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  • 2018/10/10 掲載

星野リゾートの「一人情シス」がホテル運営を変革するまで

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1914年、星野温泉旅館を軽井沢に開業し、104年の歴史を持つ星野リゾート。「ホテル運営の変革者」をビジョンに据え、海外のホテル事業者を競合相手に、既存のホテル業界を変革しようと取り組んでいる。急速に拡大・変化するビジネスの要請に応える役割を担ったのは、グループ情報システム ユニットディレクターの久本英司氏だ。同氏は2018年8月29日に都内で開催された「BSIAシンポジウム2018」に登壇、「試行錯誤をし続ける星野リゾートのIT戦略の目指す場所」と題した講演でITの「供給力」について語った。
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星野リゾート
グループ情報システム ユニットディレクター
久本英司氏

「ITが事業拡大の足かせになった」ことからIT戦略立案に着手

 軽井沢で老舗温泉旅館を経営していた星野リゾートは、1987年施行のリゾート法を契機に現在の経営方針に移行。リゾートや旅館に新規参入が増える時代に対応しようと企業ビジョンを「リゾート運営の達人」と設定した。

 当時について、久本氏は「同族経営の地方旅館は、リゾート法施行によって経営環境がますます厳しくなるとの危機感があった」と説明する。これまでのように、軽井沢で一つの旅館を所有、運営する経営から、軽井沢以外のエリアで、多くの旅館やホテルの運営を手がける「運営のスペシャリスト」にシフトしたのだ。

 2001年、マイカルが所有していた「リゾナーレ八ヶ岳」(旧リゾナーレ小淵沢)を買収したのを皮切りに、運営施設は全国に38施設を数え、認知度も上がってきた。

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 そして、2014年には「ホテル運営の変革者」をビジョンに据え、競合ひしめく海外市場で勝負することをめざして急成長を続けている。しかし、急成長を続けるがゆえに「IT戦略が会社の成長に追随できていなかった」と久本氏は振り返る。

 久本氏自身、軽井沢移住をきっかけに、2003年に星野リゾートに入社した経歴を持つ。“ワンオペ情報システム部”からスタートし、星野リゾート全拠点の予約システム、管理系システム、サーバ、ネットワーク、セキュリティなどITに関するあらゆる仕事を統括している。

「2003年から2009年は、“一人情シス”で業務はほぼ紙中心のオペレーション。紙の業務をIT化するだけで評価される時代でした」(久本氏)

 しかし、その後、会社の規模が拡大すると、ITがビジネスの成長に追いつけず「事業拡大や運営の足かせになる」状況に陥ってしまった。このときの反省から、久本氏は「2014年度中に体系立てられたIT戦略を立案する」ことを決意する。

「ITコンサルに依頼することに加え、自分自身の勉強不足を痛感したため、企業IT開発のグランドデザインを担うEA(エンタープライズ・アーキテクチャー)の最新知識を学び、IT戦略のフレームワークを理解することに努めました」(久本氏)

 この経験を通じて、久本氏は「自分たちに足りない要素を考え抜く」ことの重要さと学んだという。

「当時の我々は、ITについての需要も供給もガバナンスも不足していました。需要をなんとかして作り、供給やガバナンスを手っ取り早く手に入れようと試行しましたが、結局、近道はないということを思い知らされたのです」(久本氏)

ITサービスとは「兵站力」である

 策定された同社のIT戦略は、以下の3つの要素で構成される。

(1)戦略を実行する「ITサービス」
(2)新たな打ち手を考える「新規開発」
(3)継続的改善を行う「運用」


 久本氏は「ITサービスは、結局のところ兵站力(ケイパビリティ)である」と述べる。兵站力とは、ビジネスの要求に対したシステムを作り、堅牢に構築され、変化に強く、俊敏な対応を実現する仕組み的、組織的、人的な「ケイパビリティ(能力)」のことだ。

 そして会社からの要請(ミッション)を「情報システムの安定・安心・安全」と捉え、「星野リゾートはITを利用するのがうまい会社だとの評価を得る」ことを将来像(ビジョン)に定めた。

 星野リゾートのITシステムはフロントの予約システムや、ホテルの運営管理、または、勤怠や購買・支払・給与などバックオフィスのシステムなど多岐にわたっている。「顧客の行動(チャネル)がオンライン、オフラインに『多様化』していることと、タスク管理や勤怠管理などの『マルチタスク』という特徴がある」と久本氏は述べる。

 こうした特性に対応する「兵站力」を実現するためにプラットフォームを作る構想を立てた。
 そのアーキテクチャーは、プラットフォームの中心に企業活動の血液となる「データ」を配置し、その上の「UI/UX」層は、SaaSやPaaS積極的に利用することで俊敏性を確保してアジリティを担保した。

 さらに上の層にある「業務モジュール」はマイクロサービスをうまく活用しながら実装し、さらに、各レイヤーをインフラ的にも分離することでセキュリティを担保する設計となっている。

【次ページ】ホテルの基幹システムの本質は「オーダーメイドの製造業に近い」
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