を政府が育成する際に、現行法の規制を一時的に停止し、「擬似的に失敗できる場」を提供するのが狙いだ。 対象者や時間・場所などを限定し、リスクを洗い出すことで事業を次のステップへと進めることが可能となる。
みずほグループでは、既存業務を拡張し「認証」「スコアリング」「プライシング」を中核に、APIの利活用によるスタートアップや外部企業との連携や、Blue Lab創設によるオープンイノベーションの取り組みを通じ、金融イノベーション創出に積極的に取り組んでいく。
成迫氏は、「デンソーは『Mobility as a Service』(MaaS)を掲げ、新たなビジネスモデルの創出に取り組んでいるところだが、DXを考える際、日本人は技術オリエンテッドで考えがちだ」と述べる。
最終的には誰が買うのか、誰が儲かるのか、これまでのビジネスの延長線上で“フォーマル”に思考すると硬直化してしまうとの指摘だ。
また、成迫氏は“デンソー流”のアジャイル開発にも取り組んでいる。成迫氏は、「日本は少子高齢化の中で、今後は外国人に来てもらい、働いてもらい、消費してもらう流れは不可避だろう」と指摘。そのような将来の環境の中で、日本のエンジニアは中国やインドの優秀な人材とどのように戦っていくべきか、しっかりと向き合う必要がある」と言及した。
「ソフトウェア開発力については外国からの優秀なエンジニアに任せて、日本のエンジニアはユーザーニーズにフォーカスし、DXを推進していく役割を担うのも一案だろう」(成迫氏)
「変革」の推進役として社外の人材が有効なワケ
続いてのトークテーマは、「リーダーは社内から登用すべきか 社外から招聘すべきか」に移った。
成迫氏は2016年8月にデンソーに入社、わずか半年の準備期間で、2017年4月にはデジタルイノベーション室を新設、同室長に就任した。就任当時、社内でDXの重要性を訴えていた人からは“ずるい”といわれたそうだ。
「ずるいの意味は、社内にもDXの重要性を訴えてきた人も少なくないが、社内にあまり響かなかったのだが、同じことを社外から来た人が指摘すると聞いてもらえるからだという。社外での経験や評判というバイアスによるものなのかもしれない。私も社内に馴染んできている現在、こうした心理効果が薄れているかもしれず、グーグル日本法人などで活躍した及川卓也氏を技術顧問として招聘し、私の言いたいことを代弁してもらうこともあります(笑)」(成迫氏)
大久保氏は「規制業種ということでの難しさがある」と述べた。「インターネットのビジネスモデルや仕組みをわかる人が少ない、そうした意味でのギャップを感じる」こともあるという。
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