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「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」が2023年4月29日および30日に群馬県高崎市において開催された。本会合は、G7広島サミット(5月19日~21日)の関係閣僚会合の1つで、構成国・地域のほか、招待国および関係国際機関が参加し、デジタル・技術における諸課題について議論が行われた。その成果として、閣僚宣言およびアクションプランを示す附属書が採択された。本記事では、閣僚宣言の6つのテーマの中から、急速に普及しているChatGPTなどの生成AI技術の動向を踏まえ、「責任あるAIとAIガバナンスの推進」に焦点を当てて、関連する閣僚宣言の内容やアクションプラン、そして今後の展望について解説する。
閣僚宣言の6つのテーマとAIに関する宣言概要
「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」では、「越境データ流通と信頼できる自由なデータ流通(DFFT)の推進」「安全で強靭性のあるデジタルインフラ」「自由でオープンなインターネットの維持・推進」「経済社会のイノベーションと新興技術の推進」「責任あるAIとAIガバナンスの推進」「デジタル市場における競争政策」の6つのテーマについて議論がなされた。
そして会合の成果として、G7デジタル・技術閣僚宣言が採択されることとなった。
AIに関する宣言の主なポイントは以下のとおりである。
G7は、人間中心で信頼できるAIを推進し、AI技術がもたらす利益を最大化するための協力を促進
G7メンバー間で異なる場合があるAIガバナンスの枠組み間の相互運用性の重要性を強調
「AIガバナンスのグローバルな相互運用性を促進等するためのアクションプラン」を採択・国際技術標準の開発・採用を奨励し、中小企業・スタートアップ・学術界等の全てのステークホルダーの参画を支援・AI政策と規制が民主主義的価値観に基づくべきことを再確認
生成AI技術が顕著になる中で、生成AI技術の持つ機会と課題を早急に把握し、技術が発展する中で、安全性と信頼性を促進し続ける必要性を認識
OECDやGPAIなども活用し、AIガバナンス、知的財産権保護、透明性促進、偽情報への対処、責任ある形で生成AIを活用する可能性について、G7における議論を行うための場を設ける
閣僚宣言の6つのテーマの主なポイントは、以下のとおりである。
1.越境データ流通と信頼できる自由なデータ流通(DFFT)の推進 <Facilitation of Cross-Border Data Flows and Data Free Flow with Trust>
<Facilitation of Cross-Border Data Flows and Data Free Flow with Trust> DFFTの具体化のための国際枠組み(IAP:Institutional Arrangement for Partnership)の設立のDFFTの具体化及びそのプライオリティに合意
2.安全で強靱なデジタルインフラ構築 <Secure and Resilient Digital Infrastructure>
Beyond 5G/6G時代における将来ネットワークのビジョンを策定し、安全で強靭なデジタルインフラの構築に向けたG7アクションプランに合意
3.自由でオープンなインターネットの維持・推進 <Internet Governance>
自由でオープンかつ、グローバルで分断がなく、信頼性があり相互運用可能なインターネットの維持・推進に向けたG7アクションプランに合意
4.経済社会のイノベーションと新興技術の推進 <Emerging and Disruptive Technologies in Innovating Society and Economy>
デジタルインフラ相互運用性の確保やデジタルサプライチェーンにおけるソフトウェアの脆弱性対策、革新的技術イノベーションに親和的なガバナンス手法の活用
5.責任あるAIとAIガバナンスの推進 <Responsible AI and Global AI Governance>
AIガバナンスのグローバルな相互運用性を促進等するためのアクションプランに合意
6.デジタル市場における競争政策 <Digital Competition>
デジタル競争分野での既存の法律や新たな法制度の立案や執行において各国で共通して抱える課題を共有していくこと、デジタル競争サミットを今秋開催することに合意
「責任あるAIとAIガバナンスの推進」について
<Responsible AI and Global AI Governance>
閣僚宣言の6つのテーマの1つ「責任あるAIとAIガバナンスの推進」において、各国と間で活発に議論が交わされた。
背景にあるのは、2022年11月にOpenAIが提供を開始したChatGPTの存在がある。大規模言語モデル(LLM)を使った
