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  • 2025/01/21 掲載

【単独】東大・三浦氏が嘆く「日本の科学」、時間もお金も「無さすぎる」マズイ現状

連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション

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未知の現象に挑む「躊躇しない」姿勢が求められる──東京大学 大学院薬学系研究科 遺伝学教室 教授の三浦 正幸氏は研究の秘訣についてそう強調する。最近の若手研究者や学生はさまざまな研究手法を取り入れることに「躊躇しない」姿勢を持っていると評価するものの、授業やアルバイト、就職活動など時間の制約を課題に挙げる。そして教授や研究者もまた、時間と資金に苦しめられている。今回は、そうした現在の日本における基礎科学の切実な現状について話を聞いた。
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東京大学 大学院薬学系研究科 遺伝学教室 教授 三浦 正幸氏
1960年生まれ。1988年大阪大学理学研究科の博士課程修了。1988年日本学術振興会特別研究員、1989年慶應義塾大学医学部助手、1992年NIH(米国立衛生研究所) Fogarty International Research Fellow、1995年筑波大学基礎医学系講師、1997年大阪大学医学部助教授。2001年理化学研究所脳科学総合研究センターチームリーダーを経て、2003年から現職。

功績を残す秘訣は「躊躇しない」

──(大隅基礎科学創成財団 理事 野間 彰氏)前回のお話からも三浦さんのこれまでの研究がいかに革新的なものであるかがよくわかりました。そうした高い業績の背景にある考え方や、これまで意識して実践してきたことなどについて聞かせてください。

三浦 正幸氏(以下、三浦氏):まず1つ言えるのは、研究に関してはさまざまな点で躊躇しないことですね。明らかにしたいことがあれば、知らない人でも会いに行って議論し、助けを借り、そして必要と判断したら自分の研究対象を(私の場合は)マウスからハエに変えたりもします。

 また研究の進め方は、技術の進展によって変わってきます。そこで、イメージングやオミクス解析、先端の遺伝学など最高の技術で挑みたいと思えば、その技術を持っている研究者に積極的に連絡をとるようにしています。最新の技術というのは、自分も含めて多くの人は素人なので、開発者に聞くことに対する躊躇はありません。

──三浦さんの躊躇しない姿勢の背景には何があるのですか。

三浦氏:知りたいという気持ちです。高校の時に、岡田節人さんの「細胞の社会」という本に出会って発生を深く知りたいと思いました。この本にはタイトル通り、細胞はみんな同じではなく、会話し連絡し合って、社会を作っているということが書いてあります。優れた社会を作る時には会話が欠かせないのと似ています。いろんな人に聞いていくことで知りたいことの理解が進むのです。


 線虫の細胞死遺伝子と類似の遺伝子を哺乳類で発見した後は、体の中で起こるアポトーシスの研究がしたかった。細胞が死ぬ意味が知りたかったのです。それと、私の研究のスタートは都立大理学部ですが、研究室で使える予算や機材が限られていたこともあり、全部自分でやることが基本ですが、研究を進めるには、人に聞く、人と協力するしかなかったことも影響していると思います。逆にこのような環境のおかげで、研究は自由に展開するのが当たり前、ということを駆け出しのころに身につけることができたのではないかと思います。

──そうなると、研究者を取り巻く環境が重要になりますね。

三浦氏:そうですね。私が以前に所属していた理化学研究所には、同じ建物に生体イメージングのトップサイエンティストである宮脇 敦史さんがいたので、気軽に相談できました。飛び抜けた技術を持つ研究室があると、そこが核になって、周りの研究室が新しい展開を見せるということはよくあることです。このような研究を取り巻く身近な環境から、他ではできない高いレベルの研究や特徴が醸し出されるのではないでしょうか。

 しかし、レベルの高い研究が近くで行われているにもかかわらず、あまり交流が進まないケースが往々にしてあるのも事実です。1人のPI(主任研究者:Principal Investigator)がすべてを仕切る体制では、そのPIが周りの研究に興味をもたないかもしれず、なかなか難しいです。ただ最近では研究室メンバーの自主性を重んじるPIも増えてきているので、ラボ間の交流も気軽にできるようになってきた印象があります。

 しかし常にベストな環境にいられるわけではありませんので、そこで先述した躊躇することなく行動することが重要になってくるのです。

最近の学生は「躊躇しない」を実践しているが…

──三浦さんが携わっているような基礎科学の領域について、最近の学生の傾向についてどう見ていますか。

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聞き手の大隅基礎科学創成財団 理事 野間 彰氏

三浦氏:まず良い傾向からお話しすると、いまの学生は、私たちの世代とは異なり、先述した「躊躇しない」を自然と実践していますね。特にデータサイエンス、イメージング、AI技術の進展が、研究に新たな風を吹き込んでいるのは顕著で、それらを積極的に取り込んで研究をしています。

 若い人たちは、AIを活用することにまったく躊躇がなく、観察や分析といった「泥臭い」作業に依存していた時代から、データ解析のようなドライなアプローチにも迅速かつ積極的に対応しています。彼らの分野を超えたキャッチアップの速さには、正直、私たちの世代では追いつくのが難しいでしょう。

 また、いまの若い人たちは海外への関心も高く、国際的なフィールドに挑戦しようとするハードルもほとんどありません。学生のうちから世界に飛び出していく姿勢が見られます。

 一方で、若い世代の人々は新しい分野に進む際に知識を重視していて、知識がないと不安を感じる傾向があると思います。そしてそうした姿勢からか、書籍にも論文にも載っていないような未知の現象に対して、積極的に興味を持って研究をすすめる人は少なく、生物と直接向き合う時間が減っているように感じます。生物は私たちが考えるよりもはるかにスマートに、さまざまな方法で生きています。それを観察して生物から技を教えてもらうチャンスを増やした方がいいと思います。

 同じ顕微鏡を覗いてスタッフが「これは面白い現象だ」と大興奮している場面でも、学生たちは、なんで興奮しているんだろう、といった場面に出会ったりしますから……。この点については、生物学への探究心が新しい世代にどう根付いていくのか見守りたいところです。 【次ページ】基礎科学には「人もお金も」集まらない…
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