生成AI 技術などの社会実装が想定外の速度で進み、経済成長の起爆剤となる可能性が期待されている。その一方で、強力なAIは大きな社会的リスクももたらすため、欧米諸国ではAIの開発促進と並行して、社会受容に向けた規制論議が加速している。
こういった状況の中、閣僚宣言では、主に以下のような内容が示された。
<G7におけるAIの取り組み>
G7では、2016年にAI原則に関する国際的な議論が始め、これが2019年の経済協力開発機構(OECD)AI原則の策定と、OECD AI政策に関する専門家ネットワークの立ち上げにつながった。さらに2020年には、AIのグローバル・パートナーシップ(GPAI)の設立を支援した。
<OECD AI原則の指針>
OECD AI原則は、信頼できるAIの開発と展開を人権と民主主義の価値に基づいて推進するための指針を提供している。原則の採択以降、OECDは世界のAIコミュニティと連携し、その取り組みを支援している。
なお、2019年に策定されたOECD AI原則の5つの原則は以下のとおりである。
OECD AI 5原則
概要
1. 包摂的成長、持続可能な開発、および幸福
AIは、包摂的成長と持続可能な発展、暮らし良さを促進することで、人々と地球環境に利益をもたらすものでなければならない。
2. 人間中心の諸価値と公正
AIシステムは、法の支配、人権、民主主義の価値、多様性を尊重するように設計され、また公平公正な社会を確保するために適切な対策が取れる─たとえば必要に応じて人的介入ができる-ようにすべきである。
3. 透明性と説明可能性
AIシステムについて、人々がどのようなときにそれと関わり結果の正当性を批判できるのかを理解できるようにするために、透明性を確保し責任ある情報開示を行うべきである。
4. 頑強性、セキュリティ、および安全性
AIシステムはその存続期間中は健全で安定した安全な方法で機能させるべきで、起こりうるリスクを常に評価、管理すべきである。
5. アカウンタビリティ(説明・責任)
AIシステムの開発、普及、運用に携わる組織および個人は、上記の原則に則ってその正常化に責任を負うべきである。
OECD AI原則 の概要
(出典:OECD 42カ国がOECDの人工知能に関する新原則を採択 2019.5)
<人間中心で信頼できるAIの推進>
OECD AI原則に基づく人間中心で信頼できるAIを推進し、AI技術の利益を最大化するための協力を促進することを再確認する。民主主義の価値を損ない、表現の自由を抑圧し、人権の享受を脅かすようなAIの誤用・濫用に反対する。
<AI技術に関する中期的な政策課題への対応>
急速に発展するAI技術は、技術基準の策定や信頼できるAIの開発・展開を促進するためのツールなど、新たに中期的な政策課題に関心を向ける必要がある。
<AIガバナンスの国際的な議論とAIの評価のためのツール>
AIガバナンスの国際的な議論やAIガバナンス枠組み間の相互運用性について重要性を強調する。信頼できるAIを実現するためのアプローチや政策手段は、G7メンバー間で異なる場合があることを認識しつつ、信頼できるAIの評価・比較を可能にするツールを支持する。
<多様なステークホルダーの参加促進と国際技術基準の推進>
多様なステークホルダーが国際標準開発機関(SDO)に参加し、特に中小企業、スタートアップ、学界、広く社会が関与することを促進する。また、信頼できるAIのための国際技術基準を推進することを決意する。
<人間中心で民主主義的なAI政策と規制の再確認>
AI政策と規制は、人間中心であり、人権と基本的自由の保護、プライバシーと個人データの保護を含む民主主義的の価値観に基づくべきであることを再確認する。また、AI政策と規制はリスクに基づき、技術の利益を最大化し、リスクを軽減しながら、AI開発と展開のためのオープンで促進的な環境を維持するべきである。
<AI開発が社会に与える影響の認識>
AI開発は急速に進展し、社会に大きな影響を与える可能性があることを認識する。そのため、AI政策や規制は、技術的・制度的特性や社会・文化的な意味合い、地理的・産業的・倫理的側面に配慮し、適応させるべきである。
<生成AI技術に関する議論の必要性>
生成AI技術が国や分野を超えて急速に進展していることを踏まえ、これらの技術がもたらす機会や課題を早急に把握し、技術の発展に伴って安全性と信頼性を維持し続ける必要がある。G7では、今後も知的財産権の保護、透明性の促進、偽情報への対処など、生成AIに関する議論を行うことを計画している。
閣僚宣言の「責任あるAIとAIガバナンスの推進」の内容を踏まえ、G7では附属書となる「AIガバナンスの相互運用性を促進するアクションプラン」として、以下の5つの内容を公表した。その内容についても次ページで紹介する。
【次ページ】AIガバナンスの相互運用性を促進する5つのアクションプランとは?
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